ジワジワと値上げ、真綿で首を絞められる苦しさ

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――2021年といえば、コロナが一番ひどく、先がまったく見えない時でした。その時より「ゆとりがない」と答えた人が多いのは驚きです。

川上敬太郎さん 2021年から2024年までの間に、家計全般に関わる大きな変化が2つありました。1つは新型コロナが2類から5類に移行し、コロナ禍がひと段落したことです。

コロナ禍は非常につらい経験でしたが、一方で外出してお金を使う機会が減るなど、むしろ一時的に家計のゆとりが生まれたケースも見受けられました。しかし、経済活動が再開していくなかで、出費機会もコロナ前の状態へと戻ってきていると感じます。

もう1つは、ここ数年物価が上昇し続けていることです。スーパーに行くたびに高くなっていることに慣れました。1回の値上げは大きな額ではなくても、それが多品目に渡って繰り返されると、真綿で首を絞められるように家計が圧迫されます。

その苦しさが、2024年の調査に如実に表れていると思います。

――たしかに家計支出の負担ランキングをみると、現在のトップが食費。エンゲル係数が上がっている印象を受けます。一方、2021年ではトップに教育関連費。余裕さえ感じますね。

川上敬太郎さん 食費、水道・光熱費は、2021年比で比率が大きく上昇しています。食費は42%から62%。水道・光熱費は28%から50%。どちらも20ポイント以上も上昇しており、日々の生活に欠かせない費用の負担感が、この3年で急激に上昇したことが見てとれます。

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家計にゆとりが出る人、出ない人の格差が広がる?

――フリーコメント欄が、全体的に「生活苦感」にあふれて切ないです。川上さんはどのコメントが印象に残りましたか。また、2021年調査のコメントで心に響いたものがあれば教えてください。

川上敬太郎さん 特に響いたのが、「家計にゆとりがあれば、もう少し子供の習い事や普段経験できないこと(旅行等)をさせてあげたいなと思い、罪悪感を覚えます」という声です。

家計が圧迫され、お子さんにも我慢を強いている状況、そのことをとても歯がゆく感じている状況が伝わってきて、心に突き刺さるつらさを感じました。

一方、2021年調査に「コロナ禍の中、常に感染リスクを気にしながら生活しなければならない」という声がありました。3年前は3年前で、マスクなしでは外出できない、気軽に人と会うこともはばかられる窮屈さに耐え続けてきました。そして、いまは家計がさらに苦しくなっています。

ずっと、何かに耐えなければならない状況が連続するなか、人々は歯を食いしばってがんばり続けていることが改めて感じられます。

――実質賃金がようやくプラスに転じたわけですが、川上さんはズバリ、今後、家計にゆとりが出る人が増えると思いますか。

川上敬太郎さん 春闘の賃上げ率は33年ぶりに5%を超えたと言われますし、最低賃金も過去最大の引き上げ額を更新するなど、賃金上昇の傾向にあるのは間違いないのだと思います。そのため、家計にゆとりが出る人は増える可能性があると思います。

ただ、すべての人に恩恵をもたらすとは限りません。賃上げがない会社に勤めている人もいれば、仕事を失ってしまった人、最低賃金が上がっても扶養枠内に収めるため年収は変わらない人など、個々に異なる事情の方々がいます。一方で物価は上がったままの状態です。

そのため、家計にゆとりが出る人とそうでない人との差が広がってしまう懸念もあるのではないでしょうか。