2000年代後半、「やっちまったな!」のセリフで一世を風靡したお笑いコンビの「クールポコ。」。彼らは現在、芸人としての活動と並行して東京・五反田で「せんbar」という店を経営している。お笑いとはセオリーもノウハウも全く違う飲食業を続けるにあたって、どんな苦労をしているのか。せんちゃん氏、小野まじめ氏に心境を聞いた。
◆自宅での趣味が昂じてお店をオープン
――オープンはいつ、どんなきっかけでしたか?
小野まじめ:オープンは2016年の9月ですね。
せんちゃん:僕が五反田でよく飲んでいたので知り合いも多くて。今のお店の場所がずっと空きテナントになっていたのも知っていたんです。よく飲みに行っていた居酒屋のオーナーに背中を押されてはじめました。
小野まじめ:芸人さんでお店を始める人はたくさんいますよね。でも、コンビでやっている人は見たことがないので、二人で始めることにしました。
――二人ではじめられたとのことですが、店名は「せんbar」で、個人名が冠ですね。
小野まじめ:僕がお酒を飲めなくて戦力にならないからです(笑)。それと、せんちゃんが自宅で「せんbar」というのを開いていたんですよ。家にバーカウンターを作って、先輩や後輩を招待していました。そのネーミングを引き継いだといいますか。
――せんちゃんさんは、お酒を作るのが得意だったんですか?
せんちゃん:得意というほどではないですね。とにかく飲むのが好きなんです(笑)。
◆お笑いファンは「1割にも満たない」
――お客さんは、クールポコ。のファンが中心ですか?
せんちゃん:いえ、お笑いファンは1割にも満たないくらいです。なんなら月に何組かというレベルですよ。基本は五反田で働いている人たちが中心ですね。
小野まじめ:二人でバーをやっていることも、自分たちから発信もしていませんしね。
せんちゃん:あまり「芸人がやってます」とも打ち出さず、普通に飲みにこれるバーとしてやっています。
――とはいえ、口コミで「クールポコ。がやっている」と聞いてくる方もいるんじゃないですか?
小野まじめ:そうですね。ただ、そういうお客さんも「クールポコ。目当て」という感じでくるのは最初の一回だけで、数回来るともう「おう!せんちゃん、来たよ」みたいな雰囲気になりますね。
せんちゃん:だから、「ネタやってよ」とか言われることもほとんどなくて、「一緒に飲もうよ」と言われることが多いですし、常連さんからはLINEで「今日、店にいる?」って連絡が来たりする感じです。
――本当に普通のバーという感じですね。アンガールズの田中さんが、そんなせんちゃんさんの現状を「芸人の魂を失っている」と評したそうです。どうお感じになりますか?
せんちゃん:失ってるかもしれないです(笑)。お店にいるときは「お笑い芸人だ」という自覚はほとんどないですし(笑)。
◆「さらばBAR」に入れなかった人が来店することも
――経営や飲食のノウハウは、お店をはじめてから学ばれたんですか?
せんちゃん:学んだというか、やりながら「なんとなくこんな感じかな」と営業しているくらいです(笑)。
小野まじめ:わからないことも多いので、お互いが以前からお世話になっている税理士さんに相談しながらやっています。
――五反田だと、さらば青春の光さんも「さらばBAR」をやっていますが、どのように差別化していますか?
せんちゃん:僕本人がいるというところですかね。「さらばBAR」にはさらばの二人はいませんもんね。でも、意識して差別化したわけではないんですが。
小野まじめ:でも、お客さんの中に「さらばBARに行こうとしたけど、混んでて入れなかったから来ました」って人もいるよね(笑)。
せんちゃん:そうね(笑)。おこぼれには多少預かってます(笑)。
◆なるべく「力まないこと」を意識
――お酒作りも経営も初めてになると、苦労もあったのではないですか?
せんちゃん:苦労ですか……。あんまり感じたことがないですね。ただ、お客さんが「1杯どうぞ」と言って。お酒をごちそうしてくれるのが、最初は嬉しかったんですが、自分の思った量より飲まなきゃいけない時があるくらい(笑)。
――この先の、せんbarの展望はどうですか?
せんちゃん:展望を考えるには至ってないですね……。
――正直、ここまで熱量がないとは思いませんでした(笑)。
小野まじめ:そうですよね(笑)。
せんちゃん:すいません(笑)。
――でも、このゆるさでコロナも乗り越えて、8年も続けられているのはすごいことですよ!
小野まじめ:テレビに一気に出るようになった頃、力みまくって沈んだことがあるので、そうならないようにはしています。
◆なぜクールポコ。は仲が良いのか?
――熱量的には拍子抜けしますが、お二人の仲の良さが伝わって来ます。テレビに出まくっていた時期、バーを始めたころ、そして今で、お二人の関係性に変化はありますか?
せんちゃん:相方が「お父さんになったな~」と思うくらいですね。
小野まじめ:それ、関係性とは関係ねぇだろ(笑)。ただ、きちんと意思疎通ができて関係も良好じゃないと、お笑い以外にお店を一緒にやろうとは思わないですよね。今後も出てこないんじゃないですかね。
――お笑いだけでなく、お店も一緒にやっていると知って、すごく仲が良いんだなと思いましたが。
小野まじめ:あんまり仲良いというのも気持ち悪いから言いたくないですけどね(笑)。でも、うちの子どもたちもせんちゃんと遊ぶのが好きですし、普段もよく一緒にご飯も行きますし、良い関係性なんだろうなとは思います。
せんちゃん:相方がよく誘うタイプで、僕が誘われたら必ず行くタイプ。だから合うんだと思います。
◆「内村×今田」のようになるはずだった
――日々ストレスフリーで楽しそうにもお見受けします。一方でテレビの出演本数が多かったころはどうでしたか?
せんちゃん:ストレスはありましたね。時間の自由も利きにくいですし。テレビにも慣れていなかったので、アップアップで。今は、お笑いに対しても余裕をもって取り組めています。
小野まじめ:ありがたいことに、今も営業に呼んでくださる場がありますし、お店もお笑いもいい感じでやらせてもらっています。
――テレビの出演本数を増やしたい思いはありますか?
小野まじめ:そうなれば嬉しいですけど、今は家庭もあって妻もフルタイムで働いていますからね……。実際のところ、精神的にパンパンになっちゃうかなと思います。なので、この生活はすごくちょうどいいです(笑)。
――若手のころは「お笑いで天下を獲るぞ!」というギラギラした思いはありましたか?
小野まじめ:もちろん、そう思ってやっていました。でもテレビに出てみて「そういうタイプの人間ではないんだな」と、如実にわかりました(笑)。
せんちゃん:相方は当時、内村光良さんになりたかったんですよ。
小野まじめ:せんちゃんは、今田耕司さんね(笑)。
せんちゃん:でも、気づいたらもちつきしてました(笑)。
――では、もちつきを始めた頃に気がついたんですか?
小野まじめ:いえ、もちつきを始めた頃はまだ、「これをきっかけに」と思っていました。でも、今から考えると、もちつきの先にMCとかないですよね(笑)。
◆いずれは五反田でダーツができる二号店を
――今後、クールポコ。としての将来についてお考えはありますか?
小野まじめ:かつての染之助・染太郎さんのように、「めでたい場といえばクールポコ。」だと思ってもらえるようになりたいですね。あとは、最近はもちつきをする機会も減っていますよね。うちも子供が二人いるので、もちつきをやったことのない子供達にも体験してもらえるようなイベントもやっていけたらいいなと思います。
せんちゃん:バーのほうは、ダーツができるような2号店を五反田で開ければいいですね。
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取材前には、この記事を多くの人に読んでもらいお店が繁盛すればいいと思っていた。しかし、実際に話してみて考えが変わった。五反田で飲んでいる人が、ふと思い出して2軒目として寄ってみるようになればいいと感じた。筆者も、“気が向いたら”顔を出してみようと思う。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。