鉄道ネタで最高収入は「駅員時代の5倍」に。元JRと元メトロのお笑いコンビが語る駅員の苦労

「駅員あるある」や「鉄道ネタ」の動画が人気で、YouTube登録者数が2人合わせて80万人を超えるお笑いコンビ、パンタグラフ。元東京メトロ職員の鈴木メトロさん(33)と、元JR東海職員のたくあんボーイさん(27)が組んだ異色の“元駅員コンビ”だ。

 クセの強い迷惑客や、ハードな労働環境など、元駅員でないと発信できないリアルな動画が話題を呼んでいる2人に、駅員時代の苦労を振り返ってもらった。

◆有楽町線豊洲駅とJR豊橋駅で働いていた

――お二人が駅員になったきっかけを教えてください。いわゆる“鉄オタ”だったんですか?

鈴木メトロ(以下、鈴木):まったくですね。僕はとにかく北海道を出て東京に行きたかったので、東京勤務の求人を片っ端から受けるつもりだったんです。最初の内定がたまたま東京メトロで、有楽町線の豊洲駅で駅員になりました。

たくあんボーイ(以下、たくあん):僕も鉄オタではなかったです。工業高校から車両整備の仕事を希望していましたが、来た求人がJR東海の運輸職だけだったので、JR豊橋駅の駅員になりました。

――東京の地下鉄と地方のターミナル駅、同じ駅員でも対照的ですね。

鈴木:地下鉄は日の光を浴びれないので、時間感覚が狂うんですよ。あと本当に空気が悪くて、体調を崩す職員もいました。1時間ホーム整理していたら、鼻の中がススで真っ黒になるんです。

たくあん:豊橋の空気はキレイでしたよ(笑)。基本的にはのどかな雰囲気なんですが、地方だからヤンキーが多い。いかついお兄さんたちのケンカを仲裁するのは緊張しました。「ピーッ」って笛鳴らしながら近づくんですけど。

◆「切符無くしたんですけど」嘘をついたら運賃3倍に

――お二人のYouTubeでは様々なタイプの“迷惑客”がネタになっていますが、印象的だった出来事はありますか?

鈴木:「切符無くしたんですけど」って、乗車駅より近くの駅から来たフリをして安く済ませようとする人はよくいました。お客様を信じたい気持ちもありますが、中にはすごく高圧的な態度の人もいて…そういう時は「乗車駅の監視カメラを確認します」と言ってました。白状したら運賃の3倍を徴収する決まりで。

たくあん:「監視カメラ」ってワードは強いよね。あとは、期限切れの定期で改札を抜けようとする人も多かったです。指で日付を隠して見せてくるんですけど、不自然なのですぐわかります。ちなみに豊橋駅も不正があった時は3倍運賃を徴収していましたよ。

◆人身事故の55%は故意ではなく酔っ払い


鈴木:あとシンプルに一番イヤだったのは酔っ払い客です。電車が来るタイミングで酔っ払いにタックルされた時は身の危険を感じましたね。「人身事故の55%は故意ではなく酔っ払い」と駅長に教わりました。吐しゃ物の処理もしなきゃいけないし…

たくあん:JR東海は、吐しゃ物処理は別会社の業務でしたよ。山本さんっていうおじさんがいつもやってくれてました。

鈴木:なんだか差を感じますね(笑)。こっちは自分でおがくずかけて掃除してたのに!

◆駅員に「敬語の使い方がなってない」と説教する老人


――お話を聞いていると、本来の業務じゃないところに苦労が多いように感じます。

鈴木:はい。豊洲のタワマンに住んでるようなマダムから「駅の入口に車を停めてるから、ちょっと見といてくれないかしら?息子迎えに行くだけだからすぐだし」と言われた時はさすがに唖然としました。

たくあん:僕はおばあちゃんにスマホを見せられて「画面がフリーズしたから修理して」と頼まれたことがありました。暇な時間だったので再起動して直してあげましたけど「俺なにやってるんだろう」って。

 あと、「敬語の使い方がなってない」って高齢の女性に指摘されたり。敬語について書かれた本を渡されて、数十分ずっと説教されて…結局、怒りすぎて血圧が上がったのか倒れちゃって、救急車を呼ぶことになりました。

◆ロンドンの駅員から学んだこと


――遅延や運休が発生した時も、矢面に立たされるのは駅員さんですよね。

鈴木:普通に「タクシー代を出せ」と言われたこともありました。「バスを用意しろ」「タダで電車に乗せろ」とか。

たくあん:大雨で新幹線が止まってしまい、お客様に駅に泊まってもらったことがありました。「いつになったら帰れるんだ」とか一晩中言われて謝っていると、なんかぼーっとしてくるんですよね。確かに迷惑をかけてしまっているけど、原因は自分じゃないし…。

鈴木:学生時代、修学旅行でロンドンに行ったことがあって。人身事故が起きた時の駅員の対応に驚きました。日本だったらペコペコ謝ると思うんですけど、「出てけ!出てけ!」と駅から追い出されて終わりだったんです。

 自分が駅員になってからも、その光景を思い出して「無理な時は無理」と毅然とした態度でいることを心がけていました。

◆YouTube視聴者の8割は子供

――本当にハードな職場ですね。そんな中で、何かやりがいはありましたか?

鈴木:とにかく忙しくて、目の前のことでいっぱいいっぱいでした(笑)。強いて言えばホームアナウンスですね、これは駅員の特権なので。

たくあん:僕は駅のイベントですかね。子供たちと触れ合ったりすると、自分が「憧れてもらえる職業」に就いていると感じることができて、それがうれしかったです。

鈴木:実際、僕らのYouTubeの視聴者も8割は子供なんです。先日のイベントにも親子連れの方がたくさん来てくれました。僕たちのネタや動画を楽しんでくれる人がいるのは素直にうれしいです。

――最近、お二人のYouTube登録者数は計80万人を超えました。駅員時代と比べて、収入面の変化もありますか?

たくあん:調子が良かった月は、駅員時代の5倍の収益を上げることができました。駅員は本当にハードな仕事だったけど、この時の経験が無ければ僕たちはここまでこれなかったと思います。

 若い世代を中心にファンを広げているパンタグラフ。駅員時代の数々の苦労が、今の彼らを支えている。

<取材・文/日刊SPA!編集部>