今放送されているNHK連続テレビ小説『虎に翼』は、物語のはじまりに「憲法」の条文が読み上げられ大きな反響を呼びました。
日中戦争や太平洋戦争という悲惨な戦争を体験した日本が、戦後、「平和な国になろう」という決意を込めて制定した「日本国憲法」は、平和憲法とも呼ばれています。
先人たちの作った憲法を大切にしていくべきとする意見がある一方で、時代に合わせて変えるべきだとする意見もあります。憲法はどうあるべきか、それぞれが自分自身で考えていくために知っておきたい「基礎知識」を、ジャーナリストの池上彰氏が解説します。
※この記事は、池上彰氏の著作『知らないではすまされない日本国憲法について池上彰先生に聞いてみた』(学研)より一部抜粋・再構成しています。
戦前の歩みへの反省を起点とした日本国憲法
戦後の日本は、戦争へと突き進んだ戦前の歩みへの反省を起点としています。
そのため、新たに制定された日本国憲法は、明治時代につくられた大日本帝国憲法とは抜本的に異なっています。
大日本帝国憲法は、明治天皇の勅命(ちょくめい)で草案がつくられ、天皇の諮問(しもん)機関である枢密院(すうみついん)の審議で決められた欽定(きんてい)憲法(※)でした。そこには国民の意思は反映されていません。このことからも、日本国憲法の根幹をなす「国民主権」こそ、旧憲法とのもっとも重要な違いというべきです。
※君主によって制定された憲法。
旧憲法では第一条に「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」とあり、また天皇は軍隊の指揮命令をおこなう統帥(とうすい) 権をもっていました。かつての日本は、天皇こそが主権の国だったわけです。
また、日本国憲法は戦争を放棄していますが、旧憲法下の日本には軍隊があり、徴兵制が敷かれていました。戦前は納税とともに兵役が国民の義務とされていました。戦後は、勤労と納税、および子どもに教育を受けさせることが国民の義務になりましたから、これも旧憲法との大きな違いです。
さらに基本的人権が重視され、「侵すことのできない永久の権利」として保障されるようになったのも日本国憲法の重要な点です。
もっとも、旧憲法においても、法律の範囲内で信教や言論・出版・集会の自由は一応認められていました。いわば限定付きの基本的人権だったことになります。
世界のなかの日本という視点
日本国憲法には条文の前に、700字ほどの前文が記されており、 ここには日本がめざすものが掲げられています。それは要するに「平和主義」と「国民主権」の2つです。
このことは、前文の最初のほうに、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と高らかに謳われていることからもわかります。
ひと言でいえば、この前文は「平和の誓い」と言い換えることができますが、大切なポイントがもうひとつ。それは、恒久平和を人類普遍の理想とし、それを「国際協調」によってめざさなくてはならないとしていることです。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」
「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」
とあるように、日本の平和と安定だけを願っているのではなく、世界平和のために努力することを誓っているのです。
このように「世界のなかの日本」という視点が色濃くうかがえるのが、この前文のもうひとつの特徴といえます。
そして最後に、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」と力強く結んでいます。