家主と交流が多いほど、家賃が安くなるフランス方式

――昭和の下宿と違って、ただ若者が空き部屋に住むだけでなく、家主の高齢者と交流することが大切になるわけですね。

福澤涼子さん そのとおりです。フランスの家主さんは日頃から若者と一緒に食事をしたり、話をしたり、交流することを望む人が多いです。

日本ではそういうシステムはありませんが、フランスでは一緒に過ごす時間が多いか、少ないかといった交流の頻度に応じて家賃が変化する仕組みになっているそうです。

もちろん、交流が多いほど安くなります。

千葉大学大学院の丁志映助教の報告によると、たとえば、学生が夕食以降、毎晩高齢者と共に時間を過ごし、週末も家にいるなら家賃が無料に。

学生が定期的に在宅して買い物を手伝ったり、パソコン操作を教えたり、食事を一緒にしたりする、とか、いくつかの段階に分けて家賃の額が決まっています。契約の時に学生がどんな手伝いをするか、自由に選ぶことができます。

――日本ではどうなのでしょうか。家主、若者、それぞれにとって大事なことは何ですか。

福澤涼子さん そもそもの目的が、高齢者の孤立解消ですから、入居する若者はその趣旨をしっかり理解することが前提になります。

家主さんと交流する意思がないと、プログラムには参加できません。「そんな面倒くさいことはお断りだ」「プライバシーを守りたい」という人は、マッチング事業者との最初のヒアリングから外されます。

また、家主さんの側にも、「自分の足腰が弱っているから、若者に助けてもらいたい」とか「いざという時は介護の担い手になってほしい」という気持ちがあっては、参加できません。

お互いに、精神的にも肉体的にも相手に依存しない、「自立した大人同士」の関係というのがプログラムの大前提です。

私が何人かの家主さんや若者にお会いした時も、みな「ほどほどの距離感が大切です」と口をそろえていました。

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「ほどほどの距離感」が一番の秘訣

――「ほどほどの距離感」ですか。いい言葉ですね。具体的には皆さん、どんな生活をしているのですか。

福澤涼子さん 東京都に住む70代男性のAさん。お母さんが亡くなった後、家を壊すのがもったいなくて、趣味のDIYを活かして家を自分で建て直しました。1人暮らしは寂しいし、住まいに困っている人を助けたいという気持ちから、家の空き部屋を貸し始めました。かつては、男性や中高年女性も暮らしていましたが、現在では3人の若い女性と同居しています。

Aさんは1階。女性たちは2階でお風呂、トイレ、台所を共用。玄関に目印になる置物があり、それを使った在宅が否かをお互いに知らせ合う仕組みを取り入れています【下の写真参照】。

家賃は、新宿まで電車で40分ですが、光熱費込みで5万円以下。住人のうち1人は、以前若者だけのシェアハウスに住んだことがあり、若者同士の付き合いに負担を感じることもあったそう。こちらは家主さんがお年寄りだから、生活スタイルが落ち着いてリラックスできると言っていました。



玄関の置物を使って、互いに在宅か否かを知らせ合うAさん宅の仕組み(福澤涼子さん撮影)

――若い人との暮らしは、どういうものなのでしょう?

福澤涼子さん Aさんは毎日挨拶する人がいるだけで、生活に張りが出ると言っていました。最近もAさんがコロナに感染してしまったそうなのですが、住人たちがゴミ捨てを協力してくれたり、励ましてくれたりしたおかげで助かったと言っていましたよ。

日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>に続きます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員

2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。5歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。