ちょっとだけ飲んでから帰りたいけど、わざわざ居酒屋に行くほどではない――。そんなときに重宝するのが「ちょい飲み」のお店だ。吉野家の「吉呑み」を筆頭に、最近ではファミレスやファストフード、大衆中華チェーンなどでもちょい飲みセットを提供するところが広がっている。
日常的に酒場へ通い、酒にまつわる連載や本を多数執筆している酒場ライター・パリッコさん(@paricco)。普段は地元に密着していて、単独ではちょっと入りづらいような個人店を取り上げている彼に、ベタなチェーン店で飲んでもらう連載「パリッコのチェーン店ひとり酒」。
第3回に取り上げるのは、国内外に1500店舗以上を展開し、驚くべき安さとサービスの質の高さで知られる・庶民の味方「サイゼリヤ」。果たしてパリッコさんはどう立ち振る舞うのでしょうか?
◆なにはともあれ「柔らか青豆の温サラダ」
最近、周囲の酒飲みから頻繁に聞くようになった噂がある。それは「サイゼリヤの『ミックスグリル』なる新メニューが、酒のつまみとして優秀すぎる」というもの。 リーズナブルで美味しいカジュアルイタリアンチェーン「サイゼリヤ」。食事はもちろん、飲み屋としてのポテンシャルもすさまじいことは、もはや誰もが知るところだろう。そんなサイゼリヤにおいて、さらに話題になるってどんだけすごいんだ!? これは確かめに行くしかない。
というわけで、おなじみのサイゼリヤにやってきた。
ちなみに、サイゼリヤにおける僕の不動のマストメニューといえば、「柔らか青豆の温サラダ」(税込200円)をおいて他にない。グリーンピースのなかでも青くささやクセの少ない「ベビーピー」という品種を使った、温かいサラダだ。
現在は青豆、温玉、粉チーズという構成だが、かつては粉チーズがなくて、細切りベーコンが入っていた。そこから一度、ベーコンが抜けてペコリーノチーズが加わり、「柔らか青豆とペコリーノチーズの温サラダ」にリニューアルされた後、ふたたび柔らか青豆の温サラダとして帰ってきたのが現在。
わかりやすく言えば、
青豆+温玉+ベーコン−ベーコン+ペコリーノチーズ−ペコリーノチーズ+粉チーズ=現在
というわけだ。自分で書いておいてなんだけど、よけいわかりにくくなってる気もするが。
◆酒飲みなら「グラスビール」を選ぶ
とにかく、紆余曲折はあったものの、原材料の高騰問題などもあるなかで、主役である青豆を残しつつ、値上げもせずに提供し続けてくれている。そのことがとにかくありがたい一品。
この青豆が、ぷちぷちっとしてまろやかで甘みが強く、そこにほどよい塩気が効いていて、やっぱり何度食べてもうまい。
ではこいつをつまみに、さっそくビールから始めよう。メニューにはジョッキとグラスがあるが、ビールとはひと口目が最高にうまい飲みものなので、ここは「グラスビール」(300円)を選ぶ。サイゼリヤのグラスワインは1杯100円。ジョッキビール1杯も、グラスビールとグラスワイン1杯ずつの合計も、どちらも400円。ならば後者を選ぶほうが、酒飲みとしての満足度が高い(ケチくさくてすみません)。
◆「辛味チキン」の新境地
さて、ここであらためてメニュー表をチェックしていこう。近年のサイゼリヤは、酒のつまみ向けの新メニューが増えている傾向にあり、ページをめくるごとに興味深い料理が見つかる。
が、今日の目当ては「ミックスグリル」(650円)。お、あったあった。
なるほど、確かにこれはすごい。これまたサイゼリヤでは個人的定番の「辛味チキン」がふたつに、ポップコーンシュリンプが5本に、ポテトにコーン。そして、中央にどーんとハンバーグ。酒飲みの、いや、子どもたちの、いや、全人類の夢が詰まったメニューじゃないかこんなの。それが650円!? サイゼリヤ、とうとうヤバい領域に足を踏み入れやがったな……。
数分後、実物が届き、そのインパクトに、心のなかで悲鳴をあげた。
◆一瞬混乱してしまった
こ、これはすごい。そりゃあ情報としては知っていたものの、完璧すぎないだろうか、このひと皿。肉料理用の鉄板の上を埋めつくすように並ぶ、どう考えても美味しき者たち。ドミグラスソースがじゅうじゅうと音をあげ、その他の食材に少しずつ触れているところにもぐっとくる。
一瞬混乱してしまってどこから手をつけていいのかわからなくなってしまいつつ、とにかく食べ進めてみる。牛肉100%のハンバーグは、サイゼリヤのってこんなにでっかかったっけ? ってくらいに迫力があり、柔らかくもひき肉のあらびき食感があってうますぎる。さくさくぷりぷりのポップコーンシュリンプも、ソースをまとわせて食べるポテトやコーンも、すべてが優秀すぎる酒のつまみだ。
さらに衝撃が走ったのは次の瞬間。辛味の効いたジューシー揚げ鶏、辛味チキンがサイゼリアにおける僕の大好物メニューであることは先述したが、ミックスグリルにおける辛味チキン、なんと、事前には想像もしていなかった“鉄板ブースト”がかかっていたのだ。つまりどういうことかと言うと、届いて数分してもいまだ熱々の鉄板に触れている面が、ほんのりと焦げている。
これが、通常でも美味しすぎる辛味チキンに、ずっと熱々&メイラード反応というふたつの魔法を加え、かつてないほどに“つまみ力”を高めきっているのだった。う、うますぎる……。
◆1杯じゃ足りないグラスワイン
たまらずグラスワインを追加する。1杯ずつなんてまだるっこしいので、赤白1杯ずつ一気に。
まずは、冷えていたほうが美味しいと伝え聞いている白をごくり。まだまだ残っている青豆サラダとの相性が抜群だ。
あとはもう無心で、目の前にある料理たちをつまみにワインをぐびぐびと飲んでゆく。
途中、ミックスグリルに味変を加えてみよう。フリーの調味料コーナーから、今日は「ホットソース」をチョイス。それを、残り半分ほどとなったミックスグリルの全体に、あくまで雑に(食べる箇所によって味が変わるように)かけてゆく。
酸味と辛味が加わったグリル勢がふたたび頼もしい。白を飲み干したら続いて赤ワイン。
以上、こんなにも楽しくて、こんなにも充実した昼飲みをしてしまっていいのだろうかと、珍しく後ろめたさを感じるほどに堪能してしまった、サイゼリヤのミックスグリル飲み。 ちなみにこれだけやって、本日のお会計合計、まさかの1350円。ええと……僕、夢でも見てたんでしょうか?
<TEXT/パリッコ>
―[チェーン店ひとり酒]―
【パリッコ】
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco