サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No43となる今回は、本誌No129に登場した『タヴェルナ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。


川村さんによる圧巻のスケッチ。いつもよりページいっぱいにイラストと文字が書き込まれています。

窓際のキャップに惹かれて近づいた。

よく通りかかる四つ角に、いつもとは異なる道から差し掛かったとき、見たことのない店が目に入った。窓際に重ねて掛けられたキャップに惹かれて近づくと、ランチ営業はしているのに、店内の電気はついていなかった。テラス席で食事をしている人がいなかったら、やっていないと思っただろう。窓に貼られたメニューを見たらギリシャ料理の店で、ランチにはサンドイッチを出しているらしい。ちょっとそっけないくらいの印象なのに、白い外壁に赤で書かれた店名の字体とか、ランプシェード代わりに掛けられている白い布とかには、思いがあるように感じて、食事に来たいと思った。


オリジナルのキャップには店の住所がギリシャ語で書かれている。行くたびに欲しくなって実はすでに4色購入。

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初めて訪れた日には。

近くで大規模なブロカントが開催されていて、ひと回りしてから、お昼を食べに行った。肌寒い天気だったけれど、空気が気持ちよかったのでテラスで食事をすることにした。ひと息ついてから、お手洗いを借りようと店内に入ると、やっぱり電気はついていない。それが、どことなくなつかしさを呼び起こした。螺旋階段を2階に登りながら思い出したのは、日差しが強く暑い夏の日の海の家のような、冷房設備のないどこか。靴下を履いてスニーカーだったのに、その螺旋階段にはビーサンが似合う気がした。