たくさんの人が出入りしてそれぞれの欲望を発散させる場所、ラブホテル。普通に利用するために来店する人ばかりなら良いのだが、なかには窃盗を繰り返したり、事件を引き起こす人もいれば、指名手配犯が隠れていたりすることも…。
今回はラブホテル・レジャーホテル経営の専門コンサルタントとして、日本全国のさまざまなラブホテルの経営を成功させてきた株式会社スパイラル代表取締役の平田壯吉さんに、実際にラブホテルであった事件や不思議なユーザーなどについてお話を聞いた。
◆備品の盗難や破壊は、全部バレていた
平田さんがラブホテルのコンサルティングを始めて30年以上。日本各地のさまざまなホテルの経営に携わっているが、そのなかには困った行為を繰り返すユーザーも少なからずいたという。よくある例では、ラブホテルの室内に置かれている灰皿やグラスなどといった備品の盗難や破壊だ。
「備品の盗難はよくあるのですが、意外にも一回限りのお客ではなく、何度も同じホテルを訪れるリピーターの方が盗んでいくことが結構ありますね。レアなケースでは大きい三面鏡や花瓶の花などを盗られたケースもありました。また、壁に穴を開けられるといったことも時々あります」
しかし、このような迷惑なユーザーの身元を特定するのは非常に簡単だと平田さんは話す。ラブホテルには至るところに監視カメラが設置されているだけでなく、部屋を選択する際のパネルにもカメラが設けられているケースも多く、ほぼ全ての利用者の顔を間近で記録しているのだとか。また車のナンバーも把握できるのでいつでも警察に通報が可能だそうだ。
◆会員カードに前歴が記録されている
しかし、一つひとつ対応しているとキリがないこともあり、よほど悪質で無い限りは通報することはないという。
「ものを盗んだりする人のなかにはメンバー会員になっている人も多くいます。そのような人がメンバーズカードをスキャナーに入れた際には、フロントの画面に『○月○日 グラス盗難』といった前歴が表示されるシステムになっています。このような場合は電話で『こういう行為は二度としないでくださいね』と注意して、再犯防止のための対策を行っています」
だが、窃盗を繰り返すユーザーは別のメンバーズカードに切り替えてしれっと入店するのだという。平田さんは、このような行為のユーザーについては「彼らは我々のホテルを心から気に入っている証拠だ」として、あまり目くじらを立てないようにしているのだそうだ。
しかし、ホテルをどれほど気に入っていたとしても、備品を持ち帰ることは立派な窃盗になるので、絶対にするべきではないことを肝に銘じておいてほしい。
◆児童売春から指名手配犯まで。事件に巻き込まれることも
備品を持ち帰るレベルでは警察沙汰にすることは少ないとそうだが、一方で、ホテル側が事件に巻き込まれることもあるのだとか。ラブホテルでは売春や援助交際などが行われる場合も少なくないため、警察の捜査協力のために情報提供をすることも少なくないそうだ。
「ある時、警察から『15歳の女の子がこのホテルに連れ込まれたから、犯人の逮捕に協力してほしい』という依頼があり、監視カメラのデータを調べてみました。女の子の供述では『男に無理やり連れ込まれた』ということだったのですが、いざ録画を見てみると女の子が男を連れ込んでいた、ということもありましたね」
他にも、ある日警察が急にホテルを訪れて、「○○号室を利用している客が指名手配犯だから捕まえたい」と言ってきたそう。最初は駐車場かどこかで待機して、部屋から出てきたところを捕まえるのかと思いきや、「部屋に踏み込みたい」という要望が。
「てっきり普通の格好で踏み込むのかと思ったのですが、警察の皆さんが防護服にマスク、水中眼鏡、そして盾を持って突撃しました。すると部屋の中にいた犯人が、なんと“熊よけスプレー”を部屋いっぱいに撒き散らして逃亡を図ったんです。前回はこれで逃げられたそうなので、警察もしっかり対策を練ってのことだったそうです」
◆修繕に「300万円」かかってしまった
その後、逃走犯は無事にお縄になり連行されていったそうだ。しかし、スプレーには唐辛子成分が含まれていたため、部屋に入るだけで目が真っ赤になるような状態に。そのため、部屋はしばらく使い物にならなかったという。もちろんこのようなことが起こってしまえば、修繕に時間とお金がかかるため、部屋を稼働できずに儲けを出すことができない状況に。
「しかも、部屋を直すために300万円くらいかかりました。警察の方で修理にかかった日数に出るはずだった利益を計算してもらい、捜査協力費と弁償代として支払っていただきました。また、残りの分は保険が出たのでなんとか修繕はできましたが、もうこのようなことは本当にこりごりですね。二度と起こらないでほしいです」
◆入室10分で退室…さまざまな珍客たち
多くの人間ドラマだけでなく、さまざまなアクシデントの現場にもなってしまうラブホテル。軽微な事案から重大事件まで、対応を余儀なくされてしまうのもラブホテルならではの問題だ。他にも、事件性などは一切ないが変わった客が来ることも多く、「一体何をしているのだろう」と首を傾げることもしばしばあるとか。
「常連のお客様のなかに、一人で入室して10分ちょっとで出て行かれる方がいらっしゃいました。何ができるかわからないほどの短時間なのに、ベッドは乱れているし、お風呂は湯船までいれてある。ゴミ箱に使用済みの避妊具も捨ててある。わざわざお金を払って部屋に入り、一体何をしているのでしょうね。
また、他には郊外の田んぼの中にポツンと建っているホテルに、1日に4~5人の男性を連れて来店される女性のお客様がいらっしゃったりします。きっと売春をしているのでしょうが、どこで出会って連れてくるのかが皆目わからなかったですね。都会のホテルならまだわかるのですが、田舎だったこともあってとても不思議でしたね。」
このような不思議な利用をする人たちは、どこのラブホテルでも少なからずいるそうだ。人気のあるホテルであれば、人の出入りが激しくなる分、さまざまなタイプのユーザーが来店することになる。いわば普通の人から、意味不明な使い方をする人、警察から逃れるために立て籠る人まで……。ラブホテルは、常に人間模様に溢れている現場だ。
<取材・文/越前与 写真提供/株式会社スパイラル>
【越前与(えちぜんあたる)】
ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。