ヴァン クリーフ&アーペルの書籍刊行記念展で「宝飾芸術の歴史」を追体験

ヴァン クリーフ&アーペルが書籍「The Van Cleef & Arpels Collection(1906 – 1953)」を刊行した。メゾンの歴史的コレクションを網羅する全2巻のうちの第1巻であり、1906年から1953年までのジュエリーやオブジェなど約700点、アーカイブ資料約200点が、歴史的、芸術的、文化的背景を踏まえて緻密(ちみつ)に検証された。6月下旬にパリで刊行を記念した展示が行われていた。ヴァン クリーフ&アーペルが紡いできた宝飾芸術の歴史を追体験できる、貴重な内容だった。

第2章 独自のアイデンティティの確立(1926年~1937年)

第2章は、アルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの娘であるルネ・ピュイサンがアーティスティック・ディレクターに就任した1926年に始まる。彼女により、装飾芸術の様式的な発展と歩を合わせ、独創的なスタイルの作品が制作された。1930年代にメゾンが制作したミノディエールとよばれる小さなケースには、女性が外出時に必要となるさまざまな小物を収めるコンパートメントが備えられた。


ミノディエール(プラチナ、イエローゴールド、ラッカー、ダイヤモンド)1935年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels

1936年に制作されたフラワー ブローチは、本書の表紙に採用された作品だ。重ね合わされた2枚の葉のうち、下側のモチーフの幾何学的なラインからは、アールデコの特徴が見て取れる。上側のモチーフの自然な表情は、石を留める金属構造が表から一切見えないミステリーセット技法により生み出されている。1933年に特許を取得したこの技法は、メゾンの技術関心を示すものであり、その後さまざまな造形に応用され、スタイルに影響を与えた。


フラワーブローチ(プラチナ、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ミステリーセット ルビー、ダイヤモンド)1936年/ヴァン クリーフ&アーペルコレクション
©Van Cleef & Arpels

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第3章 パリからニューヨークへ(1938年~1953年)

ヴァン クリーフ&アーペルは、1939年のニューヨーク万博で、形を変えるジュエリー「パス パルトゥー」を発表した。花のモチーフが自然主義的な図像を彷彿(ほうふつ)とさせる一方、チェーンは工業デザインを想起させる。この二つを巧みに組み合わせ、ジュエリーのスタイルの既成観念を一変させた。


〈左〉リストウォッチ、二つの取り外し可能なクリップ付き(イエローゴールド、ホワイトゴールド、ルビー、サファイア、イエローサファイア)1939年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション 〈右〉パス パルトゥー ジュエリーを紹介するヴァン クリーフ&アーペルの広告、1939年/ヴァン クリーフ&アーペル アーカイブス
©Van Cleef & Arpels

1950年代に入ると、ジュエリーの門戸が広がり、気軽に身に着けられる画期的なコレクションが生み出された。ウィンク キャットをはじめとする、アニマルモチーフのクリップがその例だ。新しい顧客層をターゲットに「ラ ブティック」のコンセプトが発表された1954年を重要なターニングポイントと位置づけ、その前年にあたる1953年までを本書第1巻で網羅する時代としている。


〈左〉パイエット バレリーナ クリップ(イエローゴールド、ローズゴールド、ホワイトゴールド、プラチナ、ダイヤモンド)1953年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション 〈右〉ウィンク キャット クリップ、1953年制作の作品に類似したモデル(プラチナ、イエローゴールド、エメラルド、ルビー、オニキス、ダイヤモンド)2007年/ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
©Van Cleef & Arpels

本書はフランス語版、英語版、中国語版で発行され、書店やブティック等で販売されている。発行元であるアトリエEXBのオンラインサイトで購入することも可能だ。このほか、ヴァン クリーフ&アーペルのオンラインサイトでは、本書で紹介されている多数の作品を網羅した没入感あるコンテンツを無料で楽しむことができる。動画やポッドキャストも含む、充実した内容だ。第2巻では1954年から2000年までを網羅する予定で、今後2年間かけて編集に取り組んでいくという。


「オテル ド メルシー=アルジャントー」に開設した「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」。本書を購入できるブックストアやライブラリーも併設されている。
©Van Cleef & Arpels

text: Shunya Namba @Paris Office

・心躍る記念日のタイムピース
・「自分らしさ」で選ぶ、最愛のエンゲージリング