寄付への身近な場をつくることが寄付文化を醸成する
――谷田さんが「KIFUBAR」での経験を通して、気付いたことはありますか?
谷田:そうですね。どんなNPO団体も、寄付を集めるために支援者のニーズを把握して、効果的なアクションを促すために真面目に議論していると思いますが、そればかりが効果的な方法ではないように感じています。
NPOが寄付をしてくれた方に「どうして私たちの団体に寄付してくれたんですか?」とアンケートでたずねたら、大半は「活動内容に関心があった」と回答するのではないかと思います。でも、「それって、本当の理由じゃないのでは?」とも思うんです。
――どういうことでしょう?
谷田:例えば、僕がPCを購入したとして、誰かに「どうしてそのPCにしたんですか?」と聞かれたら、「軽くて、性能も良くて……」と、もっともらしく機能性とかを語ってしまうと思うんですよ。
でも、実際のところは「たまたま電気屋さんで見かけて、かっこいいなと思って、店員さんも上手におすすめしてきたから買ってしまった」というのが、理由ってこともあるじゃないですか。機能性うんぬんはあと付けで、「いいなと思っていたら、ちょうど勧められたからノリで買ってしまった」が本当の理由です。こういった回答はアンケートでは出てこないでしょう。
だから、寄付についても同じように、「たまたまネットで見たから」とか、「知り合いの知り合いが団体にいるから」とか、「友だちが寄付していたから」が行動のきっかけになっていることも多いと思うんですよね。
――確かにアンケートとなると、しっかりした回答をしてしまいがちですね。
谷田:ですよね。「KIFUBAR」はたまたま飲みに来たら、活動について情熱的に語る人がいて、「なんとなく」や「ノリ」で寄付が始める場所なんです。
寄付ってもっと気軽にしてもいいものだと思ってます。この「なんとなく」や「ノリ」で参加してくれる人を増やしていくことが重要な気がするんですよ。
――「KIFUBAR」としての目標はありますか?
谷田:僕自身が楽しいので、今後も「KIFUBAR」の活動は続けていくつもりです。総額で1億円寄付したいという夢はありますが、僕一人で実現するのは大変ですね(笑)。
「KIFUBAR」は“のれん分け”のような形で、やり方などのフォーマットを共有しています。ぜひ全国各地に「KIFUBAR」が広がっていって、いろんな方がそれぞれのコンセプトで開催してくれたらうれしいです。
先日、広島で開催した「KIFUBAR」では、登壇者が身内の方の戦争体験や原爆問題を取り上げていて、ハッとしました。地域ごとに、その場所ならではの活動や、みんなの関心が高い課題があると思うんですよ。
「KIFUBAR」を通して輪が広がって、つながっていったらいいなと思います。
――日本人にとって寄付はまだまだ心理的ハードルが高いと思うのですが、寄付をもっと身近にするために、私たち一人一人にできることはどんなことでしょうか?
谷田:あくまで個人的な考えですけど、真面目に向き合い過ぎないことだと思うんですよ。もちろん真面目に向き合うことは大事ですし、素晴らしいと思います。不真面目は絶対だめなんですけど(笑)。
例えば、「自分が寄付したお金が、どこでどんなふうに使われているのか」を意識し過ぎるあまり、結局寄付そのものをやめてしまったり、受け取る側もそういった「真面目な寄付者」のための発言や行動をせざるを得なくなったりする。それだと、結局、寄付文化が「真面目に向き合う人しか参加できないもの」となってしまって、どんどん縮小していってしまうと思うんですよ。
海外でアーティストがチャリティーコンサートを行うと、何十億円という金額が寄付されるということをよく聞きます。でも、寄付した人の中にはお金の使い道を気にしていない人もいると思うんですよ。「素晴らしいライブだった! 寄付したお金は、なんかいい感じに使ってくれよな」という感覚なのではないかと想像します。
これが、寄付活動が拡大していくために必要な“余白”だと僕は考えています。「飲みに行くついでに寄付しました」とか、「ふだん現金は使わないから、小銭を募金箱に入れました」といった感じで、もっと身近に感じられる寄付が生まれる文化が根付いたらいいですね。
イベント中、参加者と話す谷田さん
編集後記
谷田さんが言うように、「社会貢献したい」という思いはありながらも、難しく考え過ぎて動けなくなっている人が多いのかもしれないと感じました。
「社会を良くするために、何ができるか?」をじっくり考えることも大切ですが、寄付文化を浸透させるためには、「せっかくだから、今日この場所で出会った〇〇さんを応援しよう!」という気持ちになるような、“場”が必要なのかもしれません。
この記事をきっかけに興味を持たれた方は、ぜひ一度、「KIFUBAR」に足を運んでみてもらえればと思います。
撮影:十河英三郎
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