転職を相談された際、企業側の引き留め策は効果がない

――なるほど。一目瞭然の面白いネットワーク図ですね。右のほうに「現在」「好き」「仲間」という言葉も強い線で結ばれていますね。いまだに前の会社の人間関係が続いているわけですか。
また、上のほうには「転職」という大きな丸の周囲に「悪い」「違う」「内容」「仕事」「厚生」「福利」といった言葉があります。どうも、転職先の条件が期待外れだったようですね。

朝比奈あかりさん はい。このデータをもとに自由回答をいくつか紹介すると、こうなります。

「前の会社のほうが、人間関係がよかった」(50代男性/その他の業種)
「人間関係がよかったから、自由に仕事ができた」(30代女性/医療・福祉・介護)
「転職してみて、最初に働いていた会社や仕事内容が自分に合っていたと痛感した。また、転職先の環境が前より悪かった」(40代女性/不動産・建設・設備)

このように、転職後に退職した会社の「人間関係」が良かったことを実感し、戻りたいと感じた人が多数いたことがわかりました。転職したい理由の上位に「人間関係」はあがりませんが、戻りたい理由の上位には「人間関係」があげられそうです。

――転職後に「戻りたい」と思っている人が3割もいるならば、企業側は転職を引き留めるために、どういう対応をとればよいと思いますか。

朝比奈あかりさん じつは転職を引き留めることは難しいです。

調査では、「転職を引き留められても、転職の決意は変わらないか」とも聞いており、「そう思う」が85%となっています。転職を相談された際、企業側の引き留め策は効果がない可能性が高いのです。

実際、戻りたい理由を聞いた自由回答でも、こんなコメントがありました。

「いつでも戻ってきていいと言われたので、好感度が上がった」(30代女性/IT・通信・インターネット)

こうしたことから、企業側は退職希望者や退職者との関係を良好に保つことで、即戦力として活躍できる可能性の高いアルムナイ人材を確保しやすくなるのではないでしょうか。

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転職する柔軟性だけでなく、出戻りできる柔軟性も大切

――「アルムナイ」とは「出戻り」「カムバック」「Uターン」という意味ですね。これまで「アルムナイ採用」について調査したことはありますか。

朝比奈あかりさん 2024年1月の「アルムナイ採用」で、企業の中途採用担当者にアルムナイ採用を実施しているかどうかを聞くと、41%が「現在実施している」と回答しました。「即戦力として活躍してくれた」がトップとなり、人材不足が加速する中で評価が高いです。

自社で勤務した経験があり、即戦力になるアルムナイ人材への注目は今後も高まることが予想されます。

――戻りたい気持ちがあるなら、「出戻りオッケー!」ということですか。

朝比奈あかりさん 現在、人材の流動性が高まっています。企業側は人材の流出がある一方で、新たな人材を確保できることに利点を感じているようでした。アルムナイ採用が当たり前になれば、より多くの企業がその利点を感じるようになると考えられます。

転職できる柔軟性だけでなく、元いた会社に戻ることができる柔軟性も高まるように対応していくことで、個人のキャリアの選択肢はさらに広がっていくのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
朝比奈 あかり(あさひな・あかり)
株式会社マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部
キャリアリサーチラボ研究員

2016年中途入社、「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わる経験を経て2020年に現職へ。
専門・研究分野:中途採用領域全般、正社員の働き方、転職と賃金の関わり、キャリア自律など。