月収60万円なのに軽バンでの“車上生活”を続ける28歳Amazon配達員「いつかは地に足をつけた生活をしたい」

 もともと人手不足だった運送業界だが、法律が改正されたことにより長時間労働が規制された。よって稼げなくなったトラックドライバーがさらに稼げる仕事を求めて離れていっている。この悪循環は「物流の2024年問題」と呼ばれている。

 そんな中、人手不足の業界を助けるかのように個人で配送業を行う人がいる。毎日、軽バンに寝泊まりをして暮らしている木村武さん(28歳・仮名)だ。木村さんの主な収入源は2種類ある。個人でアマゾンから直接もらう登録制の「アマゾン・フレックス」と、スタートアップ企業CBクラウドが手掛ける「PickGo(ピックゴー)」という配送プラットフォームを介した、どちらも配送の仕事だ。

 木村さんは配送業をしながら2年くらい家なし生活を送っている。まさにアカデミー賞で3部門受賞した米映画「ノマドランド」(2021年)を地で行く生活だ。そもそもなぜこんな働き方をしようと思ったのか? 月の収支は? 生活できるのか? 様々な疑問を本人にぶつけてみた。

◆夜職のボーイから個人配送業者に

 木村さんがこの仕事をしようと思ったのは、前職だった水商売のボーイという仕事を辞め次の仕事をどうしようかと考えていた時に、友人に「こういう仕事もあるよ」と教えてもらったことがきっかけだった。いま物流業界は非常に人手不足となっていて、稼げるかもしれない。そんな希望を胸に個人配送業者へと転職をした。

「作業の流れとしては主に朝7~8時に荷物を積んで、配達時間は9~14時くらいまでという設定になっていて、15時までに倉庫へ戻ります。1時間で20~25個、1回100~120個の荷物を配る計算です。スマホの地図にピンがさしてあり、時給換算にすると時給2000円くらいの収入になります。荷物一個に換算すると大体100~110円くらいですかね。置き配指定だったら玄関前に置き、通常配送の場合はインターフォンを鳴らして直接渡すのが基本業務ですね。本人が留守でも配れなかったものは持ち帰っても次の日の人が配ってくれるので問題ないです」

◆月20日稼働で月収60万円

 仕事の組み立て方はまずアマゾン・フレックスで1週間分の仕事のスケジュールを組む。さらにスキマ時間にピックゴーで焼き菓子を運ぶなどの仕事も入れる。ピックゴーの作業は効率性を高めるためにあらかじめ自分の配送ルートに被りそうな現場を何個も応募しておくのが大事のようだ。

「この仕事は抽選になっており、必ず引き受けられるとは限らないんですよ。あとトラブル防止のため同時に2個以上の仕事を得ることができなくて。どういう選定方法かはわかりませんが、仕事をもらえるかどうかは運の世界でもありますね。仕事としては東京都八王子市から埼玉県の奥地まで家具を運ぶ作業で、報酬は1万5000円くらいです。

 直前でキャンセルするとペナルティが付くので無理な仕事の詰め込みには注意してます。うまくいくと1日で約3万円弱くらいの収入になるんです。月にすると20日稼働で月収60万円程度です。そこから諸々経費を引いて50万円弱が手取りになります」

◆12時間拘束のあとに仕事も

 アマゾン・フレックスではなく、アマゾンと直接契約している法人「アマゾン・デリバリープロバイダー(デリプロ)」から仕事をもらって働く方法もあり、木村さんも最初はデリプロで働いていたという。会社が入っているため、研修もあり福利厚生が手厚いそうだ。

「僕も最初は慣れるまでデリプロの会社で働いていたんです。契約は業務提携で、仕事は安定して貰えて希望すれば社会保険にも入れます。でもやっぱり拘束時間は長いし、いろいろ諸経費が引かれて手取り30万円程度とちょっと安かったので……。個人でやったほうがいいかなと思い、慣れてからフリーランスに転向しました」

 アマゾン・フレックスとピックゴーの働き方はやや似ている。前者はアマゾンの荷物のみだが、後者はそれ以外も取り扱う。一方で、夜は仕事をしないなどシフトが選べて自由度が高い。さらにどの場所やどの案件を選ぶかなど自分で決められるのは、両者に通じる。アマゾン・フレックスは週に50時間までしか働けないという制限もある。

「どちらがいいかはどちらも一長一短ですね。1番稼げる方法は朝4時からのアマゾン・フレックスで7時までに配り終えて、そのあと8時からピックゴーの12時間拘束の仕事を選択することです。ピックゴーの12時間拘束といっても、なんだかんだ18時くらいに仕事が終わることが多いので、そのあと19時からアマゾン・フレックスの仕事を再び入れることもあります。1日働き詰めで5万円くらい稼げます。しかも、時間によっては昼寝とかもできるので正直かなり楽です。ただ、疲労も蓄積しているので次の日はのんびりと過ごすことにしていますね」

◆家を借りるよりも安い

 個人配送業としての働き方はわかった。では、そもそもなぜかなりの稼ぎを叩き出しているはずなのに、なぜ木村さんは家のない生活を続けているのだろうか。

「僕の場合、車が家なのでいつでもリラックスできるんですよ。あと車の維持費が、リース代月3万円、ガソリン代が約4万円、保険が1万4000円。月1回3000キロごとのオイル交換が3000円で、住むところの出費が約8万7000円と、家を借りるよりもかなり安く済ませられるのがあります。主な寝床はインターネットカフェの駐車場なので、駐車場代もかからないです。あ、ちゃんとインターネットカフェは利用もしていますよ」

 車の中だけだと収納スペースに限界があり不便だが、インターネットカフェも活用して、限りあるスペースでうまくやっているようだ。

「インターネットカフェは宿泊ではなく、シャワールームを利用しています。車の中に積んでいる服も、着用後はビニール袋にまとめて、溜まってきたら一気にコインランドリーで洗濯して乾燥機をかけています。また、現場の倉庫に前乗りして睡眠をとってから仕事に向かうようにしています。駐車禁止が書いてない白線のところに止めて夜20~朝7時は注意もされないので寝ています。そうすると寝起きにすぐ仕事にかかれるので、かなり調子が良いです。本当は全国を旅しながら働きたいところですが、配送の仕事はやはり都内に集中しているので難しそうです」

◆台風の日や雪の日は地獄

 作業開始時間が遅い場合はインターネットカフェの駐車場で寝ることもあるという。この仕事を始めてから、慣れるまでは様々な困難があったようだ。

「ツラいのは駐禁ですね。例えば日給が1万9000円の仕事の時に駐禁を食らうと罰金で1万5000円持っていかれるので、自業自得ですが手取りが4000円になります。雨の日も、荷物が濡れちゃうとクレームの対象になるので台風の日や雪の日は地獄です。クレーマーのお客さんに当たると大変です。『このダンボール潰れてるんだけど』『直接受け渡しにしたのに置き配にしたな』とか。こういうのもペナルティの対象になってしまいます」

 どこの配送サービス化は言えないが、聞いたところによると、木村さんの周りでは配達員の不正も日常茶飯事で行われているそうだ。

「配達員側で荷物をパクる人もいましたね。車の中に最初から荷物が入ってなかったと申告して自分のものにしちゃう人とか。その人はバレて契約を切られていましたけど。基本的に変わった人が集まってくるのでトラブルも必然的に多いですね。1人で淡々と作業するのが好きな人には向いていると思います。僕は人間関係がうまくできるタイプじゃないので天職だとは思っています」

◆AIの判断で仕事が増えることも

 仕事は全てAIに管理されているため、注意すべきこともあるという。

「デリプロは仕事ができすぎると『この人はもっと運べる』とAIが判断して仕事が増えるんです。正直、少し手を抜いてやるくらいがちょうどいいです。ただ、サボりすぎるとアカウントが削除されてしまうのでもちろん一生懸命には働いています。

 一方、個人で請け負うアマゾン・フレックスは完全歩合制なので、なるべく荷物を増やしています。また、仕事の出来は全てAIが判断しているので未配、誤配、持ち戻りが多いとランクが下がります。でも、給料は週払いなので金欠になるということはないので、かなりありがたいです」

◆まだギリギリ20代なので稼げている

 働いていて楽なエリアは住宅が密集しているエリアだ。大変なのは渋谷や品川などの都心や世田谷区のはずれ、千葉県や埼玉県など一軒一軒の住宅が離れている地域だ。マップを見て、効率よく頭でルートを組み立てられる人が稼げる。

「年をとってくると、体力がなくなってかなりしんどいと思います。僕はまだギリギリ20代なので稼げているのかなと。老人の配達員もいますが、ツラそうです。いつかはこの仕事を卒業して、どこかに住居を構えてきちんと地に足をつけた生活をしたいですね」

 しかしながら、「この生活をしていると、家という存在の必要性を感じない」とも言う木村さん。車は購入したほうがいいように思えるが、まだまだリースで配送業を続けるつもりだという。くれぐれも安全第一で稼いでほしい。

<取材・文/山崎尚哉>

【山崎尚哉】

’92年神奈川県鎌倉市出身。ライター業、イベント企画、映像編集で生計を立てています。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆。Twitter:@yamazaki_naoya