焼肉店の倒産が急増する中、「牛角」「焼肉きんぐ」大手チェーンが客単価の低い“ランチ営業”を続けるワケ

 焼肉店の倒産が急増している。干ばつなどで米国産牛の供給が減るなど飼育・肥育環境の悪化に、円安による仕入れ価格の高騰が加わり、焼肉店の経営がますます厳しくなっている。

 特に、焼肉の食べ放題の原価対策用や牛丼に使う米国産牛バラ肉(ショートプレート)の国内卸値は、2024年5月に前年同月比63%増の1,436円まで値上がりしており、過去最高値となっている。そんななか大手チェーンに“ランチ営業ブーム”の兆しが出てくる現状を分析したい。

◆売上よりも利益重視の経営

 倒産する焼肉店が増えている中、単価の高いディナーに経営資源を集中して、効率経営を実現したほうが得策だと考える経営者は多い。ランチまで営業する必要はあるか否か、経営者は判断に迷っていると聞く。

 ブランド価値が高い高級焼肉店ならランチ2500円以上の高価格帯で販売できるならやる価値があるかもしれない。だが、1000円程度の低価格だと割高の原価、網代、水光熱費、人件費などを計算したら採算的に合わない店も多いはずだ。

◆焼肉店がランチ営業する目的は?

 ディナーだけで採算が取れている焼肉店なら、無理して昼を営業するより、限りある経営資源をディナーに集中させたほうが経営効率が高く、従業員にもゆとりが出てきて、顧客サービスの質的向上が期待できるだろう。

 しかし、①同じ家賃を払うなら時間をフルに使いたい、②ディナーの単価が上がらず採算が取れない、③現金払いが多いランチで資金繰りを楽にしたい、④人を十分に確保しているので攻めの営業で売上向上を狙いたい、という店があるのだろう。

 景気が悪くなると、真っ先に削られるのが外食。その中でも単価が高いディナーが最も控えられる。だが、久しぶりに人と会う機会や定期的な集まりがあれば、せめてランチくらいには行こうという人が多いだろう。

 飲食業では「重飲食」に該当する焼肉の平均来店頻度は月に1回とされており、単に高いだけでなく、毎日食べるには重たく感じる人は多い。その焼肉を単価の低いランチで食べてもらうのではなく、アルコールも入り客単価が上がるディナーに食べてもらいたいというのが店の本音だろう。

 とりあえず、ランチで店の雰囲気と夜のメニューを知ってもらい、夜に誘導するのが店側の狙いなので、ランチだけで満足されたら困るものだ。

◆ランチ営業するメリットとデメリット

 町の個人焼肉店で、住居兼店舗など自分の不動産なら、賃料の負担は必要ないが、通常は賃料が必要だ。賃料などの固定費は10〜20%に抑制しなければ採算が合わないのが、飲食店の費用構造である。

 駅前など人通りが多い一等立地なら坪当たりの賃料は高いが、売上規模も大きい。一方で、人通りの少ない二等立地なら坪当たりの賃料は低く出店はしやすいが、集客が難しく売上はあまり上がらないから経営は難しい。

 その賃料の支払いのため、ランチを営業して売上を稼ぐ店も多いのが実情だ。昼夜の価格差が大きいと、お客が昼しか来ない事態も焼肉に限らず考えられる。安く焼肉を食べられるのならランチで十分で、わざわざ高いお金を払って、夜に来なくてもという発想だ。

 ランチだけでは店も困るが、それでも店全体の雰囲気を理解してもらえば、ディナーに繋がることはある。焼肉など高額料理はハレの場で利用されることが多い。したがって、頻繁の利用は無理でも、祝い事などに利用してもらえるはずだと思うしかない。

◆コロナ収束してもランチ営業を継続

 コロナ禍は、ディナーのみの営業店も外出制限など特殊事情により、仕方なくランチの営業をしていた。そして、テイクアウトやデリバリーにも対応して現金売上を求めて、運転資金の確保したものだった。

 コロナが収束しても、再感染拡大に備え、そのままランチ営業している店も多くある。特に個人焼肉店にしては死活問題だったため、店頭で焼肉弁当を販売し、店内もランチメニューを拡充して集客に必死だった。

 ディナーとは違い薄利多売だが、店の生き残りのために始めた店も散見された。また、2年以上の自粛営業から蓄積したランチ営業の販売ノウハウを活かすと共に、今後また発生するかもしれない感染症リスク対策として、今なおランチ営業を継続させている店も多い。

◆焼肉大型店チェーンもランチ営業

 昼から焼肉は高いし重たいし、匂いが気になるという人も多い。だが、大型焼肉チェーン店などもランチ営業に取り組んでおり、けっこう盛況な店もある。「牛角」や「焼肉きんぐ」もランチ営業をし、低価格帯の食べ放題(税込2178円)も実施している。

 その他、ゼンショーグループの「焼肉いちばん」、すかいらーくグループの「じゅうじゅうカルビ」もランチ営業をしており、食べ放題だけでなく、低価格の定食メニューも充実させて集客している。さらに大概のチェーン店はセントラルキッチンを有しており、店舗における仕込みの割合は低いが、社員のシフト管理のために、ランチ営業が必要になっている店もある。

 社員は1日8時間労働としてディナー時間だけでは労働時間の管理が難しい。深夜営業する店の割合が低い中では仕方ない。店は1日の時間帯ごとの作業内容が決まっており、固定作業と変動作業を分けながら、それを分業し各自に割り当てている。

 給料を多く欲しい非正規の場合、相当の時間を確保してあげなければならないが、ディナーだけでは限度がある。そのため、ランチ営業までして、働く機会を確保してあげ、定着率を高める狙いもある。

◆それでもランチで赤字は回避しなければ!

 ランチは広告宣伝費と言いながらも赤字は極力避けなければ全体の足を引っ張ることになる。ランチタイムは需要の一気集中が特徴で、お客さんは限られた時間内で食事を済ませようとする。

 だから店は、戦闘状態に入りパニックになることも多い。それに対応するのは徹底した事前準備と捌くための最低限の人員が必要だ。今は最低賃金を、かろうじてクリアする程度の上乗せでは3K(キツイ、キタナイ、給料が安い)の飲食店に人は来ない。

 しかも4時間程度の時間保証をしてあげないと続かない。ファミレス型の大型焼肉店を想定してシミュレーションすると、1人アルバイトを雇用しての日給は時給1,100円として4,400円となり、アルバイトの人件費率を20%に設定すると最低でも2万2,000円の売上が必要だ。

◆生産性が低下するリスクも

 その設定額をクリアしてもっと売上が望めるのなら、アルバイトを1人追加するのもいいが、そうすると1人当たりの売上が減り、生産性が低下するから要注意だ。

 ランチは原価をディナーと違って高めで設定しないと近隣の競合店に負けてしまう。原価40%程度で設定する店が多く、現在の焼肉店の主流価格である1,000円程度の売価であれば原価400円、粗利益600円になる。

 ランチは12~13時に一気集中するから、限られた時間内で客席回転率を高めて機会損失を防止しないと利益はあまり出ない。最低でも水光熱費や人件費の増加分は稼ぎたいものだが、この物価高でお客の店選びがシビアになる中、そう簡単ではない。

◆肉食シニアが増える中、今後の展開は

 今は元気なシニアが多く、肉類を好むシニアが増える中、焼肉の需要自体は堅調だ。「あらゆる供給で需要を喚起」をスローガンにしてランチ需要を取りに行く積極果敢な店もあるが、主要食材である肉類の値上がりは店全体の採算を悪化させるリスクがあるので要注意だ。

 一般的に、人口が増加して市場が伸びるのなら、売上至上主義を徹底し、市場シェアを高めれば経営的にメリットが多い。しかし、売上が全てを癒す時代ではなく、今は人口減少で市場規模が縮小するから、利益中心主義に転換しなければ経営を維持できないとはよく言われること。

 

 効率的な経営をするなら、客単価が高く効率的な運営が可能なディナーに特化したほうが得策と考える経営者は多い。

 焼肉ライクのように昼夜(一人焼肉)の客層が同じで高効率のオペレーションが確立されているなら、営業時間を拡大して売上を求めるのはよく分かる。中長期的視野に基づきランチが店の利益に対するか否かを適切に判断しよう。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan