「2m20cmの髪」から丸刈りに…“日本一髪が長い女性”が病気で髪を失って気づいた「自分の武器」

かつて“日本一髪の長い女性”と称された神戸リン(@rin_rapunzel)さんという女性がいる。美しく黒光りする彼女の髪は、最長でなんと2m20cmにも及んだ。たえまぬ日々の努力と忍耐によって、ようやくたどり着いた境地なわけだが、好事魔多し。数年前に意図せずして失う事態に直面してしまう。劇的な人生を歩む神戸さんに事の顛末について語ってもらった。

◆18年間伸ばした髪は、「2m20cm」に

2002年〜2006年頃、クラブイベントなどに出演するダンサーとして生計を立てていた神戸さん。当時は、髪を伸ばしてはおらず、ウィッグをつけて様々な髪型で表現をするのが彼女のスタイル。髪を伸ばし始めたのは、勤めていた旅行会を辞めダンスで生きていこうと一念発起しニューヨークに渡ってから。

「ありのままの自分を表現することが求められましたし、そうでないと勝負にならない環境。色々な国籍の女性がいる場所に身を置くなかで、私は“アジアの美”に誇りを持って戦いたいと思うようになって。アジア人女性のアイデンティティの一つである『地毛の黒髪』を綺麗に伸ばして踊ろうと決意し、髪を含めた全身で勝負するようになりました。目標としては昔話の『かぐや姫』や、平安時代のお姫様のイメージです」

とはいえ、長すぎる髪はダンスをするうえで邪魔になることもあるだろう。神戸さんも当時は足首まで切りそろえていたという。それから2m20cmまで伸ばすことになったきっかけは、エンターテイメント界に大きな影を落としたある出来事だった。

「コロナが広まって人を集めるショーができなくなりました。その時にロングヘアーモデルとして生計を立てるようになったんです。それによって、長ければ長いほど希少価値が高まって仕事が来るんですよね。ダンサー時代は多少切ってはいましたが、伸ばしていた期間は合計で18年くらいになります」

◆洗髪は「3時間かかる」

これだけ髪が長いと、気になるのはシャンプーやドライヤーの時間。神戸さんはどのくらいの時間をかけていたのだろうか。

「シャンプー/トリートメント/ドライヤーのセットで3時間くらいかかります。なので、洗髪する日をスケジュールに組み込んでいました。内訳でいうと、シャンプーとトリートメントで1時間半くらい、そしてドライヤーで1時間半くらいですね」

神戸さんはこれほどの大仕事を一人でこなしていたというが、シャンプーなどの減りも私達よりも圧倒的に早そうだ。

「実は他の人とそんなに変わりません。なぜなら、シャンプーは基本的に頭皮を洗うために使うからです。ただ、トリートメントは髪全体に使うので、7回使ったら1本がなくなってしまいますね」

◆重いから「首や肩が疲れる」

洗髪の話だけで、私たちとは大きく違った日常が見えた。きっとその他にも私達の知り得ない“髪長すぎる人あるある”が存在するはずだ。

「とにかく重たいので、首や肩が疲れます。また、歩く時も踏まないように気をつけますし、座る時もお尻で踏まないように気をつけています。あとは、1本抜けるだけで、いちいち切なくなりますね。18年間一緒に生きてきた髪ですから」

なんだか、苦労ばかりのようだが「外で髪を下ろしていると、知らない子供たちが集まってきますね(笑)」とほんわかする場面を生み出すことも。

さらに、レジャーの場面でも私たちとは違った一面が。

「海やプールはまったく行きませんね。乾かすのが大変すぎますから。それから、ジェットコースターには乗らなくなりました。以前、乗った時にまとめていた髪がほどけそうになって大変でして……。もしほどけた場合、例えば三つ編みにしていたら、後ろの人が大きな鞭で襲われるような大参事になりますからね(笑)」

◆突然、髪が「取れていくような感覚」に…

そんな神戸さんを、突然大きな岐路に立たせる変化が始まったのが、2022年の12月のこと。

「なんだか『抜ける量が、ちょっと多いかな?』と違和感を覚えはじめたんです。最初はあまり気にしていなかったんですが、2023年に入ってから急激に脱毛がはじまって、抜けるというよりは取れていくような感覚でした。そこで病気だと確信しました」

彼女を襲ったのは、免疫系の疾患が原因で起きた「広汎性円形脱毛症」。大切に髪を伸ばしてきた彼女にとって、神も仏もないとさえ思える沙汰ではないか。

「仕事道具であり、宝ものであった髪がなくなっていくのは、当然不安でした。そして毎日、大量に抜けて明日の自分がどんな姿になっているかわからないという恐怖に襲われて。先々の生活も心配になりましたし、鏡を見るのも辛くなりました」

◆「髪をバリカンで刈って丸坊主になる」動画を公開

絶望のどん底に落とされた神戸さん。そんな中である1本の動画をSNSで公開する。それは、誰よりも長い髪をバリカンで刈って丸坊主になるという衝撃的な内容。

「恐怖や不安を一人では抱えきれず、知人や友人に打ち明けたんですが、みな温かい励ましの言葉をくれて。おかげで、治療と向き合う気持ちがふつふつと湧き、病気を乗り越えていこうと心の底から思えました。いわば、心に光を灯らせてもらった感覚になったところで、動画の公開を決めたんです」

多くの人の支えと彼女自身の心の強さによって、気持ちが前向きに変化してきた神戸さん。

根本的な治療法はないというが、入院をして治療を続け、世界初となる「頭部への炎症を抑えるためのカテーテル手術」も受け、現在は新しい髪が生え始めている。

◆髪を失ってから気づいたこと

“日本一髪の長い女性”が、一転して髪を失う――。あまりに残酷な展開だが、この状況を経てから見えるようになった景色もある。

「長く美しい髪を自己表現の武器として使っていましたが、髪を失ってからはどんな時でも諦めない心の強さこそが、自分が持つ最大の武器だと感じました。生きていると様々な困難がありますが、この病気が私に教えてくれたのは、『人は誰でも、自分が生きているありのままの姿を誇りに思うことができる』ということです」

逆境を乗り越え、堂々と“今の自分”を発信する姿には、尊敬の念を感じざるを得ない。まさに、“ないものねだり”で日々苦しみ続ける多くの現代人が参考にすべき対象なのではないか。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。