「夏休みの宿題は必要」東大生が断言。宿題でしか身につかない“ある能力”が人生を左右するワケ

―[貧困東大生・布施川天馬]―

◆賛否分かれる「夏休みの宿題」の存在

 学生にとって夢の期間である「夏休み」に突入しました。電車内や夜行バスは朝も夜も学生で混み合い、ビジネスパーソンの方々には辟易するような期間かもしれませんが、みなさんも夏を享受した覚えがあるのではないでしょうか?

 夏休みといえば、遊び、部活、そして忘れてはいけないのが「宿題」の存在。8月31日まで宿題をため込んだ方も多いでしょう。かくいう私も8月の最終週まで宿題をため込んでいました。

 宿題の存在については以前から賛否が分かれるところです。欧米では夏休みなど長期休暇に宿題を出さない地域も多いとか。また、日本国内でも、受験にいそしむ家庭では、塾の課題に追われる子どもの代わりに親が宿題を解くケースもあるそうです。

 では、夏休みの宿題は本当に必要ないのでしょうか? 私はそうは思いません。むしろ、夏休みの宿題程度も一人で終わらせられないのであれば、東大どころかどの大学を受けても失敗するであろうと予想します。

 これは、「宿題をやる子とやらない子で学力に差が付くから」ではありません。もっと根本的な理由があるからです。

◆受験は「納期」である

 そもそも、大学入試などの受験で問われる能力の本質とはなんでしょうか。もちろん、「学力」ではありません。正解は「期日までに要求された仕事がこなせるか」というスケジュール管理能力です。

 よく勘違いされることですが、どのような試験であっても、闇雲に勉強しては合格できません。「試験できかれること」に対応できるような知識、考え方を学習することによって、初めて合格できるのです。

 例えば、東京大学の数学では、ほぼ毎回決まって「微分・積分」分野の問題が出題されます。一方で、「空間図形」や「データの整理」などの分野は、全く出題されません。

 この時、「微分積分は全く触れていないけれど、空間図形の勉強を500時間やってきたAくん」は合格できそうでしょうか? みなさんの予想通り、おそらく落ちるでしょう。

 試験で問われる内容について答えられることこそが、受験勉強で目指すべき理想状態です。となれば、試験で問われない知識の勉強は必要がありませんし、それを勉強にカウントしてもいけない。

 どんな試験であろうとも、大抵は過去問が存在します。受験勉強は、過去問の研究から試験の出題傾向と、出題分野の偏りなどを分析して、必要だと予想される知識を洗い出し、ピンポイントに学習することで成り立つのです。

 そのためには、「①必要な仕事の洗い出し」「②期日までに仕事を終わらせる計画作り」の二つの能力が必要となります。そして、夏休みの課題は、②を鍛えるためにピッタリなのです。

◆「夏休みの宿題」は受験の予行練習


 夏休みの宿題は、「やるべき仕事量が決まっている状況」で、「8/31までに終わらせる」と〆切も決まっているような課題です。これが自分で管理できないのであれば、1年近くにも及ぶ受験勉強について、〆切を遵守できるはずもありません。

 夏休みの宿題の本質は、勉強内容の復習ではなく、1か月~2カ月という長期休みの中で、自分で学習計画を立案し、それを遂行するシミュレーションにあるのです。

 だからこそ、「夏休みの宿題を親が代わりにやる」なんてもってのほかです。シミュレートが台無しになってしまいます。そういった家庭はきっと、「塾の出した課題を闇雲に解いていれば、難関大に合格できるだけの実力が手に入っている」と素朴に信じているのでしょう。

 確かにそれは間違いありませんが、それで出来上がるのは「自分で学習計画ひとつも決めたことがない、お勉強だけできる大学生」です。

 彼らは、管理された状況では人一倍のスコアをたたき出しますが、「自分の判断で納期を切って進める仕事」に直面した瞬間に、フリーズしてしまうきらいがあります。世間で耳にする「東大までの人」のイメージとピッタリ合致するように感じられるのは私だけでしょうか?

◆親が意識すべき2つの約束

 子どもの自立を信じるのであれば、夏休みの宿題は手伝わないこと。そして、進捗度合いについても口を出さないこと。この二つの約束が重要です。

 前者はもってのほかとして、進捗度合いに口出ししないことも重要。「納期を守る」ことと「早く終わらせる」ことは無関係だからです。

 極論、8月31日時点で終わっていなくても、9月の登校日の朝にすべて終わっていれば、何も問題はありません。「締め切りを守る」ことが重要であって、その過程は問われない。この自由度が、子どもの自立心を育みます。

 自分でスケジュールを組み、その中で遊び、学び、成長する。これこそが、学生時代の夏休みの醍醐味でしょう。この夏は、すべて子どもに任せて見守り続けてみるのはいかがでしょうか。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】

1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)