中国深センで事業を営む吉川真人と申します。日本やアメリカ向けのOEM貿易、中国SNSマーケティング支援、中国企業の日本進出支援など、幅広い事業を展開する傍ら、中国の時事ネタやテックニュース、日系企業の中国市場での動向をSNSで発信しています。
今回取り上げるのは、中国で落ち込み気味のユニクロに対して、好調を維持するサイゼリヤです。同社の中国市場での成功はあまり知られていないかもしれませんが、実は営業利益は日本を遥かに超えて数倍規模。いったい中国でどのように成長し、成功を収めているのでしょうか。
◆中国市場で拡大するサイゼリヤ
サイゼリヤは2003年に中国市場に参入しました。日本での成功を背景に、海外市場への進出を図る一環として、最初の店舗を上海にオープン。その後、北京や広州といった大都市へも展開していきました。
20店舗目までは赤字だったようですが、現在では中国全土で400店舗以上を展開するまでに成長。
2024年度第3四半期(2023年9月〜2024年5月)の決算報告によると、サイゼリヤの売上高は1,632億円で前年比23.6%増加し、営業利益は100.65億円に達しました。
特に、中国市場を中心とするアジア地域での売上高は580億円、営業利益は82億円に達し、日本市場を圧倒的に上回る結果を残しています。
◆最大の成功理由は低価格・高品質
サイゼリヤの最大の特徴は、低価格でありながら高品質な料理を提供することです。例えば、約260円のピザや約300円のパスタは、日本のサイゼリヤと同様に非常にリーズナブルです。この低価格戦略が中国の消費者にも広く受け入れられ、サイゼリヤは多くのファンを獲得しました。
同社はしばしば「イタリア版沙县小吃」と呼ばれています。これは、安価で美味しい料理を提供することで有名な中国の全国チェーン、沙县小吃と類似しているためです。
特に中国のイタリアンレストランは、安いとは決して言えず、場合によっては東京の港区並みの価格になることもあります。サイゼリヤは、このような市場においてリーズナブルな価格設定で差別化を図りました。
上海に立ち上げた最初の店舗では当初、高めの価格設定をしていたようです。初日は地元の経営者たちが来て盛り上げてくれましたが、二日目からは客足が遠のきました。そこで、価格を大幅に引き下げたところ、急にお客さんが増えたのです。このエピソードからも、低価格はサイゼリヤの最大の武器であることがわかります。
◆圧倒的な“安さ”はどのように実現されたか
サイゼリヤは自社でサプライチェーンを構築し、コスト削減を実現しています。具体的には、中国市場向けに広州に食品工場を設立し、現地生産を行うことで輸送コストを大幅に削減しています。
また、トマトやレタスなどの主要な食材は自社農場で栽培し、品質管理を徹底。さらに、各地に自社の供給網を持ち、原材料の品質とコストを一貫して管理することで、低価格でありながら高品質な料理を提供することを可能にしたのです。
サイゼリヤは、調理工程の標準化や専用機器の導入にも着手しました。これにより、少ない人手で多くの料理を提供することができるようになったことは、低価格の維持に大きく貢献しています。このノウハウを完コピするために短期間働くスパイもいるとか(笑)。
◆大都市の安い場所を狙って出店
中国では、サイゼリヤの店舗は上海、北京、広州などの大都市に集中しており、全体の60.78%が一線都市に位置しています。一流商圏内の二流店舗を選ぶことで、賃料を抑えつつも集客力を確保する戦略を採っています。
また、既存の店舗をリノベーションして使用することで、初期投資を大幅に削減しています。さらに、サイゼリヤはリノベーション時に必要な設備を最小限に抑え、低コストでの運営を実現しています。
このようにして生み出されたサイゼリヤの低価格戦略は、中国市場でも非常に効果的であり、競合他社に対して大きな優位性を持っています。
例えば、ピザハットの客単価は70元〜100元と、サイゼリヤの約2倍に相当します。この価格差は、サイゼリヤの低価格戦略が多くの消費者に支持される理由の一つです。
特に中国の消費者はコストパフォーマンスを重視するため、サイゼリヤのリーズナブルな価格設定は非常に魅力的に映ります。
◆西洋料理の“意外な”強み
もう一つ、サイゼリヤの成功要因の一つは、料理の標準化です。中華料理に比べて、西洋料理は調理の標準化が容易と言えます。
例えば、西洋料理の代表であるピザやパスタは基本的な材料と調理法が決まっており、調理工程もシンプルです。このため、調理の標準化が容易であり、コストを抑えつつ大量生産が可能です。
一方、中華料理は多様な調理法と豊かな味付けが求められます。地域ごとに異なる食文化や味付けがありますし、調理には高度な技術が必要です。結果的に、大量生産や効率的なサプライチェーン構築が難しく、低価格戦略をそのまま取り入れることは困難なのです。
◆一部メニューを値上げも安心感は変わらず
このようにサイゼリヤが中国市場でいかに強いかを解説してきましたが、丁度タイミングよく同社が中国で一部のメニューを値上げし、ユーザーからは「30元以下でお腹を満たすことがサイゼリヤの魅力ではないのか」と嘆きのコメントが散見しました。
しかし、これはあくまでサプライチェーンのコストが値上がりしたことによる最終価格が数元単位で上がっただけに過ぎません。少々上がったからと言って2倍近くの客単価のピザハットに顧客をごっそり持っていかれることは考えにくいです。
また、正常化が進めば顧客ファーストのサイゼリヤであればまた価格を元に戻すなどの動きをしてくれるでしょうし、それさえできれば現状は安泰と言えます。
次なる戦略は奇抜な経営スタイルではなく、実直にこれまで通りのやり方やノウハウを駆使して、店舗を各地に展開していくことと私は予想しています。
上海や北京の大通りの目立つところに旗艦店を出す他の飲食チェーンやアパレルとは異なり、実直に目立たない家賃の低い立地に店舗を出していくでしょう。
【吉川真人】
京都出身。同志社大学卒。中国青年政治学院留学。2020年に中国人のビジネスパートナーと共に中国深センで起業。中古ブランド品のビジネスからスタートし、その後、日本やアメリカ向けのOEM貿易、中国SNSマーケティング支援、中国企業の日本進出支援など、幅広い事業を展開する。中国の時事ネタやテックニュース、日系企業の中国市場での動向をウォッチし、Xや会員制の中国ビジネストレンドコミュニティで発信中。Xアカウント:@mako_63