ブドウ畑では、 粒が少しずつ大きくなってゆく季節を迎えています。春から初夏にかけて彩られる若草色から、本格的な夏を迎え、緑の色合いも濃くなりました。夜になると、上空に天の川が広がります。
今回は、ワインと相性の良いとされるチーズについて、お話を書いていこうと思います。昨年のことになりますが、東京でうかがったレストランで懐かしいチーズに再会しました。スペインとの国境付近で作られているフランスの羊乳チーズ「オッソーイラティ」は、ボルドー留学時代に親しんでいたチーズでした。
フランスでは、その土地ならではのチーズが生産されている地域が多かったのですが、ボルドーには特産のチーズがないせいか、食卓では同じ地域圏で作られているオッソーイラティがワインとともに楽しまれていました。ボルドーのワインとオッソーイラティには、産地に根付く深い結びつきを感じていました。
フランス人のワインとチーズの消費量は桁外れの多さで、日常に溶け込んでいるものでした。レストランでコースを頼むと、メイン料理の後にチーズが提供されるので、メインのお肉料理で合わせていた赤ワインの名残を合わせることが多く、日本に住んでいた頃は、チーズと言うと赤ワインのイメージが強かったのです。しかし、実際にフランスの家庭では、白ワインに合わせてチーズが楽しまれていることも多いと知りました。家庭での食事後には、「フロマージュ・ブラン」がデザート代わりに選ばれることも多々ありました。
フランスでのチーズの食べ方をもう少しご紹介すると、チーズ単体よりも、チーズにジャムやハチミツなどを合わせることが多く、例えば、オッソーイラティは、同地域名産のエスプレット唐辛子のジュレを付けるのだと教わりました。
ジャムやハチミツ、ジュレの他にも、フランスでは「Pâte de fruits」（パート・ド・フリュイ）という伝統菓子ともチーズは楽しまれていました。あるとき、パリのチーズ専門店「Martine Dubois」に勤務するチーズ専門家、犬田ゆりさんが、「Pâte de fruits」に馴染みのない日本のお客様に「フルーツの羊羹（ようかん）です」と説明していらっしゃっていたことにひらめきを得て、実際に、虎屋のはちみつ味の羊羹とチーズを合わせたこともあります。こんな風に付け合わせをアレンジして楽しむことができるのも、チーズの魅力です。
チーズは発酵食品なので、日本の食卓にも取り込みやすいようにも思います。山梨の郷土料理「ほうとう」は、平打ち麺に野菜を加えて煮込み、味噌（みそ）仕立てのスープで煮込んだ、家庭でもよく食べられる一品ですが、私は、翌日のスープにチーズを入れて味変を楽しんでいます。
私の自宅の冷蔵庫に常備している食べ物の一つがチーズです。スイスやイギリスのチーズなど、フランス以外のチーズも好んで購入しますし、留学から帰国して以来ずっと、日本のチーズ生産者を応援しています。「清水牧場」（長野県）、「アトリエ・ド・フロマージュ」（長野県）、「吉田牧場」（岡山県）、「共働学舎」（北海道）、「三良坂フロマージュ」（広島県）など、ユニークでクオリティの高いチーズを生み出している生産者がいます。
この季節に特に楽しみたいのが山羊（やぎ）乳のチーズです。冬から初春にかけて出産を迎えた山羊が、フレッシュな若草などを食べたミルクで造られるチーズ「シェーヴル」は、初夏になると、旬のチーズとしてチーズショップに並び始めます。
山羊乳のチーズで名をはせるのがフランスのロワール地方です。丘陵地では放牧することが難しい牛や羊と比較すると、山羊はロワール地方のような丘陵地でも育てることができます。私の実家のワイナリーが位置する山梨県の甲州市勝沼町も丘陵地が多く、草刈りを目的として山羊を活用している農家は少なくありません。
まさに、地形を生かし、歴史に基づいたチーズ造りが行われているという点で、自然に近いところで仕事をしている私にとって、共感できるところがたくさんあります。ワイン造りにおいても、地形やその土地の風土を尊重したブドウ栽培を行っているというのがフランスの際立った特徴のように感じます。
犬田ゆりさんは、シェーヴルを最も好きなチーズと挙げています。「甲州（甲州ブドウから造られる白ワイン）は清らかな印象で、白く美しいシェーヴルの断面とリンクする」ともおっしゃいます。私も、さわやかな酸を持つ甲州と、熟成の若いシェーヴルの相性はお気に入りの組み合わせの一つです。
おいしいチーズが食べたくなったら、チーズ専門店でご購入いただくことをおすすめします。1986年に創業したチーズ専門店「フェルミエ 愛宕店」や、首都圏だけではなく、北海道から北陸、近畿、九州にも店舗を展開する「チーズ王国」では、知識豊富なチーズ専門家のお話を聞きながら、好みのチーズを選ぶことができます。
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