近年、東京の中国料理は“ネオ中華”や“ガチ中華”、“カウンター中華”など様々なブームを生み、大きく進化を遂げた。
その裏には、時代に合わせて柔軟な発想を持ち、挑戦し続けてきた料理人たちの姿がある。
現在の中華の流行を生み出した先駆けの名店4軒をご紹介!
1.フレンチのごとく、少人数多皿で楽しむヌーベルシノワを確立
『トゥーランドット臥龍居』@赤坂
中国料理界のレジェンドである脇屋シェフの出発点、赤坂にある『トゥーランドット臥龍居』は、2011年にオープンした。
1階はテーブル席、2階には個室を設え、気軽なランチや大切な人とのデートから、改まった会食やパーティ、ブライダルまで幅広い用途に対応する、いわば中国料理のグランメゾンだ。
“脇屋イズム”を深く理解する優れた右腕として、開店以来厨房をまかされているのは、Wakiyaグループの統括料理長でもある小澤善文さん。
定番のアラカルトから、4種類のグレードを用意するおまかせコース、さらには季節ごとのフェアの料理といった膨大なメニューを脇屋シェフとともに組み立て、提供する。
最もアイコニックな「九種前菜盛り合わせ」を筆頭に、「トウモロコシの二種仕立て」のようにビジュアルの美しさと季節感とを兼ね備えたモダンな料理群は『トゥーランドット臥龍居』ならでは。
それと同時に「フカヒレの上海風煮込み」に代表される、中国料理といえば、の「乾貨(高級乾物)」も常に最善の状態でスタンバイ。王道を求めるゲストの心も満足させてくれる。
懐深く、あらゆる期待に応える、モダンチャイニーズの巨塔なのだ。
2.ガチ中華とナチュラルワイン。斬新な提案がブームに
『味坊』@神田
2020年代に入りブームの高まりを見せている「ナチュラルワイン」。化学肥料や薬品を使わず、できる限り自然な製法で造られたワインは、多彩な味わいや軽やかな飲み口が支持され、チャイニーズでも扱うお店が急増している。
その先駆けが、神田駅のガード下にある至って庶民的な佇まいの店『味坊』であることをご存知だろうか。
中国東北地方の黒龍江省チチハル出身の店主・梁 宝璋さんが2000年に開いたこちらでは、羊やジャガイモ、発酵白菜を多用した故郷の味が主役だ。
味坊の名物といえば「羊肉串」¥1,600(10本)。
クミンや唐辛子をブレンドした特製スパイスをまとった羊肉の味わいは、特にロゼワインと絶妙な相性をみせる。
その名も「梁さんのおすすめワインプレート」¥1,300。
干し豆腐の燻製、豚耳の煮こごり、牛すね肉の冷製などワインがはかどる品々が大集結。
2011年の夏のある日、日本にナチュラルワインを根づかせた伝道師・勝山晋作さんが店に現れた。
以来、足繁く通っては料理に舌鼓を打ち「この素朴な味わいは自然な造りのワインを飲みたくなる」と、店に置くことを進言。
ほどなく瓶に値段を直書きしたワインを扱い始めると、あちこちのテーブルで個性的なエチケットのボトルが抜かれるように。
中国の郷土料理とナチュラルワイン、一見縁遠いように思えるもの同士のマリアージュをきっかけに、東京のチャイニーズにおけるワインのラインナップが刷新されたのだ。
3.気取らぬカウンターで、本格中国料理を嗜む贅沢さを知らしめた
『吉田風中国家庭料理 ジーテン』@代々木上原
1999年、代々木上原駅のほど近い商店街にオープンし、今年25周年を迎える『吉田風中国家庭料理 ジーテン』。
今ほど飲食店が多くなく、どちらかというと住まうエリアという印象が強かった街に登場したカウンタースタイルのチャイニーズは、たちまち人気を集めた。
実はカウンター中華の始祖は『ジーテン』のオーナーシェフ・吉田勝彦さんの師匠である河田吉功さんと言われている。
吉田さんは、河田さんが料理長をしていた代官山『Linka』で働き、河田さんの後を受けて料理長に就任。
その経験を踏まえ、自身の店もカウンタースタイルにした理由を「お客様との距離が圧倒的に近く、料理へのリアクションがすぐにわかるから」と語る。
料理については、薬膳を学んだり、香港で家庭料理を習得した経験から「なるべく“引く”ことを意識している」という吉田さん。
化学調味料を使わず、油や片栗粉を控えめにしたシンプルな調理法と、素材重視の優しい味わいが魅力。
「板春雨の海老巻き蒸し」¥2,200。
腸粉や春巻の皮ではなく、板春雨にアレンジしたことでエビの食感とのバランスの良さが高まる。
そして、そうした料理をおまかせコースではなく、アラカルトで楽しめる点も、吉田さんの“優しさ”の表れであり、『ジーテン』が長年愛され続ける理由のひとつだろう。
4.枠にとらわれないネオ中華という新ジャンルを創出
『REI Chinese restaurants』@代々木上原
近年、巷に溢れる「ネオ中華」という言葉を世に広めたのが『REI Chinese restaurants』だ。
シェフの高島康弘さんによると「伝統的な中国料理に新たな要素を足したものを“ネオ中華”と呼び発信したのが発端です。半分、冗談で発した言葉でしたが、僕らが表現する料理と妙にしっくりきたんです」と語る。
目指したのは、ホテルの中国料理店のような上質な繊細さと、町中華で感じるようななじみ深い懐かしい味わいの融合。
たとえば、スペシャリテの「よだれ鶏」では、高級中国料理店さながらの丁寧な仕立てで驚くほどしっとりとした肉の舌触りを表現。
これに、自家製ラー油や東南アジアのたまり醤油というべきシーズニングソースや、中国のスナック菓子を用いてなじみ深い味わいに落とし込む。
また、創業以来作り続ける「大根餅 パルミジャーノ」などは、パルミジャーノチーズなど中国料理では扱わないイタリアの食材を用いネオ中華を表現する。
加えて小ポーションの盛り付けにこだわり、少しずつ多種類を楽しめる提案もする。食材から文化まで新たなエッセンスを随所に取り入れた表現に「ネオ中華」の神髄を見た。
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