「子供の成長に悪影響を与える家」には“とある”共通点が。一級建築士が指摘する「間取りの重要性」

こんにちは、一級建築士の八納啓創と申します。会社員の方から上場企業の経営者宅まで、住む人が幸せになる家をテーマにこれまで120件の家づくりの設計に携わってきました。 

『日刊SPA!』では、これまでの経験を生かし、「これからの時代に必要な住まいの姿」をテーマにお伝えしていきます。

今回は、「間取りが家族関係に及ぼす影響」をお伝えします。

◆家の間取りに注目が集まったのは…

「神戸連続児童殺傷事件」が発生したのが、1997年。ご存じの通り、犯人は当時14歳の少年で「彼が住む家の間取りはどうだったのか」という点にも注目が集まりました。

報道によると、玄関から入ってすぐ階段があり、誰にも会わずに自室まで行き来できる間取りだったそうです。そのため、家族も全く事件に気づかなかったといいます。

このころから、家の間取りが「子供の育成」や、「家族間の関係性」に大きく影響すると言われ始め、リビングを通ってから階段を上がり子供部屋に入る間取りの形状、「リビングイン階段」が広がりました。

この間取りであれば、子供は勝手に外出できず、なおかつリビングを通る時に強制的に親と会話が出来ると考えられたのです。実際に2024年時点でリビングイン階段はかなり普及しています。

◆「夫婦関係が崩壊する」家の使い方とは

これまで筆者は、設計者として家づくりを探求してきたわけですが、興味深い事象を発見しました。それは「夫が玄関そばの和室で寝るようになると夫婦関係が崩壊する」こと。年齢を重ねると、「いびきがうるさい」「臭い」「生活リズムが違うから寝られない」といったクレームが入ることも珍しくないはず。

そして、家にいても居場所がない夫は、出来るだけ長く残業して、遅い時間に帰ります。家族はみな食事を終え、自分の食事だけが食卓に乗っています。それを一人でもぐもぐ食べながら、お風呂に入り、寝床は玄関近くの和室へ……。

このような家の使い方をしていたら、離婚に至らずとも、単なる同居人になってしまう可能性が大なのです。

◆二世帯住宅の「中廊下型」の間取りには注意が必要

今の日本の家の間取りは、真ん中に廊下があり、その両側に部屋などが並ぶ「中廊下型」の間取りが多く普及しています。ただ、この中廊下型の間取りで一つ気を付けたいことがあります。それは「中廊下の両側の部屋の人同士が敵対しやすくなる」ということです。

特に気を付けたいのは二世帯住宅。親世帯が、中廊下の片側を占め、その反対側が子世帯のLDKになっているケースでは、緊張感が走りやすくなります。

特に注意したいのが、嫁姑問題を抱えている場合。この間取りはその関係性をより硬直させる傾向があります。なぜなら、中廊下という微妙な距離感で関係性を構築しないといけないため、常にネガティブな思考や感情を誘発されるからです。

このように、廊下を隔てての対立を生まない間取り計画を本来なら考えるべきです。すでに嫁姑間で確執がある家庭の場合は、子世代の夫が必ず妻側の味方につくことが重要です。妻の不平不満を聞きながら、窓口となって自分の親と向き合うことでしか、この関係性は軟化出来ません。

嫁姑問題以外でも、きょうだい喧嘩などで関係性が崩れてしまった場合、部屋の位置を変え、ほかの家族が入って仲直りさせることが早期解決の助けになります。

◆リビングとダイニングは何のためにあるのか?

話をリビングイン階段に戻します。間取りが家族関係に影響するのであれば、リビングイン階段は親子の会話や関係性を改善してくれるのでしょうか?

実は、残念ながら間取りだけに頼ったところで改善は難しいのです。ただ、関係性の改善に積極的であれば、後押しにはなってくれます。では、親子や夫婦の関係性を改善していくため、リビングとダイニングは何のためにあるのかを考えてみましょう。

リビングは何となく家族で集ってTVを見る場所、ダイニングは食事する場所というように何となく使っている人が少なくないかと思います。

しかし、長年家づくりをしてきて、家の使い方を探求してきた立場からするとリビングとダイニングとも、本質的な機能を理解して使いこなせば、家族間の関係性が劇的に改善されることを発見しました。

◆リビングとダイニングには「正しい使い方」が

リビングという場所は、特に子供にとって重要な場所です。なぜなら、親位の年齢差の上司、兄弟ぐらいの年齢差の先輩と後輩と見立てると、まさにリビングは「社会の象徴のような場」だからです。

リビングでどれだけ家族と会話を重ねられたかという要素は、社会に出た時に大きく影響しやすいのです。例えばTVを見るとします。その時に意識したいのは、番組の内容に関して、お互いに考えや意見を言い合うことができているかです。リビングは家族間で意見を交わし、ディベート力を身に付けさせるには最適な場所なのです。

次に、ダイニングはどうでしょうか? 実は、ダイニングは「食事をしながら心をオープンにしてお互いの悩みなどを聞きあい関係性を深める場所」。

大人になると男性の場合、友人が悩んでいたら「一杯飲みに行こうか!」、女性の場合は「ちょっとお茶しない」と言いませんか? これは、人は食事を通じて心を通わすという本能によるもの。

ダイニングは単に食事をする場所ではありません。TVを垂れ流し、食べ物をのどに通すだけで、作ってくれた人に感謝をしない食卓は、非常に残念な使い方と言えるでしょう。食事をとる時は、「今日はどうだった?」といった何気ない話をしながら、心を通わせてください。

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間取りが悪ければ、家族の関係性も悪化してしまいます。さらにリビングイン階段の事例のように間取りだけに頼るのも正解とは言えません。根本的な関係性の改善をリビングやダイニングで行わない限り、うまく機能することはないでしょう。

最終的に重要なのは、部屋の本質的な機能を把握しながら、家族団らんを意識することです。円満のためにも、ハード面とソフト面をしっかり使いこなしたいものですね。

<TEXT/八納啓創>

【八納啓創】

1970年、神戸市生まれ。一級建築士、株式会社G proportion アーキテクツ代表取締役。「地球と人にやさしい建築を世界に」をテーマに、デザイン性、機能性、省エネ性や空間が人に与える心理的影響をまとめた空間心理学を組み込みながら設計活動を行っている。これまで120件の家や幼保園、福祉施設などの設計に携わってきた。クライアントには、上場会社の経営者やベストセラー作家をはじめ「住む人が幸せになる家」のコンセプトに共感する人が集い、全国で家づくりを展開中