エステ店でたるみ改善や痩身(そうしん)効果を得るHIFU(ハイフ)施術を受けた際、太ももにやけどを負ったのは医師免許を持たないエステティシャンによる施術が原因だとして、東京都に住む20代の女性が8日、エステ店を運営する企業に対し、治療費や慰謝料など約415万円の損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴した。
原告の女性は提訴後に弁護団とともに会見を開き、「効率的に痩せたいという気持ちで施術を受けたが、結果としてやけどを負う被害を受け、大変ショックで精神的なダメージを受けています。今回の提訴を機に先方から誠意ある謝罪および対応をしていただきたいです」と話した。
エステティシャン「(機器の部品)間違っていました」
超音波を皮下組織の深部に照射することにより、たるみ改善や痩身効果を得るHIFU施術。
原告の女性は2021年、東京都豊島区のエステ店に通院し、複数回エステティシャンによる施術を受けていたが、9回目の施術となった9月25日の施術で左ふとももの内側に点状に第2~第3度(※)のやけどを負った。
※2度は真皮にまで、3度は脂肪・筋肉といった皮下組織にまで熱傷が及んだ状態。
施術を行うにあたり、チクチクとしたような痛みを伴うことがあると説明を受けたという女性。被害を受けるまでの8回の施術では我慢できる程度だったが、9回目の施術日は「はじめの照射から激痛が走って、普段とは違うことがすぐにわかりました」と話す。
「その場で施術者にも聞こえるような声の大きさで『痛い』と訴えたのですが、『いつも通りですよ』と施術が続けられてしまいました。ただ、痛みに耐えられず途中で中止を訴えたところ、ようやくそこで機器の確認が行われ、使用している機器の部品に適切なものが使われていなかったことが分かり、『間違っていました』と言われました。ただ9回目の施術だったこともあり、施術者に対して信頼もありましたので、その後も施術を続けることを許可して最後まで施術を行いました」
施術後に女性が左太ももを確認すると、点状にやけど・水ぶくれができていたという。
女性はその後、2年2か月にわたり皮膚科、形成外科などに通院し治療を行ったが、現在でもやけどの跡は残っている。
「普段の生活の中で、入浴や着替える際などに自分の目に入る部分なので、見るたびに当時のことや治療期間のつらさを思い出し、精神的なダメージがあります。趣味のゴルフでスカートを穿く時はその患部が見えることもありますし、友人と温泉旅行に行った際などには『その傷どうしたの』と聞かれたりするので、そういう場面でも苦しいような感情になります」
エステサロンによるHIFU施術は厚労省通知“前”から違法
医師以外によるHIFU施術が医師法に違反する根拠を説明する川見未華弁護士(手前)(8月8日 都内/弁護士JP編集部)
HIFU施術をめぐっては、今年6月、厚生労働省が急性白内障や神経まひ等の被害も相当数報告されているとして、「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、HIFU施術は医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」として、医師免許を持たない者が行えば医師法(第17条)に違反すると通知している。
この厚労省通知について弁護団の川見未華弁護士は、「2017年3月の国民生活センターのリリースでもHIFU施術の危険性はすでに指摘されており、それを受けてエステティック業界の主要団体ではHIFU施術の全面禁止を周知していた。つまり、エステサロンによるHIFU施術は従前から違法であり、6月の厚労省通知ではその状態が確認されたと理解している」と述べた。
今回の訴訟は、エステ店でのHIFU施術が民事上違法であることを理由に損害賠償請求を行う初めての訴訟だといい、川見弁護士は「原告の被害救済だけでなく、医師法違反である『エステによるHIFU施術の全面禁止』も目指したい」と意気込んだ。
一方、被告となったエステ店運営企業の代表は、取材に対し「訴状が届いていないので、コメントは差し控えさせていただきます」と回答した。