今年も暑い夏が続く。気象庁の予報によると、7月から9月までの3か月間の平均気温は平年に比べ高くなる見通しとなっている。
厳しい暑さが続く中で、気を付けておきたいのが、子どもの車内放置事故だ。
昨年9月に岡山県津山市の病院駐車場で起きた2歳児の車内放置死事件など、毎年のように悲惨な事故が発生している。
子どもの車内放置、短時間でも危険
JAF(日本自動車連盟)が昨年公表した調査結果によると、家族に12歳以下の子どもがいる人のうち、54.9%が子どもを車内に残して車から離れたことがあると回答。
子どもを車内に残した理由としてもっとも多かったのは「すぐに(5分以内)車に戻ることができるため」であった。
しかし、JAFが実施した別の調査によると、短時間であっても熱中症の危険性は高まるといい、「天候や気温に関わらず、子どもを絶対に車内においていかないようにしましょう」と注意を呼びかけている。
死亡事故多発の過去も、業界で「総力を挙げ」ゼロに抑える
こうした危険な子どもの車内放置対策に取り組み、駐車場での死亡事故件数を0にした業界がある。パチンコ業界だ。
パチンコホールの全国組織である全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)によると、パチンコホールの駐車場では、集計を開始した1998年以降、2017年の7月までに車内放置による死亡事故が30件発生していたという。
しかし、業界全体で対策に注力した結果、2017年7月を最後に、パチンコホールの駐車場では、車内放置による死亡事故が発生していない。
「全日遊連では、1996年度から遊技客への啓発を目的としたポスターを掲示していましたが、2004年からは警察庁からの強い要請もあり、組合組織の総力を挙げ、駐車場での子ども事故撲滅に向けた活動を行っています。
これは、2003年に車内に置き去りにされて死亡した幼児5人のうち、4人がホール駐車場での放置事案で亡くなっていたことを重く受け止めたものです。
2005年度以降は、ゴールデンウィークから10月まで、そして年末年始を『子どもの事故防止強化期間』に、うち7月と8月を『特別強化期間』に設定しており、啓発ポスターの掲示や、子ども連れでの入場を禁止する店内放送の実施、定期的なホール駐車場巡回などの方法をまとめた『子どもの事故防止マニュアル』の徹底を組合員ホールに要請しています。
さらに、今年度からは、強化期間以外の時期でも、気温が20℃を超える際には巡回などを徹底するよう求めています」(全日遊連)
また、全日遊連によると、ホール側だけでなく、パチスロの販売会社の団体である回胴式遊技機商業協同組合でも、組合員各社に所属する社員らが取引先のホール訪問時に駐車場の見回り活動を実施しており、パチンコ業界全体で事故防止に取り組んでいるという。
こうした取り組みが功を奏し、全日遊連傘下のホールでは、2021年度には24件(33人)、2022年度は20件(23人)、2023年度は28件(34人)の事故を未然に防止している。
「2017年8月以降、ホール駐車場で死亡事故が発生していないのは、各ホールが駐車場の巡回などを徹底していることの証です。
この取り組みは当然、今後も続けていかなければならないですし、警察庁からも『大変重要な取り組み』と評価をいただいています」(同前)
過去5年間の死亡事故件数と未然防止件数(全日遊連、日本遊技関連事業協会、MIRAIぱちんこ産業連盟、余暇環境整備推進協議会「子どもの車内放置撲滅キャンペーン」より)
死亡事故発生なら「社会から強いバッシング」
ただ、ホール側の努力により事故は未然に防げているものの、車内放置自体は依然として発生しており、昨年の未然防止事案のうち、2件で保護者が逮捕されていた。
事案発生を受け、全日遊連は組合員ホールに対し緊急通達を発出。「万が一死亡事故が発生した際は、これまでの業界の取組に対する評価が失われるとともに、社会からの強いバッシングを受けることとなる」と明記し、事案の周知と取り組みの再徹底を要請したという。
ただ、子ども連れでホールに来店した客に対し、一律で入店禁止とするなど、ペナルティーを設けるのは難しいとのことだ。
「風適法(風営法)では『十八歳未満の者を営業所に客として立ち入らせること』は禁止されていますが、入店そのものは禁止されていません。
ですので、子ども連れでホールに来店した客を入店禁止とするかどうかは、個々のホールの判断に委ねられているのが現状です。
ただし、放置した人が遊技中の場合には、発見次第直ちに遊技を中止させ、ホール責任者から子どもの事故の危険性を説諭したうえで退店させているほか、悪質な事案に対しては、各ホールの判断で警察へ通報しています」(全日遊連)
子どもの車内放置、保護者は「懲役20年」の可能性
上述した2件のケースでは、保護者はいずれも保護責任者遺棄容疑で逮捕されたとのことだが、子どもを車内放置した場合、他にどのような罪に問われる可能性があるのだろうか。自身も一児の母である遠藤知穂弁護士は次のように解説する。
「保護責任者遺棄罪に問われるのは、車内に子どもを放置したものの、健康被害が生じなかった場合などです。同罪の刑罰は3か月〜5年程度の懲役と定められています。
一方で、放置された子どもが熱中症等の健康被害を発症した場合や、死亡した場合には保護責任者遺棄致死傷罪に問われる可能性もあります。
同罪では『傷害の罪と比較して、重い刑により処断する』と決められていますから、保護責任者遺棄致傷の場合は3か月~15年の懲役が、保護責任者遺棄致死の場合は3~20年の懲役が科されることになるでしょう。
また、うっかりミスで子どもを放置したわけではなく、『ちょっとの時間なら』『窓を開けているから』『エアコンをつけているから』といった理由で、危険ではないと信じて疑わずに子どもを放置したケースでは、重過失致死罪(5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)や過失傷害罪(30万円以下の罰金または科料)、過失致死罪(50万円以下の罰金)が成立することも考えられます。
もっとも、健康被害が無い場合には、警察にすでに通報されていれば取り調べを受けるかもしれませんが、起訴される可能性は低いのではないでしょうか。
ただ、こうした事案を何度か起こしているという場合には、起訴という事態にはならなくても、児童相談所に通報されることもありえます」(遠藤弁護士)
もし車内放置を発見したら「速やかにスタッフへ連絡を」
もし、パチンコホールに来店し、車内放置を発見した場合はどのように対処すべきなのだろうか。
全日遊連は「速やかにホールスタッフにご連絡いただくようお願いします」としつつ、以下のようにコメントした。
「連絡を受けたスタッフは、子どもの安全を確保しながら、店内防犯カメラ等で放置者を特定。店内放送で車両ナンバーを呼び出し、応じない場合には警察への通報を行うほか、緊急を要する際には車両のガラスを割って解錠し子どもを保護するなど、適切に対処します」
なお一刻を争う状況であれば、車内放置を発見した客自身が、子どもの救出のためにドアをこじ開けたり、窓を割ったりすることも検討しなければならないだろう。
刑事責任を問われるリスクが気になるところだが、刑法第37条1項では「緊急避難」が規定されている。
この規定を当てはめて考えると、大声で車の持ち主を呼んだり、事前に119番や110番通報をしていたという場合には、放置されている子どもを救うために、窓ガラスを割るなどの手段を取ったとしても、罪に問われる可能性は低いだろう。
遊技を嗜む大人として、子どもを車内に放置するなどあってはならないことだが、同時に子どもを助けるための知識も覚えておく必要がある。