その土地でしか味わえない食や、ものづくりに出合うことは、旅における大きな楽しみのひとつ。さらに、その町に暮らす人たちが織り成すカルチャーに触れられれば、より一層、旅の思い出が心に刻まれるもの。訪れたのは、本州とは気候も植生も異なる南の島、奄美大島。そこでは古くからサトウキビを原料とした黒糖が作られ、バラ科の植物シャリンバイによる泥染めを施した大島紬といったものづくりの歴史がある。アパレルの草木染めなども手がける『金井工芸』の金井志人さんが、奄美市を中心とした北部の町の楽しみ方を伝授。

24の写真で辿る、美しい暮らしのある町・奄美。


夜のみ営業をしている、名瀬の繁華街にある昔ながらの喫茶店『貴望』(奄美市名瀬金久町6−3)。夜でもコーヒーやクリームソーダが飲める。


惣菜店『松坂屋』(名瀬伊津部町19−1)のささみフライ(¥120)。


ひっきりなしに客が訪れる、黄色い看板が目を引く『松坂屋』。コロッケ(¥80)は、特に学生に人気。


神奈川・葉山のショップ『サンシャイン+クラウド』の直営店である『パラダイスストア』(笠利町大字用安1257−12)。島のクラフトや、葉山にない、このショップ限定のアイテムも揃う。


『サンシャイン+クラウド』が経営する宿の部屋。ひとり部屋からある。


宿の共有部分。目の前にはガジュマルの大きな木と、ビーチが広がる。


『水間黒糖製造工場』(大島郡龍郷町中勝1400)の純黒糖。なべかき、サイコロの2種類がある。ともに500g¥1,000。


午前中に訪れると黒糖づくりを見学することもできる。7月~11月中旬は休業。


お土産を買うなら必ず訪れたい総合スーパー『ビッグツー奄美店』(龍郷町中勝 奥間前580)。日用品から食品まで揃う。


『ビッグツー』の”あまみやげ”コーナー。


北部と龍郷町のサイクリングマップ。


レンタサイクルをするなら『島育ち産業館』(龍郷町浦1066−3)がおすすめ。


奄美市公式キャラクターのコクトくんとロビンちゃんが描かれたベンチ。


伝統飲料ミキを手づくりしている島ドーナツ店『あまみ家 とっと』(奄美市名瀬末広町13−8 末広市場内)。プレーン¥500。


『ニャド』(名瀬真名津町13−18)。誠実な作り手によるクラフト作品を販売。


朝7時30分から営業している『サンドイッチカフェあまみ』(名瀬幸町8−2)。


奄美に関する書籍の品揃えは日本一。書店『あまみ庵』(名瀬港町10−1)。


『奄美ブリュワリー』(名瀬港町1−2)が製造するクラフトビール。1本¥780~。


島の旬のフルーツが並ぶ『元治青果店』(名瀬永田町9−3)。お土産に。


〈千 sen〉というブランドで作品を発表する金工造形師・西本卓也のアトリエ(龍郷町芦徳1728−1)。照明などのインテリアや、ジュエリーを制作。


『パラダイスストア』で購入できる〈千 sen〉の繊細なつくりのジュエリー。


いずみ農園直営のジェラテリア『ラフォンテ』(大島郡龍郷町赤尾木1325−3)。島の食材によるジェラート、ダブル¥500。


大島紬村の一角にあるビーントゥバー『ネサリチョコレート』(龍郷町赤尾木1945 大島紬村園内)では、カウンター越しに、コーヒーをテイクアウトできる。


『ネサリチョコレート』の、島の食材を使った風味豊かなチョコレート。

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The Guide to Beautiful Towns_奄美

Uターン世代による、ものづくりの機運に注目。

2021年に徳之島、沖縄県北部および西表島とともに、世界自然遺産に登録された奄美大島。ブルーの羽が美しい鳥、ルリカケスやアマミノクロウサギなど、この地域独自の動物も生息する、大きな自然に包まれた亜熱帯の島だ。

今回の旅の目的地は、島北部。奄美空港からのアクセスも便利な、島の中心エリアである。

東京や大阪からの直行便も運航している奄美空港に降り立つと、ムンとした湿気に体が包まれる。空港から市内に向かう国道沿いにはサトウキビ畑が続き、山や森の緑の濃い匂い、潮を含んだ風が“南の島に来た”という、ワクワクする気分を盛り上げてくれる。

そんな自然豊かな島を案内してくれたのは、伝統的な染色技法である泥染めをはじめとした、天然染色を行う『金井工芸』の2代目、金井志人さん。工房のある龍郷町と、その町を取り囲む奄美市に点在するカルチャーの発信地をガイドしてくれた。

金井さんは、奄美の魅力を一言でいうなら「深い気配」だという。そのひとつが人と自然とのつながり。台風の通り道としても知られ、人の力ではとうていコントロールできない圧倒的な自然が常にそばにあるといった、ある種、根源的な環境でもある。

「最近はあまりありませんが、僕が子どもの頃は台風で家の屋根が飛ぶなどは普通にありました。毒ヘビのハブもいますし、自然のなかに人がいるのが日常なのかもしれません。でも、役割もきちんとあって、台風が来ることで海水が撹拌され、サンゴが生きやすい環境がつくられているんです。染めでも水や植物、泥といった自然のマテリアルを使うので、それらに何かしら影響はあると思っています。停電したり、船が動かせなくて物流がストップしたりなど、不便もあるけれど、そういった厳しい自然環境が生み出した文化が根付いている。なので島の人は、自然をありのまま受け入れているし、共存するといった感覚のほうが生活しやすいのかもしれません」

自然とともにある暮らしから生まれるもの。その背景を知ることも、より旅に深みを与えてくれる。

「そのきっかけとして島の人との出会いを楽しむのもいいですね」

ただ、金井さん自身、その奥深さに気づいたのは、一度島外に出てからだという。

「僕らの世代は島に高校より上がなかったので、大多数の人が一度、島の外に出るんです。僕も音楽の勉強をしに、東京へ出ました。『ウッドワークス キュウ』の今田智幸さんも同級生で、東京に行っていた仲間。戻ってきてから島の木を使った木工作品を作り始めました。これまで奄美では木工をする人がほとんどいなかったので、今後も楽しみ。彼もまた、東京で過ごしたことで、島の良さを再発見したのではないでしょうか」

他にも農園直営のジェラート店『ラフォンテ』の店主や、この地域初のビーントゥバー『ネサリチョコレート』を立ち上げた店主も、奄美出身ながら、東京など首都圏で働いてから島に戻り、自身の店をスタートしている。

「いったん外に出たのは、僕にはいい経験で、島をより俯瞰して感じることができたと思います。U/Iターン、それぞれの個性がこの島で混じり合っていく可能性が今の奄美にはあると思います」

一方で、島独自の文化を伝えるスポットが多く残っているのも、旅に欠かせない魅力となる。

「食事処としてすすめたい『番屋』は、昔なじみの店。いわゆる島料理といわれる店は多いのですが、海鮮をメインに提供しているところはなかなかない。漁港の前にあり、漁師料理という、水揚げされたばかりの魚を中心に新鮮な魚介を食べさせてくれます。ここで、絶対に食べてほしいのがマダ汁。イカスミを使ったお味噌汁で、奄美の郷土料理になります。真っ黒な見た目ですが、クセや臭みがなく、さっぱりと飲めます。他にも黒糖を作っている工程も見学できる『水間黒糖製造工場』など、ここだからこそ体験できる、味や風景も堪能してほしいです」

また、移住して、真鍮を使ったインテリアを作っている金工の〈千 sen〉や、手仕事の品も扱うショップ『パラダイスストア』、今年4月にオープンした『ニャド』などもあり、クラフトに対する注目が徐々に高まってきている。

「長い間、大島紬と黒砂糖に注力していたからか、実はそれ以外のものづくりや手工芸を扱う店ってまだそれほど多くないんです。でも、これだけ自然が身近で材料も豊富と、ものづくりに適した環境がある。なので、何かを生み出す人が増えていると思います。自然遺産だけでなく、その自然がつくり出す奄美の文化に触れると、より楽しめる旅になると思います」

金井志人 染色人

1979年生まれ。高校卒業後、東京へ。25歳で奄美にリターンし、天然染色工房『金井工芸』を継承。アパレルやクリエイターとコラボレーションしながら、伝統工芸の枠におさまらない、染色の可能性を探究する。

Access

奄美空港へは羽田、成田、大阪、福岡、鹿児島、沖縄より飛行機が発着。東京からは約2時間20分。鹿児島市と沖縄本島のほぼ中間に位置する奄美大島の面積は約720㎢。大きく分けて北部、中部、南部に分かれる。北部の中心である名瀬には、奄美市の人口の8割が集まっているという。島内の移動手段は車。

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photo : Sachie Abiko illustration : Junichi Koka edit & text : Wakako Miyake

&Premium No. 128 TO A BEAUTIFUL TOWN / 日本の美しい町を旅する。

旅することの喜びや醍醐味はさまざまですが、そのひとつに、暮らしに彩りを添えてくれることがあるように思います。地元の人々の心の拠り所となっている美しい景色を眺め、アートや伝統工芸などに触れ、ライフスタイルを刺激するセンスのよいショップ、文化を感じる喫茶店や書店、おいしいものに出合える店を巡る……。ひととき日常を離れ、知らない土地の暮らしが感じられる旅に出てみると、その旅を終え、いつもの生活に戻った私たちの毎日までが、いきいきと輝いてくれるから不思議です。今号は、日本各地のカルチャーの息づく美しい暮らしのある町を巡る旅案内。札幌、山形、富山、高松、松江、奄美をはじめ、何度も訪ねたくなる町や、旅先にしたくなる日本全国の素敵な店の数々を紹介します。

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