ヴァン クリーフ&アーペルの書籍刊行記念展で「宝飾芸術の歴史」を追体験

ヴァン クリーフ&アーペルが書籍「The Van Cleef & Arpels Collection(1906 – 1953)」を刊行した。メゾンの歴史的コレクションを網羅する全2巻のうちの第1巻であり、1906年から1953年までのジュエリーやオブジェなど約700点、アーカイブ資料約200点が、歴史的、芸術的、文化的背景を踏まえて緻密(ちみつ)に検証された。6月下旬にパリで刊行を記念した展示が行われていた。ヴァン クリーフ&アーペルが紡いできた宝飾芸術の歴史を追体験できる、貴重な内容だった。

コレクションピースを科学的に研究した書籍

ヴァン クリーフ&アーペルには、メゾンにとって歴史的に重要なアンティーク作品を買い戻して収集を行う、パトリモニー部門が存在する。収蔵された作品群「ヴァン クリーフ&アーペル コレクション」は、現在2,700点を超えるハイジュエリー、ジュエリー、タイムピース、貴重なオブジェで構成され、1906年の創業以来のメゾンの創作活動の軌跡を今に伝えている。これらを紹介する展覧会に合わせた書籍の出版は過去にも行われたが、包括的にまとめた書籍が刊行されるのは今回が初めてだ。20世紀前半に焦点を当てた本書では、代表的な作品を制作された時代の文脈において読み解きながら丁寧に紹介している。


今回刊行された「The Van Cleef & Arpels Collection(1906-1953)」
©Van Cleef & Arpels

本書の刊行を記念し、パリ9区グラン・ブールヴァール地区にある歴史的建造物「オテル ド メルシー=アルジャントー」にて、書籍に収められた作品やその時代背景を紹介する展示が行われた。ヴァン クリーフ&アーペルは「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」を通じ、一般に広くジュエリー文化を伝える活動を行っているが、「オテル ド メルシー=アルジャントー」はパリにおける2拠点目として今年開設した場所でもある。展示では、本書の構成と同様に、「The creative boom(1906 – 1925)(クリエイティブの沸騰期、1906年~1925年)」、「A unique identity(1926 – 1937)(独自のアイデンティティの確立、1926年~1937年)」、「From Paris to New York(1938 – 1953)(パリからニューヨークへ、1938年~1953年)」の3章に分けて、コレクションピースが紹介された。没入感のある空間で歴史を追体験しながら実感するのは、宝飾芸術がそれぞれの時代の生活様式、価値観、あるいは他の芸術形式と密接に結びつき、歴史そのものの一部を担ってきたという事実にほかならない。今回展示された、各章の象徴的な作品を紹介する。


「オテル ド メルシー=アルジャントー」で行われた刊行記念展

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第1章 クリエイティブの沸騰期(1906年~1925年)

最初に登場した作品は、ジュエリーでもウォッチでもなく、オブジェだった。ヴァン クリーフ&アーペルは、早くから貴重なオブジェの制作によってもその名を博していた。19世紀後半のニューヨーク上流社会で有名であったユージン・ヒギンス氏の依頼により1906年に制作されたのが、帆船「ヴァルナ オブ ニューヨーク」号のスケールモデルだ。ジャスパーを掘り出して作られた荒波の上で航海するヴァルナ号の舷窓(げんそう)は、ホワイト、グリーン、レッドのエナメルで表現された。この彫刻には当初、煙突の中に執事を呼び出すための電動式呼び鈴が組み込まれていたという。


ヴァルナ ヨット スケールモデル(イエローゴールド、シルバー、ジャスパー、ウッド、エナメル)1906年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels

1925年にパリで開催された現代装飾美術・産業美術国際博覧会は、アールデコの始まりとされ、美術史上重要な出来事だ。ヴァン クリーフ&アーペルがこの国際博覧会に出品した「絡み合う花々、赤と白のローズ」ブレスレットは、ジュエリー部門でグランプリを受賞したセットの一部だ。当時、18世紀の伝統的なフランス芸術が広く愛好されるようになったことを背景に、バラのモチーフに対する関心が再びよみがえっていた。このブレスレットに落とし込まれたバラは、メゾンがアールデコに傾倒していたことを物語っている。


絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット(プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド)1924年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels