公立校の教員に残業代を支払わない根拠となる通称「給特法(教員給与特別措置法)」の改廃を求める集会が2日、東京都内で開かれた。教員の長時間労働が社会問題化している中で、今年5月、文部科学省の中央教育審議会(中教審)の特別部会が、給特法の枠組みを維持する方針をまとめたことを受け、労働者の権利擁護を行う「労働弁護団」が開催。集会の内容は、YouTubeでもライブ配信された。
教員の過労死事案に多く対応してきた弁護士の他、現役の教員や、教育学者、教員志望の学生ら10人が登壇し、それぞれの立場から給特法が引き起こす長時間労働や過重労働、教員志望者の減少といった実態を指摘。給特法の抜本的な改正や廃止を求めた。
残業は「自主的な活動」で労働ではない?
給料月額4%の“教職調整額”を支給する代わりに、時間外・休日勤務手当(超勤手当)を支給しないことを定める給特法。労働者の働きすぎなどを防ぐ労働基準法(労基法)の特例となっている。
本来、公立校の教員に対しては、以下4つの項目(超勤4項目)を除いて時間外勤務を命じることはできない。
① 校外実習その他生徒の実習に関する業務
② 修学旅行その他学校の行事に関する業務
③ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
④ 非常災害の場合、児童または生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
しかし実際には、生徒指導や部活動の顧問など恒常的な業務だけですでに所定勤務時間を超えてしまう場合も少なくない。その際、勤務時間と変わらない業務をしていても、時間外に行った業務については残業代が出ないだけでなく、「自主的・自発的な活動」としてそもそも労働時間にカウントされない実態がある。
労働弁護団の常任幹事である嶋﨑量弁護士は「時間外勤務が命じられないという建前を逆手にとって、『残業は自主的な活動だから労働ではない』という言い分がまかり通っている。現場では労働時間すら正確に把握されていないこともある。労基法の最低限の『労働時間の規制』すらも守られていないのが給特法で、これは憲法に違反していると考えている」と訴えた。
(嶋﨑弁護士による配布資料)
月155時間の時間外勤務でも「命じていない」責任逃れ
自らも長時間労働で適応障害を発症した西本武史氏(大阪府立高校教諭)は、給特法について「時間外勤務を命じてはいけない“良い法律”であるという意見もたまに聞くが、全く現場を理解していない、あるいは現場を無視している考えだ」と言い切る。
西本氏は、適応障害を発症したのは長時間労働を余儀なくされたことが原因だとして大阪府に損害賠償を求める裁判を起こし、2022年6月に勝訴している。その裁判の経験から「いざとなったら使用者は、全面的に給特法を盾に取ってくる」と指摘し、次のように述べた。
「適応障害を発症する前、多い月で155時間に上る時間外勤務があった。当時の担当業務は、担任、授業、生徒指導、ラグビー部の顧問。それから国際交流委員会の委員長として夏休みには2週間オーストラリアへの引率と、その準備などに携わっていた。担任や部活動の顧問だけでも、今の学校現場では長時間労働になってしまう。それでも裁判では、『時間外労働は命じてない。西本さんが自主的・自発的にやっていた』と主張された。給特法の廃止は(教員の長時間労働を是正する)最低限のスタートラインだ」(西本氏)
西本氏が作成・共有した資料からも教員の過重な業務実態がわかる(YouTube画面より)
「給特法が存続する限り長時間労働に歯止めがかからない」
東京大学の本田由紀教授(教育社会学)は、日本の公立校教員は世界一の長時間労働を強いられているとして、国に方針の転換を求めた。
「日本の1学級あたりの児童生徒数は先進諸国でも最多レベルだ。労働時間は最長、学級サイズも最大。公費(残業代)もつけずに、多すぎる仕事量は際限なく教員に押し付けられ、異常なほどの長時間労働を生んでいる。給特法が存続している限り、教員の仕事内容や勤務時間が無限に膨れ上がることに一切歯止めがかからない。
まずは給特法の廃止を。そして、残業代などを払うことにして、一体どれぐらいの時間外労働を教員が強いられているかをきちんと金額として算出し、可視化する必要がある。そうなれば、教育指導要領の内容や児童生徒の評価方法、そして教員1人あたりが持つ授業時間数・生徒数を削減していくといった実質的な対策に踏み込むことが可能になるはずだ」
その上で、「自立して社会的な発言力、責任を持ち、子どもたちの重要なロールモデルとなる教員が、長時間労働・過重労働に耐えていることは、子どもたちにも悪影響を与えている可能性がある」と指摘し、教員らに対しても現場から声を上げていくことの重要性を訴えた。
「給特法によっていろんなものが覆い隠され、教員の苦しさが放置されている」と訴える本田由紀教授(8月2日 都内/弁護士JP編集部)