誰にとっても通りやすい園路の工夫
ユニバーサルガーデンの東口の入り口。
例えば、東口の入り口は階段を設け、西口の入り口はスロープにしました。すべてをスロープにしたほうが誰にとっても使いやすいのではないかと思われがちですが、足腰の弱った人の中には、平らな部分がない傾斜が続くほうがしんどいこともあるのです。その点、階段は一段一段平面があり安定しているため、自分のペースで進み、休みが必要ならば手すりにつかまって休憩することも可能です。
この階段は、じつは介助付きの車椅子でも、上り下りが可能な階段です。介助者がいる場合、車椅子の後方にあるティッピングレバーを踏んで押し進めることで、前輪を浮かせて階段を上ることができます。階段の段差はその許容範囲内である14.5cmとし、一段一段車椅子が安定するように、階段の奥行きを120cmとしました。上るときも下がるときも介助者が下から支えて利用するよう看板もあります。前述したようにスロープは傾斜が続くため、介助者は上り切るまで手を緩めることができないので、こちらのほうが都合がよい場合もあります。このように階段とスロープ、都合に合わせてどちらも選べるように東西の入り口の形状を変えてデザインしましたが、ここでは両方を体験してもらうことも目的の一つです。
車椅子の利用者になることは誰にでも起こりうることですが、家の入り口などのデザインにはいくつかのバリエーションが可能で、ご自身にあったスタイルはどれなのか、体験したり練習する場所として公園ほど安全な場所はありません。このようにさまざまなアイデアを持って帰ってもらい、自宅で生かしてもらうことも都市公園の役割の一つではないかと考え、より具体的に活かせるよう看板には寸法も入れています。
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すべての人が過ごしやすい場所を目指したユニバーサルガーデン
もう一つ、芝生のベンチも車椅子の利用者のことを考慮してデザインしました。ここは芝生に座る感覚を車椅子の人にも味わってもらいたいと作った場所です。地面から車椅子への行き来は高さがありとても大変ですが、芝生の高さをあげてベンチ状にすることで、スライド移動で車椅子の人も楽に芝生に座ることができます。
これは前述のイネイブリングガーデンを参考にしたもので、車椅子のデザイナーならではの発想に、とても感心したことを覚えています。実際座ってみると分かりますが、地面へ座って立つ動作より、高さのあるベンチのほうが誰にとっても負担が少なく済みます。例えば公園には赤ちゃん連れの方も多く訪れますが、赤ちゃんを抱いた状態で地面から立つより、バランスを崩さず安全に座ったり立ったりといった動作ができます。
立ったまま草花に身近に触れられるように、沿道側は高さの違うレイズドベッド花壇状にした。高・中・低の3つの高さの花壇を作り、訪れる人が自身に合う高さを探せるようにした。
世の中のデザインは一般的に健常者の視点で作られていることが多く、ハンデを負っている方の不都合には気づきにくいものです。ユニバーサルデザインでは、その不都合を意識し、解消するデザインを模索する必要がありますが、結局それはハンデのない人にとっても快適な形であることが多いことに、このガーデンの設計を通して気づきました。また、公共の場所のデザインはそうであるべきとも思います。特に、公園は一定の時間を過ごす場所であるからこそ、いろいろな人がいることを認識し、相手の存在をお互いに気遣ったり思いやったりする場面も生まれ、「気づきにくさ」というものが解消されていくことも期待したいです。都市公園には「憩いの場」としての役割のほかに、多様性への理解を進め、よりよい社会へと導く役割もあるのではないでしょうか。ユニバーサルガーデンがたくさんの方に利用され、そうした役割を果たすことを期待したいと思います。
Information
ユニバーサルガーデン協賛
株式会社エスビーエル https://sbl-ltd.co.jp
「クラピア育て隊」オンラインショップ https://kurapiajapan-shop.com/
公式情報サイト https://kurapiajapan.com/
Credit
アドバイス / 阿部容子
– ガーデンデザイナー/造園家 –
あべ・ようこ/岐阜県可児郡「かたくり工房」に所属。モデルガーデンのガーデンカフェ「ガズー(Garzzz)」を拠点とし、公共、企業、個人の庭を全国各地でデザイン、施工。ぎふ国際バラコンクール審査員として岐阜県「花フェスタ記念公園」でも活動。アメリカ園芸療法協会会員として米国のカンファレンスで学んだ知識や技術を生かし、病院のガーデンも施工しています。
住所
岐阜県可児郡御嵩町伏見747
TEL
文&写真(*以外) / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。