佐野海舟容疑者「示談」が今後の命運決める? サッカー日本代表2人“性加害問題”の根本的な違い

日本サッカー界を相次いで襲った“性加害騒動”の余波が収まらない。独ブンデスリーガのマインツへの移籍が決まっており、サッカー日本代表にも選出された佐野海舟容疑者が17日、不同意性交の容疑で逮捕された。今月2日には、仏リーグアン、スタッド・ランス所属の伊東純也選手が、準強制性交致傷の容疑で書類送検されており、ネット上では「またサッカー界でスキャンダルか…」との声も挙がった。

守備的中盤として、一躍、日本代表の中核的存在となった佐野容疑者。予定通りなら、21日には移籍したマインツに合流し、さらなる飛躍へ向け、大きな一歩を踏み出す直前だった。それだけに、全てを台無しにしかねない最悪のタイミングでの愚行には、ネット上でも「なぜ?」の声が並んだ。

示談の行方が決める佐野容疑者の処分

「事実関係は不明ですが、示談が成立するか否かによって、処分が大きく異なる可能性が高いです」。こう話すのは、刑事事件の実績豊富な荒木謙人弁護士だ。

逮捕された佐野容疑者は、警察署・検察庁での取調べを受け、最終的には検察庁で起訴されるか否か(裁判にかけられるか否か)が判断される。仮に被害者との示談が成立しなかった場合には、起訴される(裁判にかけられる)可能性がある。

佐野容疑者の事件をみると、きっかけは知人男性らと複数の場での出来事、女性の訴えで発覚など、伊東選手の事件と共通点も多いため、ネット上では同列に扱うような書き込みも見られる。しかし、両者の事件の性質は大きく異なる。

「逮捕」佐野容疑者と「書類送検」伊東氏の違い

佐野容疑者は逮捕され、本人も事実を認めているという報道に対し、伊東選手は容疑を否認し、現在、書類送検されている状況にある。

伊東氏の書類送検を報じたメディアもある中で、悪い方向へ進展したと受け取る人もいるようだが、有罪となる可能性は高いのだろうか。

「警察は、犯罪の捜査をした時には、原則として速やかに書類・証拠とともに検察に送致しなければなりません(全件送致の原則、刑事訴訟法246条)。書類送検自体は、通常の手続きですし、最終的には検察官が起訴・不起訴の判断をすることになりますので、裁判になった後に有罪となるか否かとは、全く別の話です」

荒木弁護士が続ける。

「そのような状況であるため、書類送検の段階で、メディアは『犯罪の嫌疑』が当然のようにあったということや、『有罪となることが決まっている』ような印象を持たせるような報じ方をしてはいけないといえます」(荒木弁護士)

書類送検はあくまで法的手続き。その時点では、起訴されるのか、不起訴なのかも決まっていない。だからこそ、メディアは、あたかも有罪であるかのような印象を持たせる報じ方をしてはいけないということだ。

書類送検後の手続き

では、書類送検後は、どのような手続きとなるのか。荒木弁護士が解説する。

「概要としては、
(1)犯罪の嫌疑が認められ、証拠関係から有罪立証ができる場合→起訴へ

(2)不起訴となるのは、
・犯罪の嫌疑が十分認められ、有罪だと証明できる証拠もあるが、検察官の判断で起訴しない場合(示談が成立した場合など)→起訴猶予
・被疑者が犯人だと認定するための証拠が不十分である場合→嫌疑不十分
・告訴の取り消し(告訴をした者が、告訴を取りやめる意思表示をする)
・その他

となります」

この起訴・不起訴の判断はいつごろされるのか。

「認め事件(犯罪を認めている事件)ですと、1か月前後で判断が出ることが多いですが、仮に否認事件(犯罪を認めていない事件)であった場合、数か月の期間を要する可能性があります」と荒木弁護士は展望する。

伊東氏「不起訴」の可能性

また、伊東氏のケースでは、代理人が書類送検時に「不起訴の見込み」と話したとされる。実際のところ、弁護士は依頼人の起訴・不起訴の見込みについて、どの程度予想することが可能なのか? 

「手元にある資料と本人の供述のみでしか判断できないため、一概にはいえないものの、被疑者本人から詳細な話が聞ければ、ある程度は想定できると考えられます」(荒木弁護士)

いずれにせよ、両者の命運がこの数か月で決することは間違いなさそうだ。

両事件とも、まだ全容は判明しておらず、多くが分かっていない状況にある。だが、両名ともに量刑が非常に重い犯罪についての嫌疑をかけられている。

ピッチ上では、超人的プレーでチャンスをものにし、ピンチを摘み取って結果を出すことができても、プライベートの言動によって、いままで築き上げてきた地位や信頼を失いかねない…。

日本サッカー協会の宮本恒靖会長は佐野容疑者の逮捕を受け、「再度教育していく必要性」について話したとされる。築き上げてきた大事なものを失わないためにも、著名人にかかわらず、プライベートについては、一人ひとりがより慎重に、よく考えて行動する必要があるといえるだろう。