家族信託で注意すべき点

この事例のように、家族信託は非常に便利で使い勝手が良い制度ということが分かります。では、家族信託で注意することは何でしょうか。

まず、家族信託は、委託者である本人が契約できる状況でなければならない点です。つまり、程度にもよりますが、基本的に認知症になっていたら信託契約を結ぶことができません。また、そもそも受託者として引き受けてくれる人がいなければ成立しないことも大事なポイントです。

受託者は信頼できる人なら子以外でもなれるため、甥や姪といった自分より若い身内にお願いするというケースもあります。しかし、疎遠になっている場合は、現実的に難しいこともあるでしょう。実際に筆者のクライアントでも、家族信託の選択を検討しながらも、受託者が決まらず違う選択をするケースもあります。

次に、家族信託は委託者と受託者との2者間で行い、受益者や相続人などの同意がなくても契約はできるという点です。この場合、上記の例3のように母亡き後、障害を持つ息子にだけ資産を渡すことになると、兄弟が複数いる場合は、他の兄弟が不満に思い相続時にトラブルになる可能性があります。また、例1や例2のような信託契約でも、親が亡くなった後の残った財産をサポートしてくれた受託者だけに渡すことなるなら、不満に感じる相続人がいるかもしれません。

その他、注意しておきたいことは「家族信託は、2006年の法改正により生まれた、まだ新しい制度である」ということです。そのため十分に経験を積んだ弁護士や司法書士などの専門家が少ないということが挙げられます。大事な契約ですので熟知した専門家を探すことが必要です。

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家族信託の手続きや流れ、かかる費用 


ビジネスマンの説明を聴く老夫婦
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家族信託を検討する場合、まずは受託者となる人の合意を得る必要があります。家族信託は、自分が依頼したい財産だけを契約することができるため、どの資産を信託したいのか、どういったことに使ってほしいのか、委託者である自分自身が亡くなった後の残余財産は誰に渡したいのか、といった具体的な信託内容を決めていきます。

なお信託しない資産は、遺言を作成して備えることを検討しましょう。信託契約は、自分で全て手続きをすることもできますが、形式の漏れや内容の不備によって、後々想定外のことが起こる可能性が懸念されます。そのためこのような大切な契約は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのが賢明です。契約書は一般的に公正証書で作成するため、公証役場で手続きをします。

また、現預金を信託したい場合は、銀行等で専用の信託口口座を開設します。金融機関によっては、この信託口口座を開設してくれないこともあるため、その場合は子などの受託者名義で口座を開設し、受託者自身の預貯金と分別管理することになります。自宅などの不動産を信託する場合は、法務局での登記も必要です。

こうした手続きの流れを見ると、何だか煩雑に感じる方も多いのではないでしょうか。しかし実際は、契約内容が決まれば、その他のことは専門家に任せられるため心配はいりません。

筆者も信託契約の締結に立ち会うことがありますが、クライアント自身が手続きに翻弄されることはないようです。大事なのは、信託契約の内容をどうするか、委託者の希望を叶えるために他に起こりうるリスクはないか、を入念に話し合い契約につなげていくことだと思います。

費用の目安は、司法書士や弁護士など専門家へのコンサルティングや契約書作成費用として30万~100万円など、信託する内容や金額によって専門家がそれぞれ定めています。

また公正証書の場合は、公証役場への手数料として3万~10万円、不動産がある場合は登記費用として「固定資産税評価額×0.4%(土地は0.3%)」などが必要になります。