広い一戸建ての家に1人、あるいは2人で暮すお年寄り。一方、高い家賃に悩む若者。若者が独居老人の空き部屋に住めば、高齢者の孤立化を防げるし、住宅費軽減にもつながり、一石二鳥となる。
第一生命経済研究所の福澤涼子さんが、「異世代ホームシェア」という、世界に広がる血縁関係によらない世代間の支え合いを提言している。
いったい、どんな仕組みなのか。昭和によくあった「下宿」とどう違うのか。話を聞いた。
マッチング業者が、高齢者と学生双方の希望を詳しく聞く
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部副主任研究員の福澤涼子さんのリポート「高齢者と若者の共住『異世代ホームシェア』~世界で広がる血縁関係によらない世代間の支え合い~」(2024年7月9日)によると、「異世代ホームシェア」とは、一見、かつての「下宿」の現代版といったかたちだ。
つまり、高齢者が住む持ち家の空き部屋を活用して、血縁関係のない若者と高齢者が共同生活を送る仕組みだ。それぞれが自立して生活することを前提にしつつも、可能な範囲で交流や助け合いを行う。
都市部に住む高齢者の孤立・孤独の解消と、家賃の高さに悩む若者の負担軽減の一石二鳥が目的だ。
高齢者の孤独が深刻になっている欧米諸国では1990年代に始まった。日本では大学が多く「学生の街」といわれる京都府や、首都圏、奈良県、福井県などに広がり始めている。
自治体が主導する先駆的な事例である京都府の次世代下宿「京都ソリデール事業」(『ソリデール』はフランス語の『連帯』の意味)の仕組みはこうだ【図表】。
(図表)京都ソリデール事業の仕組み(京都府ホームページより)
業務委託しているマッチング事業者が高齢者と学生双方の希望を詳しくヒアリングしてマッチングを行い、生活ルールを一緒に検討したり、面談の場に立ち会ったり、入居後に不満はないか、小まめにアフターフォローをしたりする。ヒアリングの内容は、希望の家賃だけではなく、希望の交流の頻度や生活スタイルも含む。
ときにはお試し同居期間も設けて、慎重にマッチングしていく。家賃は毎月2万5000円~3万5000円ほど。事業が始まった2016年から2023年度末まで合計65組の同居を支援した。
高齢者と若者のホームシェアは多くのメリットがある。
実際、研究員の福澤さんが当事者の話を聞いたケースでは、高齢者が若者からイマドキの価値観やパソコン・スマホの使い方を学んだり、逆に若者が親にはできない恋愛相談をしたりと、「日々刺激を得られる」結果になったという。
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熱波で高齢者数万人が死んだ欧州、その反省から広がる
J‐CASTニュースBiz編集部は、第一生命経済研究所の福澤涼子さんに話を聞いた。
――私は70代半ばですが、昭和には「下宿」がありました。地方から上京した学生や若い社会人が当たり前に下宿に間借りしました。上京後、不動産屋を歩いて自分で探したり、大学から紹介されたりしたものです。
思えば、特に女性の場合は、家主のオバサンに郷土の母親代わりに「嫁入り前の娘さんを預かる」という意識が強く、門限を夜8時などと厳しく制限、3回破ったら追い出したりするケースもありました。
そうした昭和の下宿と、「異世代ホームシェア」とは、ズバリどこが違うのでしょうか
福澤涼子さん 門限があって破ったら罰則といった当時の下宿とは大きく異なりますね! 現代の価値観では、そうした束縛の強い下宿はあまり支持されないのかもしれません。ただ、「異世代ホームシェア」は「次世代下宿」とも呼ばれるので、かつての下宿の延長と考えることもできます。
昔は、単身に適したアパートやマンションが少なく、上京する若者が住むところがあまりありませんでした。だから、持ち家の空いている部屋を貸す下宿が、ビジネスとして成立したのでしょう。
今、高齢者の孤立がどんどん進んでいます。「異世代ホームシェア」は、高齢者の持ち家の空いている部屋に若者を住まわせて、若者と交流することで、高齢者の孤立という社会課題の解消を目指しています。また、若者にとっても安く住むことができるので、ウィンウィンの関係です。
改めて昭和の下宿が見直されているということだと思います。
――「異世代ホームシェア」は、ビジネスが主な目的ではないということですね。海外から入ってきたとリポートにはありますが。
福澤涼子さん 1990年代にスペインで高齢者の孤独化を防ぐ社会事業として始まり、欧州に広がりました。2003年に歴史的な猛暑(熱波)が欧州を襲った時、欧州全土で約7万人、フランスでも75歳以上の高齢者を中心に1万4800人が亡くなりました。命を落とした高齢者の大半が一人住まいだったと言われます。
一方、パリなどでは年々家賃が高くなり、若者が市内に住むことが難しくなっています。もし、熱波の時に若者が高齢者と一緒に住んでいれば、多くの命を救えたでしょう。
そこで、フランスの自治体やNPOが中心になって独居高齢者の住宅の空き部屋を若者に安く紹介する「異世代ホームシェア」が進みました。