晴れでも雨でも“傘”が手放せない――。年々暑さが厳しくなるなか、これもまた、夏の特徴のひとつとなったのではないだろうか。
強烈な日差しや降りしきる雨から身を守る傘だが、時に電車内ではトラブルの火種になることも珍しくない。座席の目の前に立つ人の日傘の先端が膝や太ももに触れたり、雨の日には濡れた傘が衣服や荷物に当たって濡れたりと、不快な経験をしたことがある人も少なくないだろう。
では、トラブルなどをなるべく回避するために、混雑する電車内でどのように傘を持つのが正解なのか。
鉄道会社の見解は?
電車内における傘の持ち方について、まずは鉄道会社でどのように周知しているのか確認した。
JR東日本は「周りにぶつかるという意味では、傘だけの問題ではないことから、傘に特化せず全般的なマナー啓発を行っています」とのこと。
また東京メトロの回答は「推奨する特定の持ち方はございませんが、周囲のお客さまに配慮するようマナーポスターなどで啓発しております」というものだった。
“傘のプロ”によるアドバイス
傘の適切な持ち方について、“傘のプロ”である日本洋傘振興協議会(※)事務局の田中正浩さんにアドバイスを求めると「雨の日の傘に限って言えば、“誰も濡れない画期的な持ち方”というのはなかなか難しいですが、グッズを活用するのはひとつの手だと思います」という。
※ 全国の洋傘製造者で構成される団体。洋傘の品質向上、安全性の確立のほか、トレンド研究や機能性向上の追求により、高付加価値製品の開発に取り組んでいる。
「最近では長傘にも折り畳み傘にも対応していて、かつ使わないときはコンパクトに畳める傘カバーや、水滴をサッとふき取れる布、逆開きの傘など、さまざまなアイデアグッズが種類豊富に出ています。
こうしたものを取り入れるだけでも、濡れた傘を快適に持ち運べますし、周囲の人に触れてしまってトラブルになるリスクも減らせるのではないでしょうか」
スマホに夢中で「他人に当たっている」ことに気づかない人も…
田中さんは、電車内で他人に傘の先端を当ててしまうことだけでなく、たびたび問題になる“横持ち”についても「長いものを持っているという意識が薄いことが原因ではないか」と指摘する。
「たとえば、普段ゴルフクラブになじみのない人が何らかの理由で街中を持ち歩いたり、そのまま電車やバスに乗ったりすることになれば、『長いものを持っている』『ぶつけたら危ない』と意識して、自然と周囲に気を配るのではないでしょうか。
一方、傘の場合は小さな子どもでも持っている、ごくごく身近な日用品です。自分自身にヒヤッとする体験があれば別ですが、まさかそれが、他人に不快感を与えたり、接触などよって危害を加えたり、場合によっては自分の体を傷つけたりすることになり得るとは、本質的には理解しづらいのかもしれません」
電車内を見回すと、傘を腕に掛けたままスマホに夢中になり、傘の先端が他人の体に当たっていることにまったく気づいていない人もたびたび見かける。
「傘を持っていることを常に意識すること、そしてその先端がどこに行っているのかは、きちんと気にしていただいたほうがいいと思います。とてもマイナス思考にはなってしまいますが、トラブルを起こさないためにどうすればいいのかを考えることが、マナーの原則ではないでしょうか」(同前)
愛着のある傘を持つのも手
最後に田中さんは、傘へ意識を向けるアイデアとして「愛着のある傘を持つこと」を提案する。
「電車内の忘れ物でも傘が非常に多いと聞きますが、意図的に置き去っているケースはともかく、うっかり忘れてしまうのもまた『傘を持っている』という意識が薄いことがひとつの原因でもあるように思います。
愛着のある傘を持つことで扱いも丁寧になるはずですし、ひいてはそれが周囲に配慮するきっかけにもつながるのではないでしょうか。そうなれば、傘を作る側のわれわれとしても、とてもうれしいことです」
“すべてを解決する持ち方”はないものの、少しの工夫や気配りが、不快感や危険、トラブルから身を守ることにつながる。ありふれた日用品に隠された奥深さを垣間見た気がした。