四方を断崖絶壁に囲まれ、日本に数多くある離島の中でも最も上陸が困難とされる「青ヶ島」。そこでの日々の暮らしを伝えるYouTubeチャンネル「青ヶ島ちゃんねる」が人気を博している。
発信者である佐々木加絵さん(40歳)の飾らない語り口と実年齢を疑う美貌も相まって、チャンネル登録者は16.6万人(2024年7月10日現在)。動画視聴をきっかけに青ヶ島に魅了され、訪れる方も増えたという。
前回の記事に引き続き、青ヶ島での暮らしの実情や魅力、東京本土との違い、今後の展望などを佐々木さんに聞いた。
◆簡単に上陸できないことが魅力
――青ヶ島ちゃんねるはチャンネル登録者が16.6万人(2024年7月10日現在)。佐々木さんが投稿される動画をきっかけに、青ヶ島に旅行したい、住みたい、という方も多いのでは?
佐々木加絵(以下、佐々木):けっこう多いと実感していますが、行きたいと思っても簡単に行ける場所ではないので。ある程度の時間を確保しなければいけませんし、往復の交通費も高いですから。民宿も少なくて来られる人数も限られていますし……。でも、青ヶ島ちゃんねるを見て移住してきた方は2~3人いますよ。
――上陸するまでが難しい、ということも青ヶ島の魅力ですからね。
佐々木:そうですね。仮にあまり知られていない陸続きの地域のことを投稿する人気のYouTubeチャンネルがあったとして、めちゃめちゃ人が来ると思うんです。ただ、青ヶ島の場合は簡単に行けない(笑)。でも、それぐらいがちょうどいいかなと思いますけどね。
◆宿が決まっていないと乗船を断られることも
――佐々木さんのお母様が民宿「かいゆう丸」を運営されているとのことですが、島には何軒の民宿がありますか?
佐々木:あまりないですよ。現在営業しているのは4軒です(2軒が休業中)。
――そうなると、島に着いてから民宿の予約などをしようとしても、対応が難しそうですね。
佐々木:無理ですよね。青ヶ島行きの船だったり、交通機関を利用する際に宿の予約をしているかを聞かれるんです。宿が決まっていないと乗船を断られてしまいますよ。なので、民宿や交通機関は前もって調べておいてほしいですし、キャンプ場も予約が必要なので注意していただければと。ただ、ある程度旅が好きな方、離島への旅に慣れている方はちゃんと調べてから来られますよね。青ヶ島の歴史だったりもリサーチ済だったり……。本当に島が好きで、島のことを大事にしてくれる人に来てもらえるとうれしいですね。
◆若い人たちからの注目も実感
――島の暮らしの魅力はどんなところですか?佐々木さんは東京本土での暮らしも約20年と長かったので、暮らしの違いについて色々感じていることがあると思いますが。
佐々木:若い時に何かにチャレンジするなら、やっぱり東京本土の方が色々な可能性がりますし、東京本土にしかない仕事も多いですよね。ただ、青ヶ島も東京都ですし、例えば新しく事業を立ち上げようとなれば、助成金とかもあったりするんです。何をやりたいかにもよりますが、人によっては島の方が色々始めやすい場合もあると思います。隣の八丈島でも色々な事業をされている方がいますし。
短所を挙げるなら、やっぱり人が少なすぎることじゃないですか(156人 ※2024年1月1日時点)。それが長所でもありますけどね。人が少ないからこじんまりと暮らせて、人との繋がりも実感できますし、子供たちも安心して暮らせるのがいい部分だと思います。ただ、例えば飲食店をやろうとなっても、150人ちょっとだと食べていくには厳しいかな……みたいな。そこは短所かもしれないですね。
――青ヶ島ちゃんねるの影響もあり、実際に移住されてきた方もいるそうですが、そういったことが動画を投稿される上での目標のひとつにもなりますか?
佐々木:目標というか、やっぱり移住者が増え、人口が増えるというか……人口を減らさないようにするっていうのことが大事なのかなと。私みたいに色々な活動をしている人間がいると分かると、「自分にも何かできるかな」という感じで若い人たちが連絡をくれたりするんです。青ヶ島は若い人たちからも注目されていると実感しますし、移住される方も今後増えてくると思います。
◆移住者と地元民の間のクッションになりたい
――青ヶ島に移住したいという方は今も多い?
佐々木:移住を考えているという方は結構いますね。村の方では住宅を急ピッチで建ててくれていますし、住む場所さえできればあとは何とでもなるかなと。それと、青ヶ島は起業家の方たちからビジネスの面でも注目されているみたいで。何か新しい取り組みを進める上で、人口が150人ぐらいだと実証実験みたいなこともやりやすいみたいなんです。私はよくわからないのですが。
――移住を考えている起業家の方と佐々木さんが協力して何かをやることも?
佐々木:あり得るかもしれません。そこで私にできることといえば、地元民としての立ち回りというか。そういう外部の方たちが急に来られても理解を得られないと思うのですが、私が間に入ってクッションみたいになれたらいいのかなと。「あの方たちは怪しくないよ」みたいな(笑)。
やっぱり知らない人が急に来て何かをやろうってなっても結構難しいと思うので。逆にちょっと変な人が来た場合は、「何をしようとしてるんですか?」と私がちゃんと阻止しますし、話し合ってみようかなと。やっぱり今住んでいる方々の生活が一番大事だと思いますし、そのスタンスは変わらないですね。
◆おばあちゃんになるまで続けていたら「面白い」
――青ヶ島ちゃんねるは、今後どんな展開をイメージされていますか?
佐々木:青ヶ島で暮らす私がおばあちゃんになっていくまでをお届けできたらいいかなと思いますね。ただ、視聴者さんたちの年齢層が高いので、私が年老いた頃に皆さんが生きているかどうかはちょっとわかりませんが……(笑)。
――それは視聴者さんにとってうれしいことですね。ただ、続くと思われていたYouTubeチャンネルが、予期せず唐突に終わるケースもありますよね。その心配はなさそうですか?
佐々木:私の場合は続けていける内容だと思うんです。肩肘張って企画を考えたりせず、日常をそのままお伝えしているだけなので。私がおばあちゃんになるまで続けていたら面白いと思いますよ。過去の動画を見返して見た時に「昔はこんなに若かったんだね」ってなると思いますし。
◆東京本土は「人が多すぎる」
――佐々木さんは実年齢よりもかなり若く見えますが、歳を重ねてもひょっとしたらあまり顔が変わらないんじゃないですか(笑)?
佐々木:それはそれで面白いと思いますが、例えば80歳で顔が変わらなかったら怖いですね(笑)
――この先も青ヶ島での暮らしを動画で配信していくとのことですが、東京本土に戻りたい気持ちはないですか?
佐々木:いやぁ、やっぱりたまに行くと人が多すぎますしね。
――最近の動画で拝見したのですが、東京の蒲田のお店で飲んでいましたよね?
佐々木:ああいうお店とかにたまに行く分にはいいかなと。やっぱり食べ物とか色々あるのはいいですしね。ただ、生活するのは大変だと思います。やっぱりお金もかかりますし、東京本土での暮らしに戻るというのは……無理ですね(笑)。
◆“第二の故郷”みたいに思ってもらえれば
――東京本土のご友人も多いと思いますが、たまにお会いされたりしますか?
佐々木:たまに島に遊びに来てくれたりもしますね。でも私も40歳なので、私の友達も家族がいたりとか忙しくしているので、そんなに頻繁には会っていませんね。
――個人的な夢だったり、青ヶ島の未来についてでもいいのですが、何かイメージされていることはありますか?
佐々木:夢というか……私は今の暮らしにすごく満足していますし、島の暮らしは本当に豊かなだと思っているので。動画も青ヶ島に少しでも興味がある方に届けばいいなと思っていますし。都会での暮らしが好きな方に「青ヶ島の暮らしはいいですよ」と言っても、まったく響かないと思いますしね。
ただ、あまりにも注目度が高まって来る方が増えても、受け入れるキャパがないので。逆に島の人に迷惑かかるようなことになってもまずいな、という気持ちもあります。青ヶ島ちゃんねるをきっかけに青ヶ島に観光で来てくれた方が、その後も何度も来たいと思えるような、“第二の故郷”みたいに思ってもらえるとうれしいですね。
<取材・文/浜田哲男>
【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton