熟年離婚や配偶者の死によって一人暮らしとなった高齢者は、急激な環境の変化が大きなストレスとなり、本人にさまざまな悪影響をおよぼすことが少なくありません。79歳の父親も、3年前に妻を亡くし、悲しみから「驚きの行動」に。父親の異変を感じとった長男が帰省すると、そこにはまさかの光景が広がっていたのでした……詳しくみていきましょう。
父の「こっちは大丈夫だから」に感じた“異変”
剛さん(仮名・54歳)は、大手企業に勤めるサラリーマンです。都内の分譲マンションに、1歳年下の妻と2人で暮らしています。
剛さんの母親は3年前に亡くなっており、現在は79歳の父親が1人、剛さんも高校まで過ごした戸建ての実家に住んでいます。
剛さんが父親と最後に会ったのは約1年前、母親の3回忌のときです。それ以来、仕事が忙しく帰省できていません。しかし月に1度はテレビ電話で安否確認を行っていました。
そんななか、数ヵ月前から父親が「機械の調子が悪い」と、テレビ電話を拒否するようになりました。仕方なく声だけで安否を確認しますが、以前に比べ少し怒りっぽい様子で、「あぁ、なにも変わりはないから」とすぐに切られてしまいます。
ある日、母が亡くなって3年目の命日に備え、久しぶりに実家に帰ろうと日程を相談したところ、父親は次のように言い、遠回しに断られてしまいました。
「あぁ、こっちは大丈夫だから。住職と話してさ、今後は3年と7年ごとに法要をお願いすることにしたから。だから次は7回忌でいいよ。祥月命日や月命日は、住職に来てもらって俺がやっとくから、わざわざ帰ってこなくていい。交通費がもったいないだろう」
これまでは「今度はいつ帰ってくるんだ」と剛さん一家に会うのを楽しみにしていた父親なのに、なにかがおかしい……胸騒ぎがした剛さんは、思い切ってアポなしで帰省することにしました。
次の休日、妻を連れて実家に帰ったところ、父親は留守のようです。持っていた合鍵で引き戸を開けると、そこにはまさかの光景が……。
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剛さん夫婦が“アポなし帰省”で目にした「まさかの光景」
剛さん夫婦が居間に入ると、明らかに使っていない真新しい健康器具や未開封の羽毛布団、高級ゴルフセットなど、溢れんばかりの「物」でギュウギュウになっています。
さらに、お風呂やトイレも剛さんにとっては過度なバリアフリー化が行われ最新設備が施されており、知らないあいだにリフォームが行われていたようです。
「おいおいおい……父さん、なんだよこれ……!」
剛さん夫婦が呆気にとられていると、玄関のほうからガサゴソと音がします。どうやら父親が帰宅したようです。
「……お、おい! なんでここにいるんだ! 誰が来てくれと頼んだ! いますぐ帰れ!」
見たことのない形相で、父親は顔を真っ赤にして怒鳴っています。剛さんと妻は追い返そうとする父親をなんとかなだめ、「大丈夫、怒らないから。なんでこんなことになったのか理由を教えてくれ」と懇願。
しばらくすると、父親は小さな声で、次のように理由を教えてくれました。
「母さんを失ってから、どうにも出かける気にならなくてな……。知り合いにも散歩くらい行けって言われてたんだが、コロナもあっただろ? テレビをつければ不要不急の外出がどうのこうの言ってるし、思うようにいかなかった。
それでさ、家にいても暇で、だんだんテレビばっかり見るようになってな。朝起きると毎日毎日、通販番組で……。そんで、気がついたらこうだ。いやあ、ダメだとはわかってるんだが、どうにもやめられなくてな……」
誰にも話すことができず、ひとりで悩んでいたと思うと、剛さんは怒りより同情の気持ちのほうが大きくなりました。心なしか父親が以前より小さく、寂しそうにみえます。
落ち着いた剛さんはその後、父親の資産状況を確認しました。父親は現役時代消防士で、消防署長まで昇り詰めました。60歳で退職した際には、退職金約2,200万円を受け取り、65歳からは月に約23万円の老齢年金を受給しています。本来であれば金銭的な不安は一切ないはずでしたが、通販やリフォームで散財した結果、父親の預金はすでに100万円を切っています。
「このままじゃ老後破産じゃないか……!」父親の老後に不安を感じた剛さんは、父の古い知人であるファイナンシャルプランナーのもとに連絡。今後のマネープランについて相談することにしました。