文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、ブング・ジャムのみなさんに今イチ押しの最新文具を紹介していただきました。

第3回目は、高畑編集長イチ押しの「パスワードノート ケルベロス」です。

(写真左から他故さん、きだてさん、高畑編集長)*2023年11月11日撮影
*鼎談は2024年6月24日にリモートで行われました。

パスワードを管理するためのノート


「パスワードノート ケルベロス」(テージー)*関連記事

――最後は高畑編集長です。

【高畑】今回はふわっとしたお題だったので、手前味噌で恐縮なんですが、私が全面的にデザインしたノートを取り上げさせていただこうかなと。テージーさんから出ている「ケルベロス」っていうノートなんですけど、パスワードとかIDとかアカウントとか、そういうのを管理するための専用ノートを作りましたというものですね。

【きだて】ひと昔前は「パスワードを紙に書いて残すなんて、セキュリティ的に馬鹿のやることだ」みたいな扱いだったわけじゃない。

【他故】まあね。

【きだて】なんだけど、昨今はその辺もちょっとお作法が変わってきてるみたいで。紙に書くとか云々よりは、むしろ長くて複雑なパスワードの複数運用がマストでしょう、ぐらいの感じ。

【高畑】そう。少なくとも、同じのを使い回すのが一番危ないっていうのはやっぱりあるよね。

【他故】そうだね。

【高畑】漏洩したときに、1個でも突破されると、自分が持っているのが全部同じパスワードだと、他のサイトのログインも全部乗っ取られる可能性があるっていうところで考えると、ログインID ごとにパスワードは種類を変えるっていうのと、あと最近は特に大文字、小文字と記号とかを組み合わせて入れましょうっていうのはすごいよく言われるようになってきているので。ベストは全部覚えているだと思うんですけど、無理じゃん。

【他故】いや、それは無理だわ。

【高畑】あと、アプリに覚えさせるのもさ、上手に使ってる人はいいけど、例えばパソコンに入っているブラウザが覚えてくれるのとスマホが別だったりすると、パソコンの方ではいつも自動で入れるんだけど、スマホで急遽入らなきゃいけなくなったら、その複雑なパスワードが読み出せない問題とかがあって。

【他故】あるある。

【高畑】ITリテラシーが高くないと、パスワードもまともに運用できないみたいな状況に今なっているので。それならねっていうのもあって。僕はずっと紙に書いてたんですよ。紙に書いてて何が問題って、自分の字の問題っていうのがあるんだけどさ、ゼロとOとさ、大文字のOと小文字のoとかさ、大文字のI(アイ)と小文字のl(エル)とかさ、分かんなくならない?

【他故】絶対なる。

【高畑】アルファベットとか記号を区別するのは案外難しいよねっていうことで、自分が間違えないためのフォーマットが実は前からちょいちょい作っていたのがあったんだけど、それを今回、テージーさんってファイルを作ってるメーカーさんなんだけど、そこで出したんだけど。実はこの後に出てくるんだけど、テージーが終活ファイルを企画してて、そこにも僕ちょっと関わっているんですよ。「ファイルイット」のバリエーションで今度そのそういうのが出るんだけど、いろんな終活で、例えば保険関係だったりとか、ローンだったりとか色々あるじゃないですか。ちゃんとファイリングしとかないと危ない系のやつって。


【他故】うん。

【高畑】そういうのを、僕はずっと「ファイルイット」でやってたんだけど、もうちょっと種類があってくれたらすごいやりやすいねっていうことでちょっと提案させてもらったら、それで終活ファイルを作ろうってなったんですよ。ファイルの方はこれから出るんだけど、例えば通帳とカードとかを入れられるとか、そういうのをやっていて。それでその一環で、うちのオカンが突然調子悪くなったりとかしたら何に困るといったら、多分ログインで結構いろんなところで困る。解約するとか何だとか。

【他故】ああそうね。

【高畑】そもそも、何に加入してるかも分からないじゃないですか。今は何でもこういうのが必要なので、じゃあそれをちゃんと書くようにしようぜっていう。これ元々自分用でもあるんだけど、「いや私は紙に書かなくてもいいですわ」っていう人はですね、自分のお父さん、お母さんに使わせてほしいというやつではあるんですよ。

【きだて】またさー、年取った親の字なんて改めて読めないじゃない。特に離れて暮らしてると。

【高畑】親は自分で読めるかもしれないけど、俺が親の字が読めない。

【きだて】だから、こういう形で判別できるルールが共有できれば、とても助かる。

【他故】これ、すごくいいよね。

【高畑】間違えないで書く方法っていうのが、プログラマーとかそういう仕事の人には何かあるのかもしれないけど、やっぱりそのルールがなんか色々あるらしくて、7には線を引くだったりとか、0は上に線を引くとか色々あるんだけど、一律で大文字の上に線引きますとか、なんかそんな風にしてあげればもうちょっと簡単かなと思って。

【きだて】基本的にアラフィフ世代の我々って、ドラクエの「ふっかつのじゅもん」で痛い目を見てるじゃない。

【高畑】あ~分かる!

【きだて】パスワードの書き間違い、読み間違いに敏感なのよね。間違えたくない気持ちが非常に強い。そういう意味で、このルール付けは「これ!」ってなったのよ。俺は本当に。


【高畑】そう言ってくれると嬉しいよ。

【きだて】非常によくできたルールだと思います。

【高畑】ありがとうございます。

【きだて】これなら、俺みたいな悪筆が書いても、とりあえず読み間違えられはしないだろうという。

【他故】そうだね。

【きだて】さっき言ってたけど、これ目次もいいんだよね。改めて目次を見ていくことで、「そういやしばらく使ってなかったサブスク」とかを見つけやすい。実際にこれで書き出すことで、2つほどサブスクを解約しました。


【他故】それは素晴らしい(笑)。

【高畑】終わったら終わったで、「これは終了しました」っていう、やめたところにチェックを入れるようにはなってるので。

【きだて】更新チェックもあるので、どれが最新なのかとかの見分けも当然つきやすいし。

【他故】そうそう。よくできてる。

【きだて】「これは最新でよかったのかな?」みたいなのが不安にならなくて済むね。

【高畑】割とね、何ヶ月に1回「更新しろ」って言われて書き換えたりとかして、書き換えたのが分かんなくて、前のパスワードを何回か入れて止められるとかあるので。そういうのも気にしようねっていうのもあるし。

【他故】ああ、あるね。

【高畑】さっきの「紙のノートに書くのがどうなのか」っていうことなんだけど、基本漏洩するのって、ネット上のデータは漏洩するけど、机の上にある紙っていうのは、例えば俺の部屋に置いてあるこのノートが盗まれるとしたら、俺の家に入ってこないと盗めないじゃんって考えると、そのリスクを考えたら、盗みに来て、しかも俺の部屋のこの山ほどあるごちゃごちゃしたものの中から、「このノートにはパスワードが書いてある」って見つけて持っていくのは難しいじゃん。

【きだて】文具王が言っているの、ソーシャルハックのリスクよりはこっちの方がだいぶマシでしょ?ってことだと思うんだけど、でも自宅ではそうでも、オフィスとか仕事界隈で運用するのはまた別じゃない。

【高畑】そこら辺は、これが盗まれるとしたら、内部犯行の可能性が高いというのがあって。あともう一個ね、今回この表紙にケルベロスっていうキャラクターを作ったんですけど。これは地獄の門番なので、あの世というか別世界とこっち世界の扉を守護する、頭が3つある犬なので、一応ケルベロスの名前にしたんだよ。下にちっちゃく「GUARD YOUR PASSWORDS」って書いてあるんだけど、ここまで書き方にこだわっているかはともかく、パスワードを書いておこうというノートってちょいちょい売っているんですよ。

【きだて】そうそう。堂々と「パスワードノート」って表紙に書いてあるやつ。それは書くなよ(笑)。

【高畑】表紙に「パスワードノート」って書いてあるノートだとバレバレなので、「それっぽくないけど、本人には分かるノートにしたいね」と言って、これにしたんですよ。


【他故】そのデザイン、めっちゃいいですよ。

【高畑】この犬も僕が描いたんですよ。

【きだて】可愛らしいの描くなぁ(笑)。

【高畑】あんまり怖くもしたくないしっていうのがあったんですけど。オフィスに置いとくとかでも、よくモニターに貼っちゃうみたいな話があるじゃないですか。それが一番危ないので、そこに対しては、分かんないように普通のノートと一緒に立てておと、これがそのノートであるっていうのを知っている人にしか分からないので。

【他故】まあね。

【高畑】そこはご自身の判断とですね、周りの人たちとの人間関係で選んでいただく必要があるんだけど。今はセキュリティ系の人たちも、「紙に絶対書くな」っていうよりは、むしろ紙に書くのを嫌って単純なパスワードを使う方が危ないって言っている。

【きだて】最低でも10桁以上で、大文字、小文字、数字、記号を混在のパスワードを複数運用っていう。その辺がわりと世界的な基準にはなっているのね。

【高畑】複数っていうか、アカウントごとに変える。アカウントごとに別のものを持つっていうのが大事かな。そんな感じでこのノートは自分でも全然使えると思うんだけど、その一方では「一応念のため書いといて」と言って親に書かせるノートなので。

【他故】僕も、実際には自分のやつをこれから書くんだけど、家族に「僕が何かあったらこれを見てください」っていうつもりで書いて、部屋に置いておくつもりでいるので。そういう人も全然出てくると思うのね。

【きだて】とはいえさ、ここにFANZAのパスワードとかも書いちゃうわけじゃないですか(笑)。基本的に家族に見られたくない系の。

【高畑】そうなると、「ケルベロス」を2冊作って、「ダークケルベロス」を作らないといけなくなる。そこら辺は、上手く運用してくださいっていうのはあるじゃないですか。この後これが売れたら、ここが黒い革の表紙になっていて、ここに鍵がついているやつを作って。

【きだて】それも頼むよ。とはいえ、最終的には奥さんに解約してもらわなきゃいけないんだけどね。

【他故】誰かが見ないといけない。鍵が付いていたら余計あやしいわ(笑)。

【高畑】人に使わせるという以前の問題として、自分で忘れるからね。本当にどんどん複雑化して。

【きだて】覚えられるわけないじゃん。

【高畑】あと銀行系とかだと第2パスワードとかさ、何のために必要なのか分からない複雑なパスワードがいっぱいあるしね。

【他故】あるある。

【高畑】もちろん、パスワードだけじゃなくて、その他色々と必要なことがあれば、メモるところもあるので、パスワード以外に何か必要なこと。最近は、サービスごとにルールがいっぱいあるんで、聞き慣れないものは全部書いといていいよね。

【きだて】あとね、あの圧縮IDというか、IDの共通ABC。これは上手いこと作ったなぁ。

【高畑】ありがとうございます。

【きだて】これは助かる。IDはだいたい共通だもんね。

【高畑】よくあるのは、IDがメールアドレスだったりするじゃん。メールアドレスがIDの場合は、もう「メールアドレスです」でいいんだけど。メールアドレスっていう丸を作っててもよかったんだけど、メールアドレスを普通運用してる人もいるので、よく使うID名を書くところを作っとくみたいな。例えば、僕だったらbunguoみたいな名前をIDに使ってるんだったら、それをこういうところに書いておけば。「Aがメールアドレスで、 Bがbunguoです」としておく。問題はパスワードだから、IDは一緒でも全然いい。

【きだて】とはいえ、こういうのをいちいち書くのめんどくさいんで、できるだけ省力化できるところは省力化したいわけですよ。そういう意味でこれとてもいいやり方。

【他故】分かってる人が作ると、こんなにいいものができると。

【きだて】信頼感が強いね。

【高畑】俺が苦労しているからこうなったっていうところがあるからね。もっとちっちゃいノートも作れるんだけど、やっぱこのぐらいの大きさの方が。

【きだて】小さいと紛失する。

【他故】書きにくいしね。

【高畑】これ使うのは年輩の人が多いと思うので、これ以上ちっちゃくすると書きづらいなと思って。あとは、パソコン開いて書くから横長にしてます。パソコン手前ノートとして作ってるので、そういうところは一応最近流行りの横長にして作ってみました。

――はい。

【高畑】ぶっちゃけ、「こういうのに書いておくのが安心です」っていうのが伝わればいいなと。

――きだてさんはもう使ってるんですか?

【きだて】使ってます。今画面には出せないけども(笑)。

【他故】出さなくていいから(笑)。

【高畑】そんなにめちゃめちゃ丁寧に書かなくても、きだてさんがきだてさんの字で、ちゃんと間違いなく読めるっていうのはすごい大事。

【きだて】あとね、文字に筆記ルールがあると、走り書きできないんだよ。

【高畑】ああ、このように書こうと。

【きだて】このように埋めるというルールさえあれば、丁寧には書くんだよ。横罫だけではなくて、やっぱこういうのは大事。

【高畑】1文字ごと書いてほしかったんだよね。文字数が何文字あるか数えられるように、5文字ずつちょっと線を太くてあるんだけど。書き忘れたりとかしないように、1個ずつ数えながら書けるように。

【きだて】細々と気が利いてるというか。

【高畑】最近、自分の記憶力が頼れないお年頃なんで。

【他故】分かる分かる(笑)。

【きだて】ブング・ジャムも全員50代になってしまいましたよ。

【高畑】僕の50代としての目標としては、物をなくさないとか、お茶こぼさないとか。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】お茶をこぼさないように、フタ付きのコップしか俺は机に置かないことにしたのよ。机の上にはもうフタの付いてないコップは置いちゃダメっていうのがマイルールなのね。

【きだて】どんどん3歳児ぐらいになってきてるな(笑)。

【高畑】今のうちから、絶対安全なルールをこうやって構築していくと、これから先もうちょっとやばくなってきた時に、普段からそうしているのが「やっぱりね」っていうことなので。やばくなってからだと、もう自分がその新しいルールに対応できないから、今のうちからやろうと。きだてさんは、そういうことないですか?

【きだて】40代後半から物覚えが異常に悪くなっていたんだけどね。ただ、それは単に睡眠時無呼吸で低酸素症になっていただけみたい。CPAPを使い始めたおかげで、記憶力がかなり戻りました。

【高畑】すごい!

【他故】効果が(笑)。

【きだて】だから今は、40代の頃よりも頭が働いてるぐらい。

【高畑】それはそれで良かったね。

【きだて】いや、本当に当時が酷すぎたって話でさ。ログイン用のワンタイムパスワードとしてスマホに送られてくる4桁の数字が、画面を見ながらじゃないと入力できなかった。サッと見ただけでは頭に入ってこなくて、「えーと、7、5、……何だっけ?」みたいになってたのが、今は8桁ぐらいまでなら暗記できるようになった。だいぶマシになったな。

【他故】それはすごい!

【高畑】いろんなことをちゃんとしようって思って、自分の中でなんかちゃんとした大人になろうキャンペーンを始めたんだけど。

【他故】50になって(笑)。

【高畑】持ち運ぶものにやたらとエアタグをつけたりとかですね、いろんなことを反省しつつ。あと、ずっとうずたかく積み上がってるコレクションをね、ちょっと整理するっていうのをやってるわけですよ。それは、僕だけじゃなくて、きだてさんもやらないといけないことだと思うんですけど。その中で、パスワードとかもそうだけど、今自分が加入してるものとかも整理してるんですよ。何に入ってたか分かんなくなっちゃったりするじゃん。何十個もあるからさ。あと大事な書類とかをちゃんとファイリングしようみたいなのをちょびちょびやってたら、本当に心配になってきて、こういうノートを作ったと。

【他故】なるほど。

【高畑】文具王も中老にさしかかったわけですよ。なので、そういうところは道具で解決するっていうね。

【他故】それは正しい。

【きだて】自分は信用できないからね。

【高畑】そう、自分は信用できないから、フタ付きのを使ったりするんだよ。それで、こういうノートに書くことで、文房具の助けを借りるのは大事じゃないですか。

【他故】うん。

【高畑】ということになればいいなと思っているので、全国のいろんな人たちがログインできない地獄に落ちないように、何か助けになればいいなという商品を作りましたよということですね。

――このフォーマットは、今回の商品のために考えたんですか?

【高畑】実は、前から自分で作ってたんですよ。それで、テージーさんと話をしていたときに、「終活ファイルのおまけでこういうのを作りませんか?」と言ったら、いいんじゃないのということで作ったので。ファイルのおまけだったんだけど、単体でも発売できるようにということでやったら、こっちの方が早かったので。ひと月遅れてファイルの方が7月に発売になります。終活ファイルも併せて使っていただけると嬉しいなと思います。

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