DA PUMP・KENZOが明かした「ブレイキンがオリンピック競技になるまでの葛藤」

パリオリンピックで、唯一の新競技であるブレイキン。オリンピックにおける新しさは言うまでもなく、開会式のテーマでもある“多様性”を体現する競技として、これまでになく注目度が高まっている。即興の音楽に合わせて、鍛え抜いた選手たちが音楽に合わせて踊るので、「カッコいい」と見て、すぐ入り込める魅力を持つが、オリンピックに至るまでには、カルチャーとしての短くも濃い歴史がある。

◆先人たちが築き上げた「ブレイキン」の世界

もともとは1970年代に貧困層がひしめくニューヨークのサウス・ブロンクス地区で、ギャング同士が抗争中、これ以上の血を流すことなく決着をつけるために発案された。これが「ブレイキン」のファッションや仕草に“不良”っぽさがあり、試合を「バトル」と呼ぶわけだ。しかも、音楽をガンガンかけて“戦う”ので、世間から見れば印象が良くなかったり、偏見を持たれたりすることも少なからず(今でも)ある。

そうした周囲のネガティブな反応をより多く経験してきたのが、ブレイキン日本代表チームを支えるコーチやスタッフ、多方面で活躍する先人ダンサーたちだ。理解されにくい一面がありながらも人生が変わったことに感謝してか、先人たちは後輩ダンサーたち一人ひとりの環境改善や啓蒙に力を注ぐ。オリンピック直前の7月下旬、都内で行われたブレイキン日本代表選手記者会見には、DA PUMPのISSAとKENZOが駆けつけた。

◆「DA PUMPの活動もストリートカルチャーがあってこそ」

ブレイキンは、ストリートのHip-Hopカルチャーを構成する4要素の一つで、残り3要素はDJ、グラフィティ、MC、ラップ。

これらすべてを体現し、ブレイキンを応援するアンセムソング「Pump It Up! feat. TAKUMA THE GREAT」を引っ提げて、会見場にやって来たISSAとKENZOだが、驚くほど低姿勢に、カルチャーへの思いと日本代表チームへのエールを綴っている。

ISSA「自分たちも、もともとストリートカルチャーの出身。そのおかげで、こうやってDA PUMPとして仕事をさせていただいています。アンセムソングは、根本にあるストリートのダンサーとしての思いがあります。また、Hip-Hopが誕生して50周年なので、そういう意味でもback to the basic というか、自分たちの本当に素直な初心にかえる気持ちなど、いろいろな思いを込めて、作曲させていただきました」

KENZO「(日本代表チームには)たくさんの思いがあって、一言ではちょっと言い表せないんですが、オリンピックの歴史に名を刻む人になっていただきたいと思います。

そして日本中、世界中に皆さんのダンスで感動だったり、元気だったり、希望だったりっていうのを、たくさん振りまいてほしいと思います。やっぱり世界のダンスチームも、日本のダンスチームも、(ブレイキンの)皆さんが未来を切り開くと思っているので、期待しています」

◆ブレイキンをスポーツ競技として発展させていいのか

この日の記者会見で、ブレイキンの見どころなどを改めてメディアに解説をしたのが、JDSF(公益社団法人日本ダンススポーツ連盟)の本部長である石川勝之氏(ダンサーネーム:KATSU ONE)。

国内外の大会で実況(MC)、解説を務め、2018年のブエノスアイレス・ユースオリンピックでは日本代表監督を務めた先人ダンサーだ。現在も日本代表チームのコーチを兼任し、ブレイキンの競技化を牽引してきた一人だが、当初はカルチャーであるブレイキンを競技として発展させることへの葛藤もあったという。同じ先人ダンサーで古くから交流のあるKENZOが明かす。

「KATSU ONEから電話があって、『(ブレイキンが)オリンピックで持ち上がると、カルチャーにも影響が起きてしまうかもしれない。どう思う?』って相談されました。かなり悩んでいて、葛藤していたんですね。でも、僕は一言『やるべきだ』と伝えました。なぜなら、カルチャーをわかっている人がやるべきだと思ったからです。

やっぱり日本のダンスシーン、世界のダンスシーンの創世期からたくさんの人が、いろんな思いを持って頑張ってきた。今の恵まれた時代になってきて、選手の皆さんも長くダンスを続けることができて、さまざまなダンスシーンを見て、この時代を生きてきて、今がある。

だからこそ、パリという大きな舞台で、誰もが知るオリンピックで、誰もが見るテレビで流れるところで、ブレイキンをみせて、観客やファンだけでなく、世界中のいろんな人を感動させてくれたら嬉しい。たくさんの思いを多分背負っていると思うので、僕は(代表の)4人が最高のパフォーマンスをすることを祈っています」

◆Shigekix(半井重幸)は日本選手団の旗手に

相手を傷つけないブレイキンの「バトル」は、歴史や意味を持ったフォーマットなのだ。勝つためには、地位も身分も関係なく、身体一つで周りをアッと驚かせ、相手を圧倒するパフォーマンスを見せればいい。相手に触れず、エネルギーを爆発させ、周囲を感動させることを目指すマインドは、平和の祭典にふさわしい。

ちなみに、選手たちのユニフォームも珍しいことにお揃いではない。個性を発揮するカルチャーが尊重され、デザイン約60種から各々が選んだという。人々が自由と平等を求めた「革命広場」である、コンコルド広場で開催されることも意義深い。

不良の遊戯と訝しげに見られていたブレイキンは、先人たちの思いを積み重ねながら急速に発展した。オリンピック選手たちは、人間性でも多くの人を魅了するロールモデルのような逸材だ。日本のエース、Shigekix(半井重幸)は、日本選手団の旗手にもなった。

先人たちの葛藤や願いが込められたハレの舞台に挑む代表選手は、どんな言葉を残してパリへと発ったのか。

<取材・文/松山ようこ>