アメリカの大統領選挙まで残り3ヶ月となった。トランプ氏に対する暗殺未遂事件により、トランプ優勢がさらに顕著になるかに思われたが、バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明し、ハリス副大統領が後継候補となったことで、その流れはすぐに止まった。現時点で両者の支持率は拮抗しているが、ハリス氏はネバダ州やペンシルベニア州、ウィスコンシン州など激戦7州で支持を伸ばしおり、今後はハリス氏が優勢になるとの見方もある。3ヶ月後に決着がつくが、それぞれが勝利した場合に世界情勢はどう動いていくのか考えてみたい。
◆変動「小」、ハリス勝利のシナリオ
まず、ハリス氏が勝利した場合だが、バイデン政権で副大統領の立場にあり、基本的にはバイデン政権の外交路線を継承していくことになるだろう。
ハリス氏も中国との戦略的競争を最重要課題とし、バイデン政権が民主主義と権威主義の戦いの最前線と位置づける台湾への防衛支援を惜しまず、新疆ウイグル自治区における人権侵害や、先端半導体の軍事転用防止などを理由に、中国に対する輸出入規制などを実行していくことが考えられる。
またウクライナ情勢でも同国への軍事支援の重要性を訴え、北大西洋条約機構(NATO)強化のため欧州との結束を引き続き強化することだろう。ハリス勝利のシナリオにおいては大きな変動は考えにくい。
◆変動「大」、トランプ勝利のシナリオ
一方、トランプ勝利のシナリオでは大きな変化が生じることになるだろう。
ウクライナ情勢において、トランプ氏はウクライナ戦争を1日で終わらせる、ウクライナ支援を最優先で停止するなどと主張しており、トランプ政権の再来となればウクライナ支援は縮小・停止の方向へ進み、ロシア軍がウクライナ領土の一部を占領する現状での終戦・和平をウクライナに迫る可能性がある。それによってアメリカと欧州との間に大きな亀裂が生じ、それはロシアや中国など現状打破勢力を利することになる。
また、中東情勢にも大きなリスクをもたらす可能性がある。昨年10月以降、イスラエルとハマスの軍事衝突に加え、レバノンやイエメン、イラク、シリアに点在する親イランのシーア派武装勢力も反イスラエル闘争をエスカレートさせており、紛争の構図が中東全体に拡大している。バイデン政権はイスラエル支持の姿勢を保ちつつネタニヤフ政権の強硬姿勢を批判する動きも見せているが、トランプ氏は極端な親イスラエル、反イランの姿勢を取るものと思われ、トランプ勝利によって強い後ろ盾を得たネタニヤフ政権がより強硬な姿勢に転じる可能性がある。
対中国ではトランプ氏もバイデン政権と同様の姿勢で臨むことが考えられ、バイデン政権が発動していた対中輸出規制などは解除せず、それに上乗せする形で貿易規制をさらに仕掛けていくことだろう。対中国ではハリス氏もトランプ氏も変わらない点を認識しておくべきだろう。