美は押しつけるものではなく、引き出すもの。「パルファム ジバンシイ」などを擁するLVMHフレグランスブランズ社長の金山桃さんは、この言葉を大事にしている。世界的に有名なファッションデザイナーであり、ブランドの創業者でもあるユベール・ド・ジバンシィの言葉だ。化粧品がステレオタイプな美を打ち破り、ひとりでも多くの人に喜びや力を与えるためのチャレンジを続けている。
「大志を抱くことを恥ずかしがるな」
30年の海外生活でマイノリティーであることを意識しながら生きてきた。嫌なことや悲しいことも経験してきた。シングルマザーでもある。日本に戻り、日本社会でも苦労は続く。日本語は上手とは言えないし、読み書きに苦労する。しかし、伝えようとする強い意志と、違う立場の人をも理解した上での表現が随所にある。CSR(企業の社会的責任)に力を入れるのも、自身の経験が背景にある。LGBTQ+のコミュニティーを支持するという企業姿勢の表明として、東京レインボープライドに2年連続で参加した。
好きな言葉を尋ねると「It’s OK」という言葉が返ってきた。日本語でいえば、「なんとかなる」。
「線路が敷かれたところを走り、やることを指示されたほうが楽と思う人もいる。でも、私は人と同じことをするのは好きではないし、負けず嫌い。みんなが取り組んでいることに対してそれぞれが誇りに思えるようにしていきたい。かつての上司が言いました。『大きな志を抱くことを恥ずかしがるな』と」。
ブランドの遺産を大事にしながらアップデートし、未来につないでいく。決して誰かを排除することなく、できるだけ多くの人たちの美しさを引き出し、よろこびをもたらすように。
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
photo: Kenta Kikuchi
hair & make-up: Miki Yamashita
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