サボテンといえば、柱サボテンや球サボテン、ウチワサボテンなどが有名ですが、トゲのあるものないもの全部ひっくるめると、なんと2,000種類以上もあるんです! そこで今回はサボテンの種類に関して徹底解説。永久保存版のサボテン図鑑です。
サボテンとは
サボテンの概要
サボテンは多肉植物の一種であり、主に北米南西部からメキシコを中心に南米の砂漠や平原などの乾燥地帯に生息しています。
中には、南米の山岳地帯や沿岸地帯など、植物の生育にとって極めて過酷な環境下で生息している種類もあります。
園芸品種も含めると、2,000種類以上が存在するとされ、この数は植物界全体では決して多くないものの、乾燥地帯に特化した植物群としては多種多様で、その適応能力とバラエティーに富んだ形態は植物の進化学や分類学研究において世界的に重要な存在とされています。
サボテンの特徴
特徴①:多肉質の茎
Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎
ぷっくりとした多肉質のボディが特徴的ですが、ボディにあたる部分は一般的な植物の茎にあたります。その茎の中には十分に水分が蓄えられているため、乾燥した環境でも生存が可能です。
特徴②:トゲ(葉の退化)
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サボテンの象徴的パーツともいえるトゲ。
サボテンのトゲは進化の過程で葉が退化したものといわれています。
トゲは、茎からの水分の蒸発を防ぐとともに、外敵から身を守る役割を果たしています。また、強い陽射しを和らげ、茎肌が焼けるのを防ぐ効果もあります。
特徴③:棘座(アレオーレ)
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サボテンとほかの多肉植物を区別する上で重要なのが棘座(しざ)。アレオーレとも呼ばれます。
棘座はサボテン特有の器官で、細かい綿毛集合体がトゲを乗せたクッションのような形をしており、そこからトゲ、毛、花、そして新しい茎節が生まれます。
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サボテンの種類の中にはトゲがなく棘座のみ、というものもあります。
サボテンの棘座は、植物学においてサボテンの進化と適応の鍵となる重要な要素といわれています。
特徴④:サボテンの花
どんなサボテンも基本的に花を咲かせます。
トゲの合間を縫ってつぼみが現れ、やがてその見た目とは対照的な美しい花を咲かせます。
このミスマッチな味わいもサボテンの醍醐味といえます。
花の色や形はサボテンの品種によりさまざま。
しかし共通しているのは、サボテンは開花株にまで成長しなければ開花することはないということ。開花株に至るまでの年数は品種により異なり、また開花株になっても実際に開花するか否かは生育環境が鍵となります。
開花に重要なのは栽培環境作り。
品種ごとの情報をネットや本で調べ、原産地で自生している環境に近い環境を作ることで開花率も上がります。
初心者の方、もしくはすぐに花を見たい方は、すでにつぼみをつけた開花株を購入するのがサボテンの花を見るための一番の近道です。
これだけは言えます。
サボテンの花が開花するのを一度見たら、それは決して忘れられない体験になるでしょう。
特徴⑤:光合成
通常の植物は葉で光合成を行いますが、葉のないサボテンは茎、つまりボディで光合成を行います。
夜間に二酸化炭素を取り込み、日中にそれを利用して光合成を行います。この方法をCAM型光合成(ベンケイソウ酸代謝)と呼びます。
特徴⑥:浅く広がる根
サボテンの根は浅く広がる特性があり、このため少量の降雨でも効率よく水分を吸収できるようになっています。
多肉植物とサボテンの関係性
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多肉植物とは、乾燥した気候や土壌条件下で水分を保持するために、葉、茎、根などの器官で貯水組織が発達し、これらが厚く、肉質で満たされた植物の総称。
サボテンもその中の一つです。
多肉植物の中にはサボテン科のほかにも、エケベリアなどを擁するベンケイソウ科、アガベなどを擁するリュウゼツラン科、ユーフォルビアなどを擁するトウダイグサ科、パキポディウムなどを擁するキョウチクトウ科、アロエやハオルチアなどを擁するススキノキ科など、さまざまな科があります。
しかしサボテン科は2,000種以上の品種を擁する多肉植物の中でも最大のグループであり、また、サボテンには前述の棘座という、ほかの多肉植物にはないサボテンのみに共通する特徴があるため、園芸界では「サボテン」と、それ以外の「多肉植物」、というように区別されています。
●棘座の有無でサボテンか非サボテンかを選別することができる。
サボテン以外の多肉植物の中にもトゲを持つ品種がありますが、サボテンとの決定的な違いはトゲの生成プロセス。
サボテンのトゲは棘座が生み出すのに対し、ほかの多肉植物のトゲは茎がそのままトゲに変化します。
下の写真はサボテン(左)とサボテンとよく間違われるトウダイグサ科の多肉植物「大雲閣」(右)を比べたものですが、大雲閣は茎の一部がトゲに変化している様子が分かります。
このトゲの生え方の違いを覚えておくと、サボテンとそれ以外の多肉植物を確実に見分けることができます。
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サボテンの形による種類分け
前述したように2,000種類以上と、とても種類が多いサボテン。
種類により形がまったく異なるのも、ほかの植物にはない魅力です。ここではサボテンの形状ごとの魅力について解説します。
ウチワ型サボテン
ウチワ型サボテン(学名:Opuntia)は、平たくて楕円形や円形の茎節(パッド)が特徴的。
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ウチワ型のウチワサボテン属は、見た目がウサギの耳にも見えることから市場では「バニーカクタス」の名でも通っており、サボテン科の進化の中でも比較的早期に分岐したグループとされています。
茎節は水分を貯える能力が高く、極度な乾燥地帯でも生き延びることができるため、主に北アメリカから南アメリカにかけての乾燥地域に広く分布しています。
ウチワサボテンの多くには、外敵から身を守るために発達した鋭いトゲが生えており、中には微細なトゲを持つ品種もあります。
しかしそのトゲとは対照的な美しい花でも楽しませてくれます。
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春から夏にかけて鮮やかな黄色や赤、オレンジ、ピンクなどの花を咲かせ、大型種のオプンチア・フィカス-インディカ(大型宝剣)などは、花が咲いた後には多肉質でとても甘い果実が実ります。
この果実はそのまま食べることができ、自生地のメキシコではジュースやジャムにも加工されます。
熟した実をカットするとマグロの赤身にも似ているため、メキシコなどサボテンの食用が盛んな地域では「トゥナ(ツナ)」と呼ばれている。
このように、ウチワサボテンは食用としても有名で、若い茎節(ノパル)はメキシコ料理では一般的な食材として、炒め物やサラダ、スムージーなどにも使われます。
ウチワサボテンはサボテン科の中でも最も高い適応力を持っているため、ロサンゼルスなどの都市部でも、誰が植えたわけでもなく、風に乗って飛んできたタネが発芽し、成株になったものが道端で普通に生えているケースも散見されます。
その適応能力の高さは日本においても発揮され、高温多湿な日本でも、屋外での鉢栽培や地植えが可能です。
見た目のエキゾチックさから、庭に植えてシンボルツリーにしたり、店舗やビルのファサード※に利用する例も多いです。
※建物の玄関アプローチや側面などに設けられた装飾的な構造物や植栽。
東京/代官山のビルのファサード。人の往来が多い場所の場合、安全に配慮して写真のバーバンクウチワのようなトゲのない品種を選ぶのも手だ。
もちろん、ウチワサボテンは屋内のインテリアプランツとしても大人気。
写真下は代官山で国内外のセレクトアイテムとオリジナル商品を取り扱う「」の店内。
人の目につきやすい場所にウチワサボテンなどのエキゾチックプランツを配置することで、非日常的な空間を演出することができます。
木質化しつつある基部が味わい深いバーバンクウチワ(手前)。同店のスタッフはサボテンたちがたまに花を咲かせるのを楽しみにしているという。
柱サボテン
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柱状サボテンは、サボテン科の中で最も進化が進んだグループとされています。
その名のように柱のごとく垂直方向に成長するサボテンで、主に米国南西部からメキシコにかけての乾燥地帯に生息しています。
柱サボテン最大の魅力は、株の大小に関わらず天に向かい高く成長すること。
米アリゾナ砂漠に自生するサワロサボテンという品種は、なんと20m以上の高さにまで成長することがあり、その自生地は国が特別保護区として厳重に管理しています。
米サワロ国立公園に林立する野生のサワロサボテン(和名:弁慶柱)。奥の人物と比べるといかに巨大かが分かる。
写真提供:サワロ国立公園管理局
ちなみにサワロサボテンは“西部劇に出てくるサボテン”としても知られており、その色や形はサボテンのアイコンとしてもお馴染みです。
園芸用としては小型〜大型まで品種のバリエーションも多く、どの品種も一鉢置くだけで空間がスタイリッシュになり、なおかつとても丈夫で育てやすいため、家庭、店舗、オフィスなど、さまざまな場所で愛用されています。
写真上は中目黒の設計事務所、の事務所入り口の「鬼面角」。
この形はブランチ仕立てといって、胴切りをすると脇から子株(ブランチ)を出すサボテンの習性を利用して、何年もかけてこのようにスタイリングしたもの。
ご覧のように一鉢の存在感がこの会社の感性の高さをうかがわせます。
同じく中目黒にある発酵食品専門店、の店内にある柱サボテン「鬼面角」。
こちらはシンプルな3頭立てですが、トゲのない鬼面角が持つ親しみやすい雰囲気が、体に優しい発酵食品が陳列された店内のイメージにとてもマッチしています。ちなみにここのおにぎりは絶品です。
場所も取らないためインテリアとの親和性も高い柱サボテン。
このような垂直に伸びる形態は、乾燥地帯で水分を効率的に貯えるための適応の一つであり、長い進化の歴史の中で今日の柱サボテン繁栄の礎となっています。
乾燥地帯での生存を成し遂げ、観賞用としても人気を誇り、柱サボテンはサボテン界で最も成功したサボテンともいえるでしょう。
球サボテン
球サボテンは、球のような丸い形状が特徴で、2,000種以上を擁するサボテン科の中にあって、その種類は数百に及びます。
主にメキシコ、中南米、アメリカ南西部などの、降水量が極端に少ない過酷な乾燥地帯に広く分布しています。
そしてそのような過酷な環境に適応するために進化してきました。
Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎
丸い形状は表面積を最小限に抑え、蒸発による水分の損失を減らすための適応です。
表面の鋭いトゲは動物からの食害を防ぐ役割を果たしており、太陽光を部分的に遮ることで表面温度の上昇を防ぎ、内部の水分を保つのにも役立っています。
しかし、球サボテンの中にはトゲのないサボテンも数多くあります。
写真下は、トゲのない品種の中でも人気のアストロフィツム属。
肌表面の白い斑点や毛玉のような棘座は、太陽光による茎肌へのダメージを防ぐ効果があり、また鳥獣による食害を防ぐための一種のカモフラージュとしての役割も担っていると考えられています。
Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎
アストロフィツム属は比較的海抜が高い場所に自生しているため、棘座をこのように毛玉化することにより、寒暖差で生まれる霧からの水分を効率よく取り込むことができます。
アストロフィツム属以外にも、代表的な球サボテンの一つにマミラリア属があり、この属には数百種が含まれています。
マミラリア属のサボテンは比較的小型で、園芸品種としては直径数cmから十数cm程度のものが人気です。
Pix:JOHN CHEESEBURGER FOTOG./CACTUS RULEZ®︎
マミラリア属の多くは鮮やかな花を咲かせます(写真上)。
また、トゲのバリエーションも多く、その見た目の美しさからコレクターも多い品種です。
このように、観賞用としてはアストロフィツム属やマミラリア属といった小型〜中型種が人気ですが、エキノカクタス属の金鯱(きんしゃち)などの大型種は、ドライガーデンやファサードの植栽としても人気で、柱サボテンとは一味違う重厚な存在感が魅力です。
東京/恵比寿の不動産会社、恵比寿南店のファサードで存在感を発揮する「金鯱」。
自生地の環境を再現したダイナミックな雰囲気が道ゆく人々の視線を奪っていた。
このように球サボテンは、その美しい花とユニークな形状から、観賞用植物として、またエクステリアを飾る植栽として、世界中で親しまれています。