ラブホの部屋に“立てこもる”泥酔男性。困った従業員がとった「強硬手段」とは?

 さまざまな男女の愛情と欲望が常に入り乱れる非日常空間・ラブホテル。そこで働く従業員は、カオスな人間ドラマを目撃することも少なくない。

 今回は、福岡の繁華街のラブホテルで、ベッドメイクとフロント業務を5年間続けた天野翔子さん(仮名)に衝撃的なエピソードを聞いた。

 ――それはある中年男性の“負の一大決心”が巻き起こした、哀しき迷惑エピソードだった。

◆泥酔した中年男性が一番高い部屋に入室

 天野さんの働いていたラブホは、駅から徒歩数分のホテル街にあったという。

 利用客は7割以上が男性1名で先に入室するケース。要するに、その後に夜のお姉さんを“デリバリー”する需要が多いということだ。

「とある平日、満室になり始めた午後9時ごろの出来事です。中年男性1名で、当ホテルで一番ランクが高い部屋に入室しました。サウナもある広い部屋で、ショートタイムの利用時間も終わっていたため、最低でも8000円以上の利用額になります。

 基本的にフロントでは入室人数を確認するため、お客様が入室するまでモニターでチェックしていますが、その男性は既にどこかで飲んできたのか、酔っぱらったようなふらついた足取りでした」

 とはいえ、ここまでは特に珍しくもない光景。金銭的に余裕のある、ただの泥酔客だと思っていたという。

「30分ほど経った頃でしょうか。中年男性の部屋を指名した夜のお姉さんが到着しました。ドアのロックを解除し部屋へ通したのですが、その数分後、部屋に入ったお姉さんからフロントに電話がかかってきたのです」

◆「帰るのでドアを開けて」

 電話口のお姉さんは苛立っているような声色だったそうです。

「『帰るのでドアの鍵を開けてほしい』と。どうやら男性客の所持金が足りないらしく、お姉さんは憤り、うんざりしている様子。さらにお姉さんは続けて、『この男、ここの部屋代も持ってないみたいですよ』と教えてくれたんです。一旦ドアの鍵を解除し、夜のお姉さんを帰すと、私は中年男性の部屋に向かいました」

 面倒くさいことになった……天野さんはそう思いながら、どうか穏便にことが済むように、と祈るような気持ちで部屋のチャイムを鳴らしたという。

「チャイムを鳴らすと、男性は不機嫌そうにドアから顔を覗かせました。私が部屋代を持っているかをと確認すると、『金は持ってねえよ!』とまさかの逆ギレ。お金が足りない場合、こちらで身分証などを預かったうえで、ATMでお金をおろしてきてもらうといった対応になります。

 男性にそのように説明すると、『身分証はない』と言い張り、しかも部屋から出てこようとしません。酔っぱらってヤケになっているのか、こうなるともうお手上げ。男性に忠告して、私は警察を呼びました」

◆暴れまわるも警察官2名に強制連行


 すぐに到着した警察官2名に事情を説明し、あとは任せることに。

「室内から出てこない男性に、最初は警察官もドアの外からやさしく話しかけていましたが、相変わらず話がまったく通じない様子。警察官たちもらちが明かないと思ったんでしょうね、『連行していきますね』と室内に立ち入り、男性の両脇と足を抱え強制的に運び出していきました。

 その間も男性はなりふり構わず、わめき散らしていましたね。暴れまわる大の大人が無理やり警官に連行されていくなんてドラマみたいだな……と、不謹慎ながら興味本位でワクワクしていたのを覚えています」

 たしかに、中年男性が駄々を捏ねながら連行される場面なんて、なかなかお目にかかれないだろう。その光景には、なんとも言えない悲哀感が漂っていそうだ。

◆死なれるのはもちろん困るが…

「後日、警察から事情を聴いたのですが、男性は競馬で全財産をなくし、死ぬつもりでうちのホテルに来ていたらしいんです。あの全力の抵抗は、今思えば人生を終わらせる覚悟ゆえだったのかもしれませんね。

 死なれるのはもちろん困りますが……細かい話なんですけど、こういうトラブルがあると、その部屋には清掃も入れずにしばらく稼働できずないので、売上的にも本当に迷惑なんですよね(苦笑)」

 最後にランクの高い部屋で派遣されたお姉さんと“いい思い”をして、死ぬつもりだったということか。全財産をなくしたことには同情するが、迷惑千万な客だったのは間違いない。

<取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio>

【逢ヶ瀬十吾】

編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。