中国は南シナ海で軍事プレゼンスを高めており、対処は関係諸国にとって喫緊の課題だ。同じく中国の動きを警戒するアメリカ国内では、どこまでアメリカが直接的に関与すべきか、その形態をめぐる議論が盛んだ。
◆「北京は発砲せずに南シナ海を占領できる」
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所センターフェローのオリアナ・スカイラー・マストロ氏は、ニューヨーク・タイムズ紙(7月25日)に寄稿し、「北京は発砲せずに南シナ海を占領できる」と警鐘を鳴らす。
マストロ氏は、中国は海警局や漁船、海上民兵などの非軍事的な手段を利用して近隣諸国を威圧してきたと論じる。近隣国の船の往来を封鎖し、紛争中の島々に中国の軍事基地を建設してきた。これにより、直接的な軍事衝突を避けつつ、実効支配を強化していると指摘する。
影響はアジア諸国にとどまらない。外交政策研究所シニアフェローのクレイグ・シングルトン氏は、米外交専門誌フォーリン・ポリシー(7月23日)への寄稿の中で、アメリカと中国の間で南シナ海をめぐる緊張が高まっていると警告している。
◆補給船への同行案をめぐる是非
シングルトン氏は、中国が南シナ海のほぼ全域に対し、「疑う余地のない支配権(indisputable sovereignty)」を主張していると指摘する。フィリピンやほかの近隣諸国との間で繰り返し衝突しており、特にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるセカンド・トーマス礁での対立が激化している。
氏が解決策として提言するのが、アメリカがフィリピンの補給船に沿岸警備隊員を同行させる案だ。これにより中国は、フィリピンの船舶に対して攻撃を行うことに慎重になる可能性がある。こうした形に決着すれば、アメリカが関与をエスカレートさせるシナリオを回避することができるとシングルトン氏は主張している。
しかし、この対応は賛否両論を呼びそうだ。米シンクタンクのブルッキングス研究所でシニアフェローを務めるライアン・ハス氏は米フォーリン・アフェアーズ誌(7月9日)への寄稿で、このような同行案に否定的な考えを示している。
アメリカのタカ派のなかには、アメリカ軍としてセカンド・トーマス礁への補給ミッションを行うことを主張している向きもある。これは、中国がアメリカとの直接対決を避けるであろうとの読みが前提となっている。
しかし、この理論を試すことは「無謀」だとハス氏は言う。中国の習近平国家主席としては、「国内では弱腰や軟弱と思われるのを避けたいという思いがより強い」との分析だ。
◆東南アジア諸国の関与を促したいアメリカ
一方、マストロ氏はより強硬な姿勢を示すべきだと主張する。ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、セカンド・トーマス礁へのアメリカによる補給はもとより、「オーストラリアや日本などの同盟国とともに補給任務を実施する」べきだとする踏み込んだ見解を示した。
多かれ少なかれ、何らかの形でアメリカ以外に関与を求めるべきとの意見はほかにもある。ブルッキングス研究所のハス氏は「アメリカは、できるだけ多くの関心を持つ国々を動員して、北京にさらなるエスカレーションを控えるように助言してゆくべき」だと述べている。特に東南アジア諸国を巻き込むことで、「現在の紛争が米中間の二元的な衝突に見えにくくなる」と氏は言う。
アメリカとしては中国の動きを牽制(けんせい)しつつ、唯一の関与国となりなくない思惑があるようだ。