「一度もベッドで寝なかった」パリオリンピック3泊5日で合計27万円の節約旅

 平和の祭典・オリンピック。今回はフランスのパリで開催されたが、円安の影響や現地の物価の高さを理由に応援に行くのを諦めた人もいるはずだ。旅行会社が主催する観戦ツアーでは、100万円を超えるプランも珍しくない。

 そんなパリまで市川野宿(仮名・30代)という男が行き、なるべくお金をかけない方法でオリンピックを楽しんできたというので、今回は詳しい話をうかがってきた。

 

◆「一度もベッドで寝なかった」節約旅

「大変だったので二度と同じ思いはしなくないです! でも、なんだかんだ楽しい経験だったし、行って良かったと思います」

 野宿氏に「今回の節約旅はどうだった?」とたずねるとこう返ってきたが、急に思い出したように言う。

「う〜ん、やはりベッドでずっと横になれなかったのがツラかったです」

 なんと、3泊5日の旅程で一度もベッドで寝ていないというのだ。

 そもそも、なぜ今回のオリンピックに行こうと思ったのか。

「サッカー日本代表を応援したかったんですね。大好きなFC東京の選手が出場しているので。あとは、ボクシングの選手が知り合いで、こんなチャンスは二度とないと思って、行く決心をしました」

 とはいえ、驚くことに野宿氏は、フランスの物価を筆者から聞くまでまったく知らなかったようだ。

「オリンピックに行きたいとばかり考えていたので、物価のことなど一切気にしていなかったです。行くか行かないか、それだけで悩んでいました」

◆3泊5日で合計27万円「思っていたよりもちょっと高い」

 3泊5日で、野宿氏がフランスで使ったお金の内訳を聞いてみた。彼は帰りにインドに寄る予定があり、ニューデリー経由の帰国便だった。

●航空券

東京→パリ 8万8640円

パリ→ニューデリー 6万1899円

ニューデリー→東京 3万2960円

チェックイン費用 2万26円

●バス

パリ→ナント→パリ 1万4098円

パリ→空港 2825円

●電車

空港→パリ 1965円

パリ市内 666円

ナント市内 299円

1日乗り放題 2998円

●観戦チケット

ボクシング 2万5450円

サッカー 6769円

●飲食代 

1万1726円

●合計(インド滞在時の費用は除く)

27万321円

 ざっとこんな感じだが、本人としても「そんなに安くは済まなかった」というのが実情だ。

「思っていたよりもちょっと高くついてしまった印象ですね。パリでのフライト前にオンラインチェックインをしなかったので、追加料金で2万円取られました。あまりにも眠くて疲れていたので面倒くさくなって、どうせ5000円ぐらいだと思ったら高かったです。そこは無駄な出費でした」

◆最悪評価のゲストハウスでも1泊2万円

 あだ名が野宿というくらいなので、彼は野宿が得意だ。日本や海外でも野宿をしていたが、今回はバスの中で寝る作戦だった。

「宿を一応調べたのですが、最安値で、最悪評価のゲストハウスのドミトリーが1泊2万円。それを見たときにもうベッドで寝ることは諦めました」

 まず野宿氏は、深夜0時に出るパリ発ナント行きのバスの移動中に寝ることにした。疲れていたので乗ってすぐに眠りにつくが、6時間で目的地に着いてしまう。ナントでサッカーを観戦した後は、深夜バスでパリに戻る。

 飛行機も含め、3日連続で乗り物のなかで寝ることになった。そして最終日は街中のバス停で、ほとんど寝られない状態のまま夜を過ごしてバスで空港に向かったという。

◆パリ市内には無料シャワーが点在

 そんな野性味あふれる野宿氏だが、いつも小奇麗な服を着ていて1日1回はシャワーを浴びないと落ち着かない男だ。かつてロシアまでサッカーのワールドカップを観に行った際は、公園で寝泊まりをして、ゲストハウスにカネを払い、シャワーだけ使わせてもらっていた。今回はどうしたのか?

「パリには無料シャワーがたくさんあるのでありがたいです。意外と清潔だし、プールのシャワールームを無料開放していたのですが、そこは信じられないぐらい綺麗でした。一人が終わったらすぐに清掃員が入るパターンです。なので、全くシャワーには困らなかったですね」

 また、旅行において食事は重要だが、野宿氏は有名店で食べることなどは一切考えていなかったという。何を食べたのか?

「日本から持ってきたカロリーメイトやビスケット、あとは適当にパンを買ってやり過ごしていました。水は空港の給水機で大量にペットボトルに入れて持ち歩き、たまにミネラルウォーターを買いましたが、水道水も飲みましたね。

 最後の日、レストランに行って食事したら料理が3600円で水が700円もしたんです。それがいちばんの贅沢でしたね」

◆想定外の出費「暑すぎて1杯1000円以上のジュースを3杯も」

 ところで、ホテルに泊まらず、満足に物も食べず、観光もしていない。そんな旅でオリンピック観戦を楽しめたのか?

「なんだかんだ楽しかったですね。ボクシングは2万5000円もする高い席で観戦しました。もっと安い席でもいいかなとも思いましたが、おそらく一生に一度のオリンピックでのボクシング観戦だと思うので、ここは思い切りました」

 パリはテロ対策のために警察だらけで、会場にはドリンクの持ち込みが禁止。ナントで行われたサッカーの観戦では、あまりの暑さで喉の渇きに耐えられず、1杯1120円もするジュースを3杯も飲んでしまったとか。

◆10キロあるリュックを背負い続けるはめに…


 今回の節約旅でいちばん困ったことは?

「サッカーのワールドカップの場合、チケットIDみたいなのを見せれば荷物を預かってくれる所があったのですが、パリのオリンピックでは預かってくれる所がなくて不便でした。リュックは10キロあって、ずっと持ちっぱなしはさすがにキツくて」

 これは野宿氏にとって想定外だった。荷物があると行動が制限されるし、とても面倒だ。そのような状況だったらゲストハウスに行ってお金を払って荷物だけ保管してくれるように頼むという手もあるだろう。彼はどうしたのか?

「もちろん貴重品は体から離しませんが、荷物は街中に隠しました。ナントでは会場の近くに林を見つけました。パリの会場近くには植木鉢があったので、その周辺に背の高い草が茂っていたのでそこに隠しましたね」

 筆者は思わず「なんでそんな場所に隠すんだよ!」とつっこんでしまったが、荷物は後から取りにいったら無事だったようだ。

 人には決してすすめられないが、彼にとっては一生忘れられない旅になったのだろう。

<取材・文/今永ショウ>