“史上2番目”2200円超暴落の日経平均「下落はまだまだ終わらない」市場を覆う“恐怖の元凶”とは

 8月2日の東京証券取引所は、前日比2216円63銭安の3万5809円70銭で終えた。

 この下げ幅は1987年のブラックマンデー以来の史上2番目の大きなものだ。前日の8月1日も975円40銭安の3万8126円33銭という終値だったことから、2日で3191円も下げたことになる。しかし、東京株式市場の下落はこれで終わらない。

 2日金曜日の東京市場が閉まったあとの海外市場でも、株価はさらに大きく売り込まれ、下げているからだ。

 シカゴで取引されている、日経平均先物は8月3日午前8時、前日比1105円ほど売り込まれており、日経平均の先物価格は3万4805円を割り込んだ。このため8月5日月曜日の東京市場も大きく荒れそうな気配だ。ちなみに、日経平均だけが売られているわけではなく、ニューヨクダウ、ナスダックともに下げて終わっている。

 つい、3週間ほど前の7月11日に、日経平均は史上最高値の4万2224円の終値をつけていたことがまるで別世界のように思う人もいるだろう。仮に5月曜日の日経平均が3万5000円ほどになるとすると、最高値から7000円以上も下げたことになる。




◆説得力に欠ける“暴落の理由”

 どうして、ここまで下げたのだろうか? それは、市場が恐怖に覆われているからだ。つまり、誰もここまでの下げに対して明確で納得性のある理由を挙げられない。

 あるものは日銀のサプライズ利上げを理由とする。日銀は7月の金融政策決定会合で国債の購入金額の減額の具体策を示すとしていた。それだけでなく、6月時点では9月以降と思われていた利上げも一気に行ったからだという。 

 とてもではないが、そんなことを理由とされても納得がいくものではない。なぜなら、7月の利上げの可能性をいう市場関係者は7月始めから非常に増えており、幾人もの有力政治家からの利上げに関する要請とも受け取られる発言も大きく報道されていた。

 今回発表された、国債買い入れ額を段階的に3兆円までに減らすとしたその規模も、市場関係者には平均値のような数字であり、サプライズよりも市場との対話、合意形成を重んじる植田日銀の決定事項としては、波風の起き得ない数字に着地させた。サプライズにはまったく値しないものだ。

 また、別の専門家は日銀の会合と同時期の7月末に行われたFOMC(米国連邦公開市場委員会)ミーティングを受けてのパウエル議長の発言を理由にあげる。

「利下げはオンザテープル」。オンザテーブル、テーブル上にある、検討中という。利下げの可能性を示唆した発言が、これほど大幅な株価下落のきっかけとなり得るわけがない。

 つい、1か月ほど前までは、アメリカで出てくる経済指標は強く、年内利下げがあったとしても、11月の大統領選挙後の1回きりだろう。それもないかもしれないという観測が強くなっていた。

 これは、出てくる経済指標からインフレが落ちついていないこと、大統領選挙のある年の9月のミーティングでは、金融政策の方向転換は行われないという過去の事例を踏まえての予測でもあった。

 そして、重要なことは、この3週間あまり、アメリカで発表される景気ウォッチャーが重要視する経済指標は、米国経済から過熱感が薄れたことを示すものも多く、9月の利下げもあるかもしれないとする識者の意見も非常に多くなってきたタイミングでのパウエル議長発言で、こちらもサプライズというには程遠いものだ。

 株価が下げた結果を受けて、米国経済の景気減速を嫌気して売られたなどと後講釈の説明をするものもいるが、説得力に欠けている。

◆株価が下げた理由は「株価が下がったから」


 つまり、米国経済の下振れリスクへの警戒、世界的な金融政策の転換といった説明で、この8月の大幅な株価下落を説明することはできない。大手メディアは現象の説明に明確な理由を求めたがる。それがないと記事にならないためだ。下げた理由はどこにあるのだろうか?

 この記事を読んでくれている読者の方も、2日の海外市場で日経平均の先物が売られている理由は説明できるだろう。同日の米国株が下落したこと、円高が146円台まで進んだからだ。さらに、1日も2日の東京市場の下げも、海外市場で株価が下がり、ドル高が是正され円高方向に為替が動いたからだ。為替は円の売り持ちポジションの買い戻しが入ったことがきっかけだった。

 そうなのだ。株価が下げた理由は株価が下がったからだ。

 私は、これこそが本当の理由ではないかと考える。理由はわからないけれど、下がっているのだから、損をする前に売っておこう。ポジションを閉じておこうというわけだ。

 では、最初に売ったのは誰だったのだろうか? 

 それは、円売り、日本株買いのポジションを積みあげていた海外勢の先物、投機筋だ。これも、売りを仕掛けてきたというよりも、持っていた買い持ちポジションを清算する動きに出たというのが正確なところだろう。

 ちょうど、日米ともに決算発表シーズン、各社の業績が発表されている。日米当局の金利に関する変化、大統領選の行方がまたもや混沌としてきたこと。ガザ地区での戦禍は、ハマスの指導者のイラン国内での暗殺やヒズボラとイスラエル間の緊張感の高まりが中東全体に広がるリスクがまた強まってもいる。

 毎年のバカンスシーズンの夏枯れ相場になる前に、大きなリスクを持ちながら休みに入りたくない。

 例年起こるそんなポジション調整が今年は大きく積み上がっていたために、そのリスクオフの流れが大きなものになってしまった。そこに、デイトレやスイングトレードの投機家や、利益確定の売りをしたいと思っていた現物株の投資家の売りも誘ってしまったというわけだろう。

◆調整局面で下げ止まる銘柄は?

 最近は利確の売りが多かった筆者であるが、今回の下落は待ってましたとばかりに、買いたかった値嵩株、上がりすぎていた銘柄を拾うことに専念している。しばらくは、評価損を抱えるかもしれないが、1~2年で値上がりしたらキャピタルゲインを得られればいいと思ってるからだ。これが現物株所有の強みだ。

 株式取引の有名な格言に「落ちるナイフに手を出すな」というものがあるが、どうしても手を出してしまう。そのため時おりケガもするのだが、長期的にはおさまってくるものだ。ということで、今回も手を出している。

 5日からは決算発表後半戦が始まり、さらに、特に欧米ではバカンスシーズンということもあり、今回の調整局面がどこで止まるのかは定かではない。

 しかし、まず下げ止まるのは、好業績にも関わらず、今回の相場全体の調整で連れ安してしまった高配当銘柄ではないか。株価の急落で、配当利回りが急騰している銘柄が少なくない。

 日経平均採用銘柄225社で配当利回り5%台となった企業が6社にもなった。

 特に注目されるのは、円高歓迎発言もあった、日本製鉄(5401)をはじめとする、JFE(5411)、神戸製鋼(5406)の鉄鋼3社だ。それぞれ、日本製鉄が5.00%、JFE5.32%、神戸製鋼5.23%という配当利回り。特に日本製鉄は2日の大幅な市場全体下げの中でもプラスで終わっていて、この配当利回りは非常に強く魅力的だ。

 自動車関連では、いすゞ(7202)が4.85%、マツダ(7261)が4.76%、ホンダ(7267)が4.47%となっている。

 円高は輸出企業の業績を押し下げるが、例えば、マツダは2025年3月末は1ドル136円の為替レートを想定している。この発表は5月に行われたが、その時点での為替レートよりも20円も円高である。トヨタは1ドル145円、ホンダは140円を想定している。このような想定が社内で認定されていることは、当然のことながら、1ドル160円を超える円安の時点では為替予約も入れているだろう。

 だから、円高だから利益が大きく削られるという見方は慎重になったほうがいい。

◆株価の激動が予想される1週間

 今年の初めは143円台で始まった為替も、当時は年末には135円程度までの円高となるという予測が主流だった。今のような急激な為替レートの変動が止まれば、力のある大手輸出企業の見直し、物色も始まるだろう。

 これら、高配当で決算も悪くなく、将来的には値上がりも期待できる銘柄に投資資金を回すとともに、円高、株安、そして、当局からの型式指定の不正問題から組織体制の改善を求める「是正命令」まで出たため大幅に下げているトヨタ自動車(7203)も購入した銘柄だ。

 1日に発表された4-6月期の営業利益が1兆3084億円と史上最高益で、通常なら大幅に株価が上がるはずなのだが、2日の株価は前日比114円安の2585円で終わってる。1月4日の年初来安値2572円とほぼ同水準まで下がっているのだ。

 円高によるインバウンドへの不安、「アナと雪の女王」の世界観で作り上げたファンタジースプリングスや新たにクルーズ事業への投資資金がかさばるオリエンタルランド(4661)の株価も大きく下げ、年初来安値圏で購入した。2日の終値は4014円だった。

 さらに、とばっちりを受けたのが金融、保険株である。

 本来であれば、今回の政策金利の引き上げだけでなく、植田総裁の必要とあればさらなる利上げの可能性もあるとした発言からさらに株価が上がってもおかしくない銘柄まで大きく下げた。

 京都ファイナンシャルグループ(5844)、コンコルディアFG(7186)など金融株も購入したもののひとつ。月曜日には保険会社に指値を入れた。また、7月11日には1万5485円の年初来高値を記録したものの、値嵩株でなかなか買うことのできないソニーグループ(6758)も大きく下げたので買い増しした銘柄のひとつだ。

 先述したように5日、月曜日の市場は大きく下がることが予想されている。3日連続の大きな下げは、調整局面の序盤なのか、底値圏に近づいているのか。それはわからない。決算発表のピーク時期と重なり、荒っぽい値動きに翻弄される1週間もしれない。

※株式投資はご自分の判断と責任に基づいておこなってください。

<文/佐藤治彦>

【佐藤治彦】

経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『つみたてよりも個別株! 新NISAこの10銘柄を買いなさい!』、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『しあわせとお金の距離について』、『安心・安全・確実な投資の教科書』など多数 twitter:@SatoHaruhiko