7月16日、東京都内の都立高校で「激辛ポテトチップス」を食べた高校生15人が体調不良を訴え、うち14人が吐き気や口の痛みなどを打った、救急搬送された騒動。高校生たちは大事に至っていないようだが、限度を超えた辛さが物議を醸している。
有名ユーチューバーも「めっちゃヤバい」
商品は、磯山商事(茨城県鉾田市)が製造販売している「18禁 カレーチップス」。社会部記者がこう話す。
「この商品は、2007年にギネス記録でハバネロを抜き、タバスコの200倍の辛さがあり、“世界一辛い唐辛子”と認定された『ブート・ジョロキア』を使用しているとの触れ込みです。
そのパウダーをポテトチップスに振りかけて食べるもので商品サイトには『18歳未満は食べるの禁止!!』『成人向け』などと記されています」
かつて同商品を動画で試食していたユーチューバーのヒカキンは、あまりの辛さに「めっちゃヤバい」、「デスソースよりヤバいかも」、「胃がめっちゃ熱い」と動画内でもんどりうっていた。
あまりの“ヤバさ”にイタズラとかでは絶対に使ってはいけないとして、「辛さを分かってて、罰ゲームとかでひとかけらだけ食べるとかかな? それ以外使い道、ナシ」と警告していた。
一方、発売元の磯山商事は、7月17日に、公式サイトで、同社の代表取締役の磯山広行氏名義で以下の謝罪文を掲載した。
「本日、18禁カレーチップスを召し上がった高校生が病院へ救急搬送されたとの報道に接しました。お客さまはじめ、関係各位に対し多大なるご迷惑をおかけいたし申し訳ございません」
(磯山商事の公式サイトより)
「法令には抵触しない」
こうした騒動に関して、製造元や販売元は何か法的な責任に問われることはないのか。あるとすれば、どのような法令に抵触する可能性があるか。多くの犯罪事件に対応する杉山大介弁護士はこう話す。
「私は法令には抵触しないと考えます。まず規制法関係で言うと、表示に問題がなかったかという点がテーマになりますが、食品衛生法上の表示義務違反はないようです。また、義務ではないのですが、パッケージにもさまざまな注意喚起をしている様子もうかがえ、万人が食べることができない、〝毒物〟を売ったというわけでもないとすると、これを契約不適合な売買とか不法行為と評価するのも違和感があります」
確かに商品サイトやパッケージには、「辛すぎますので、18歳未満の方は食べないでください」「高血圧、体調不良、胃腸の弱い方は絶対に食べないでください」などの注意喚起がなされている。
反対に、これが逆プロモーションになっているとも考えられるが、食べた側の生徒(18歳以下)に何かの責任が問われる可能性などはあるのか。
「食べたことで責任は問われませんね。私はそもそも違法性がなく損害賠償の対象にもならないと考えますが、仮に違法行為によって損害が認められるという評価の場合、『被害者側の責任もあって生じたことだから過失相殺』といった形になるかと思います。つまり損害賠償請求などに至った場合、〝18歳未満は食べてはいけないと注意喚起していた〟との理由から、大きく減額事由にはなると思います」(杉山弁護士)
法律が介入して“コントロール”すべきか否か…
「激辛スナック」に関する騒動は過去にも起きている。
2023年には米マサチューセッツ州の14歳の少年が、激辛チップスを食べた後に死亡。日本でも、2019年、「デスソース」と呼ばれる激辛の香辛料をトマトジュースに入れて飲んだ長野県の高校生9人が病院に搬送されたことが報じられている。こうした“食中毒未満”の「激辛騒動」はたびたび起こっているのだ。
「激辛メニューと誓約書の話などは、リーガルの場面で過去に話題になったことがありますね。飲食店として人の体調や健康を害する可能性があるものを提供して良いのかという議論はありましたが、それをすなわち、『違法』とまで評価できるかというとそうではありません。
このスナックも、食べられる人たちはなんとか食べられて、特に体調を崩している訳ではないんですよね。そこに法律が介入してコントロールすべきか否かはやや慎重ではあるべきだと考えます。しかし、どういう注意喚起をするべきかを法律で規定することは検討しても良いとは思います」
杉山弁護士は、例えばヨーロッパでは、タバコのパッケージに、毒々しく傷ついた内臓写真の表示が義務付けられている例を挙げる。
「タバコやお酒などのさらに“有害”なものとの比較も加味して、現状の日本の法律と照らし合わせて考えると、今回、販売元がしていた表示でも十分な気はします。まあ、あえて重く踏み込むなら、その商品や他の激辛商品を食べたことによる死亡事例、傷病事例などを列挙することが考えられます。ただ、それでしたら、まず酒でそれをやるべきという考え方もありますよね」
「激辛商品」に関しては「注意喚起」を十分に熟読したうえで、口にするかどうかの最終的な判断は、「自己責任」というのが現実的なところのようだ。