ちょっとだけ飲んでから帰りたいけど、わざわざ居酒屋に行くほどではない――。そんなときに重宝するのが「ちょい飲み」のお店だ。吉野家の「吉呑み」を筆頭に、最近ではファミレスやファストフード、大衆中華チェーンなどでもちょい飲みセットを提供するところが広がっている。
日常的に酒場へ通い、酒にまつわる連載や本を多数執筆している酒場ライター・パリッコさん(@paricco)。普段は地元に密着していて、単独ではちょっと入りづらいような個人店を取り上げている彼に、ベタなチェーン店で飲んでもらう連載「パリッコのチェーン店ひとり酒」。
第4回に取り上げるのは、今年で第1号店オープンから50周年を迎えるファミレスチェーンの「デニーズ」。果たしてパリッコさんはどう立ち振る舞うのでしょうか?
◆どれが理想の選択か
ここ数日、ヒマさえあれば「デニーズ」のメニューを眺めていた。
1973年、アメリカの大手レストラン、デニーズ社とイトーヨーカ堂が技術援助契約を結び、日本に誕生したファミリーレストラン、デニーズ。現在はデニーズ社から商標権を買い取り、日本独自の進化を遂げているものの、ほのかに残るアメリカの風にロマンを感じる。
そんなデニーズで飲んでやろうと思い立ち、公式サイトのメニューを見てみたところ、あまりにも魅力的な品々が並んでいて、一体どれで飲むのがいちばん自分を満足させられるのか。店に行く前から悩みに悩んでしまっていたというわけだ。
グランドメニューのハンバーグコーナーひとつとっても、王道はもちろん「グラタン風ハンバーグ〜トリュフソース」だとか「あめいろたまねぎソースのスープハンバーグ」だとか「デミ煮込みハンバーグ」だとか、小粋な品が並び、どれもたまらなく魅力的。
また、モーニングで飲むという手も大いにある。税込み682円の「セレクトモーニング」からならば、自分は、ソーセージ、ベーコン、サラダのついた「スクランブルエッグモーニング」に、サイドは「グリルドチーズサンド」を選ぶだろうか。それらをつまみに朝ビールを満喫し、最後にセットドリンクバーのコーヒを飲んで、何食わぬ顔で日常に戻ってゆく。考えただけでも痛快だ。
◆正解は「ランチ飲み」だった!?
しかし、検討に検討を重ねた結果、僕がたどり着いた答えはずばり「ランチ飲み」だった。まぁ聞いてほしい。
まずランチには「【昼デニセット】Aセット」「【昼デニセット】Bセット」「バランスプレート」「パスタ・ドリアランチ」「ハンバーグランチ」「丼&麺ランチ」「日替りワンプレートランチ」と、かなりのバリエーションがある。控えめな量の雑穀米と色とりどりのおかずがワンプレートになったバランスプレートも酒のつまみにばっちりだろうし、パスタランチのなかの「唐たまミートスパゲッティ」の、からあげと目玉焼きがミートスパゲティにのったわんぱくっぷりも見逃せない。
◆最終的に僕が心に決めたのは…
が、最終的に僕が心に決めたのは、【昼デニセット】Aセット。メイン、サイド、ドリンクが自由に組み合わせられ、まず、メインがどれもこれもそそられる。
なかでも「ハンバーグカレードリア」の存在だ。実は以前から、ハンバーグカレードリアは、デニーズのメニューのなかでも長年不動の人気を誇るメニューらしいと話には聞いていた。ずっといつか食べたいなと思っていたんだけど、しかしそのボリューム感ゆえ、少食傾向の僕は、なかなか、今日!というタイミングがないままに過ごしてしまっていた。が、前日からそこを見据えて体のコンディションを整えていけばきっと楽しめる。
続いて注目すべきはサイドメニューで、ひとつ例にあげるならば「ベーコンとブロッコリー~チキンブイヨンがけ」。これはグランドメニューにもあるもので、価格は550円。ちなみにグランドメニューのハンバーグカレードリアは990円だから、合計は1540円となる。ところが昼デニAならば1342円で、さらにドリンクバーまでついてきてしまうのだ。
メインのつまみをハンバーグカレードリアとし、それが届くまでの間にちょっとしたつまみで始めていられる。提供は平日のランチタイムである10時半から夕方5時までなので、これで飲める人は限られているかもしれないけれど、僕のように酒が仕事の一環な人間にとって、こんなに昼飲みに適したメニューはないだろう。
前置きが長くなったが、いざデニーズに突入!
◆デニーズの名品と、昼酒に酔う
予習はばっちりだから、今日は迷うことなく【昼デニセット】Aセットを注文。サイドは、さっぱりとしていて酒に合いそうな「彩り野菜のマリネ」を選んでみた。ドリンクは、生ビールもいいけど、「翠 ジンソーダ」(539円)があるな。柚子、緑茶、しょうがの3種の話素材を使った、和テイストのジン「翠」。ソーダ割りにすると爽やかでうまいんだよな〜。いいないいな、そうしよう。
10分も外を歩いていると体力ゲージがほぼ0になる猛暑日。ぐいっと飲んだキンキンのジンソーダが全身に染み渡る。
続いてスムーズにマリネが到着。
これ、やっぱり選んで良かった。厚みのあるパプリカとなすは、一度素揚げしてあるのか、コク深さと食べごたえが満点で、そこに酸味あるソースがばっちり。食欲も酒欲ももりもり湧いてくる。
◆「これはもう、“夢”だ」
そしていよいよ大本命、ハンバーグカレードリアが到着!
こ、これはすごい……。メニュー名や写真などの情報から、僕が大好きに違いないことはわかっていた。しかし実際目の前にすると、いくらなんでも度を超えている。これはもう、“夢”だ。夢のメニューだ。今この記事を読んでくださっている読者のみなさまに朗報。どうやら、人生の夢を叶える方法のひとつは、「デニーズでハンバーグカレードリアを頼むこと」らしいです。
まずはあえてハンバーグにはいかず、カレードリア部分をひと口。うん。塩気と甘みがしっかりとあって、そこにきっちりスパイスが香る、王道の欧風カレー。つまり、僕のいちばん好きなタイプのカレーだ。そこに、焦げ目の香ばしいチーズがとろりとコクを加える。こんなの、うまくないわけがない。そしてその味のふりきれ加減が、酒のつまみとしてもばっちりだ。
続いてはいよいよ、ハンバーグをさくりと掘削。カレー、チーズ、白米とともにほおばる。あ〜……これは……。
◆途中でグラスワインも追加
ハンバーグはかなりの厚みと大きさがあり、その肉々しさが確実に心に幸せを運んできてくれる。またその構成上、外側はカレードリア(というか焼きチーズカレーか)、そして中央部に向かってカレー感が若干薄まり、チーズハンバーグ&ライス的な味わいになる、そのグラデーションも楽しい。また、インパクトのある見た目ほどごはんの量が多いわけではないので、全体のボリューム感的にも理想的なバランスと感じた。
通常のカレーライスとは違い、スプーンで少しずつ掘削しながら食べられるのも酒のつまみ向きで、たまに野菜のマリネで口をさっぱりさせてやると、またいちからうまい。素晴らしすぎるな、デニーズランチ飲み。
途中で「ハウスワイン グラス」(319円)を追加し、最後まで堪能しつくす。かなりの満足感と、なんだか想像以上にリッチな気分に浸ることができた、充実のデニーズ飲みとなった。
<TEXT/パリッコ>
―[チェーン店ひとり酒]―
【パリッコ】
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco