「撮影罪」施行から1年も“盗撮被害”は増加の一途…専門家が指摘する「卑劣な犯行」が減らない“根本的要因”

盗撮被害が増加の一途を辿っている。2023年7月13日に「撮影罪」が施行されて丸1年が経過。ピンポイントの法律誕生で、盗撮の抑止力になると期待もされたが、盗撮の検挙件数は前年比(2022年=5737件)1196件増の6933件となり、より加速させる結果となった。

迷惑防止条例による検挙が多い理由

警察庁による全国の盗撮検挙件数をさらに詳細にみると、「撮影罪」によるものが1203件、従来の「迷惑防止条例」によるものが5730件となっている。

「昨年7月に施行された新しい法律である撮影罪は、最大で懲役3年です。一方、迷惑防止条例の罪は、懲役1年未満程度。厳罰化によって犯罪の抑止効果を狙ったはずなのに、撮影罪を適用した例は全体の20%ほどにとどまっています。警察が盗撮への対応に真剣に取り組んでいるのか疑問を感じざるを得ません」

撮影罪施行後のこうした状況に不満をにじませるのは、一般社団法人全国盗撮犯罪防止ネットワーク(全盗防ネット)理事長の平松直哉氏だ。

平松氏はこうした結果を踏まえ、よりピンポイントに盗撮が対象となる撮影罪での検挙は、その分証拠をそろえづらく、被害者を特定しづらいケースも多く、その結果、「運用しやすい迷惑防止条例を適用するケースも多いのでは」と推察する。

警察の隠蔽体質に不信感

唯一の盗撮犯罪対策専門組織として、24年にわたり盗撮犯罪の撲滅に奔走する平松氏。それだけに、不満の矛先は警察組織の隠ぺい体質にも向けられる。

「盗撮犯罪でよく耳にする組織トップ3は、警察、学校、病院です。どこもやろうと思えばいくらでもできる状況にありますからね。ただ、こうした組織は共通して隠ぺい体質の傾向にあります。おりしも鹿児島県警の問題で明らかになったように、警察は組織の悪い部分は徹底して隠す体質なんです」

鹿児島県警の問題とは、同県警が警察関係者の犯罪を内部告発した元幹部を逮捕し、その情報提供先メディアにも強引な家宅捜索を敢行するなどした件。その際に警察官による盗撮の隠ぺいも明らかになっている。

平松氏が憂慮するのは増加の一途をたどる盗撮が、こうした状況もあり、減少どころか撲滅から程遠い状況にあることだ。

盗撮を軽くみてはいけない2つの理由

そのうえで平松氏は、盗撮を軽くみてはいけない2つの理由をあげる。

「平成27年(2015年)度版犯罪白書には、性犯罪者の類型別再犯率がまとめられています。それによると、盗撮型の再犯率は36.4%。これは、他の犯罪類型に比べ大きい数字といえます。盗撮は性的な“依存症”であるとも言われており、治療が必要とされています。また、盗撮を犯罪として認識せず軽く見ている人がいることも原因のひとつだと思います。しかし、被害者が受ける心の傷はとても大きく、決して許されない犯罪です」

盗撮を減らすために“施設・企業単位”の動きも必要

多くの盗撮現場に足を運び、その実情をリアルに熟知しているだけに、平松氏の指摘は重い。一体どうすれば、盗撮被害を減少に転じさせ、将来的に撲滅へともっていけるのか。

「いくつか思うところはありますが、まずそもそも盗撮が起こらないようにすることが肝要です。そのためは、施設や職場単位で、盗撮に対する意識を高めていくしかありません。いつだれが盗撮をするか分からないというくらいの問題意識を社員に持たせるべきです」(平松氏)

施設や企業が従業員に対し、そこまでする必要があるのかと思えるほど踏み込んだ提言だが、実際に職場での盗撮は、目の前の同僚が机の下からなにくわぬ顔をして、仕込んだ盗撮用カメラで、下着等の撮影をするケースも少なくないという。更衣室やトイレなども、危険ゾーンであり、異変を感じたらすぐに上司などへ報告する体制を構築しておくことは、対策として有効という。

全盗防ネットでも、施設や企業に対し、盗撮対策に取り組んでいる組織を認定するマーク等の発行を検討している。これらについて、前向きな企業がある一方で、打診レベルでは、自社に盗撮があることを認めていると捉えかねられない等の危惧から、賛同が得づらい状況という。しかし、撮影法改正のタイミングで、状況によってはそうした企業に対するアクションが義務付けられる可能性もゼロではない。

「正直、あまりに盗撮が多すぎで、私どもも業務が追い付かないのが実状です。盗撮ツールとなる機器の進化、撮影データの裏の流通ルート発達、盗撮犯罪に対する警察対応の手ぬるさ…。本当に厳しい状況ですが、盗撮に対する検挙を強化し、被害者に対して円滑な支援ができるような仕組みづくりだけは優先的に実現してほしい。それがせめても願いです」(平松氏)