2023年、反響の大きかった記事からジャンル別にランキングを発表。働く人も働かない人もそれぞれの思いがある…「お仕事」部門、第1位はこちら!(集計期間は2023年1月~10月まで。初公開2023年5月3日 記事は取材時の状況) * * *
家庭や飲食店から出たゴミを集めて街中を周る「ゴミ収集業者」。ゴミを集める仕事の性質やイメージから、働き手が集まりにくい業界だ。求人に苦戦する企業が多数を占めるなか、ゴミ収集の仕事に女性の応募者が殺到する、異色の企業が広島県にある。ゴミの収集・回収リサイクルを手がける株式会社タイヨー(以下、タイヨー)だ。
同社は、ゴミ収集業へのマイナスイメージを払拭し、どの世代でも働きやすくなるようなさまざまな取り組みを行っている。そのひとつがシングルマザーをはじめとした子育て世代の支援。会社に保育園を設けて子育てをしながら働きやすいような仕組みを作るなど、従業員への福利厚生が充実しているのが大きな特徴だ。
今回は自身もシングルマザーで子育てをしながら働く、タイヨー広報部の田中陽希さんにインタビュー。タイヨーが従業員の働きやすさやイメージ向上に取り組む理由について話を聞いた。
◆従業員の4割以上が子育て世代の女性
タイヨーは創業以来70年以上に渡り、広島市を中心にゴミの収集/処理リサイクルを行ってきた老舗のゴミ収集会社。 家庭ゴミをはじめとしたさまざまな種類のゴミの回収・運搬・処理を行っている。
広島県内に50社以上の同業他社があるなかで、タイヨーが異彩を放つ特徴として女性従業員の多さが挙げられる。ゴミ収集の仕事といえば一般的に男性が就労しているイメージがあるが、社員91人のうち女性が4割以上で、そのほとんどが子育て世代だという。
◆会社の敷地内に保育園を完備
「私も子供を育てながら働いていますがとても働きやすいです。無料の保育園やキッズスペース、そして寮などが完備されていますからね。さまざまな福利厚生を受けられるのが最大の利点です」
子供に寄り添いながら仕事ができるのも魅力のひとつ。会社の敷地内に保育園があるため、子供が体調不良になった時にすぐに駆け付けられるのだ。
◆“何かあった”時は同僚がサポートしてくれる体制
取引先の不動産会社が管理物件を紹介しており、普通のアパートやマンションに気軽に住むことができる。さらに初期費用はすべて会社持ちで、家賃補助も月に2万円が支給される大盤振る舞いだ。
「我が社の理念は『かっこいい社員、かっこいい仕事、かっこいい企業』と定めています。社員がかっこいい立ち振る舞いや行動をすることにより、かっこいい仕事ができるようになり、おのずとかっこいい企業になるといった意味が込められているんです。会社の発展の基盤となるのは社員1人ひとりですから、ポテンシャルを最大限発揮してもらうためにも福利厚生の充実を実施しています」
社員間での子育て世代へのサポートや配慮なども行き届いている。主に独身の男性や子育ての終わった女性などが業務をカバーし、急遽の休みや早退にも対応してくれる。
「保育園で風邪が流行ってしまうと必然的に子育て中の従業員も休まざるえなくなります。そこで頼りになるのが、子育てがひと段落した先輩パパ、先輩ママ、独身従業員たち。これからは彼らに対してのフォローもしっかり行っていきたいです。成果が認められやすい制度などを整備して、『フォローしてくれたことに対するお礼』を形にしたいなと思います」
◆月に30人以上の応募者が
取り組みが功を奏して、タイヨーはシングルマザーを含む子育て世代に大人気の企業になり、現在では月に30人以上もの就職希望者を面接することもあるらしい。かく言う田中さん自身もタイヨーの福利厚生に魅力を感じた1人。
「実は、私は元旦那と離婚をするためにタイヨーに入社しました。保育園や寮があったことが子育て中の私にとって魅力的で。やはり、育児も仕事も両立するには周囲のサポートが不可欠なので、子育て世代を応援してくれる制度や雰囲気があったことが、タイヨーを選んだ一番の理由ですかね」
福利厚生に加え、見逃せないのが、「全員幹部候補」の理念だ。積極的に動けば動くほど昇進したり、給与を上げることができる。また、基本的に人事評価は1度上がれば下がるなどのことはなく、頑張り次第で幹部や役職など、会社の重要ポストを狙うことができるそうだ。
◆キャリアと子育ての両立が可能
ただ、ゴミ収集が肉体労働である以上、「体力に自信のない人にとっては辛い仕事かもしれない」と田中さんは話す。
「女性にとって体力的にきつい仕事であるのは事実です。その代わり職場に子育てをしている女性が多いからこそ、旦那さんの愚痴を話したり、悩み相談ができたりと、女性ならではの話が気軽にできるのが弊社の特徴でしょう」
肉体労働である以上、同じ労働力としては男性のほうが有利であることは間違いない。それでも子育て世代の女性の採用と支援に力を入れる理由には、「家族が1番!」という社長の願いが込められている。
「女性は子供を持つかどうかで、キャリアか子育てかの二者択一を迫られてしまいますが、タイヨーではどちらも両立することができます。育児を理由にキャリアを諦めることなく、やる気次第で出世・成長できるのも魅力かと」
◆3Kのイメージを払拭したい
タイヨーではゴミ収集業のイメージアップためにさまざまな取り組みを行っており、少しずつではあるが、変化を感じることもあるようだ。
「私たちが目指しているのが“ゴミ屋意識”からの脱却です。一般的にゴミ収集業は3Kと呼ばれて敬遠されがちな仕事ですが、私たちの仕事はサービス業だと考えています。例えばゴミ捨て場が荒れていたら回収後に綺麗にします。するとだんだんと利用者も綺麗に使ってくれるようになるのです。ゴミ袋に『ありがとう』とメッセージがあることもあります。小さなところからイメージの向上に取り組むことが大事ですね!」
男女平等をうたいつつ、現場レベルでは労働環境が整備されていないのが日本の現状だろう。タイヨーの取り組みが波及し、文字通り「女性が活躍できる社会」になることを期待したい。
<取材・文/越前与>
【越前与(えちぜんあたる)】
ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。