白杖の男性が横断歩道で困っていても全員が“無視”。3度目の「青」で現れた“意外な”救世主とは

 青信号に変わると「♪ピヨピヨ」や「♪カッコウ」といったメロディが流れる、目の不自由な方に配慮された音の出る信号機。警察庁によると23年3月末時点の全国の設置数は2万1032基だが、歩行者用信号機の総数は約104万基。全体のわずか2%に過ぎない。

 視覚障碍者の方たちに配慮されている状況とは言い難く、実際に音の出ない普通の信号機の前で横断歩道を渡れずに困っているなんて話も珍しくないようだ。会社員の渡部礼二さん(仮名・28歳)も今から1年ほど前、まさにそんな現場を目撃したそうだ。

◆明らかに困っていた視覚障碍者の男性

「ちょうど休日で予定も特になかったため、溜まった一週間分の洗濯物を自宅マンションのベランダに干していました。目の前は幹線道路ではないですが交通量が比較的多い道路で、交差点に白杖を持つ視覚障碍者の男性がいることに気づきました。

 しかし、信号が変わっても歩き出す様子はなく、遠目からでも明らかに困っている様子に見えました」

 問題の信号は音の流れる仕様ではなく男性のことが気にはなってはいたが、そのうち誰か通りかかった人が助けるだろうと思っていたとか。ところが、目の前の通りかかった自転車に乗る主婦らしき女性はそのまま通り過ぎてしまい、別の若い女性グループも素通り。

 横断歩道の向かい側から歩いてきた若者は、立ち尽くす男性を気にも留める様子はなかった。

◆「急いでる感じじゃない」歩行者たち

「さすがに唖然としました。若者に関してはスマホを見ているわけでもなく普通に歩いていましたから。自分がいたベランダから交差点までは50mほど離れていますが、私の視力は2.0だから見間違うことはないはずです。

 絶対に男性が白杖を持っていたことはわかっていたと思うんですよね。特に若者は私と同じ20代だと思いますが、コンビニ帰りなのかビニール袋をぶら下げ、恰好もTシャツ短パンにサンダルと完全な普段着。どう考えても急いでる感じじゃない。

 僕自身、普段から積極的に人助けをするタイプではないですが、さすがにこの時はすごくモヤモヤしました」

◆助けたのは自身も杖をつく、白髪の年配女性だった


 すでに白杖男性は青信号を2回やり過ごしており、自分がその場に行って助けようと決意。ところが、ちょうどその時、1人の年配の女性が彼に話しかける様子が見えたそうだ。

 すると、次に信号が変わった際、2人は一緒に横断歩道を歩き始める。向かい側の歩道に渡った後、男性は何度も女性に対してお礼を述べていたのか頭を下げていたという。

「ようやく渡ることができたのを見ていてホッとしましたが、彼を助けた女性も杖をついていたんです。白杖ではなかったですけど、彼女は白髪で見たところ70~80代。

 その行動には心から尊敬しますが、この方より若くて見た目も健康そうな人たちが全員スルーしたという現実がすごい皮肉だなって」

 ただし、同時に自戒の念にも駆られたとか。

◆自分が現場に駆け付け、助けるべきだったと後悔

「健常者は最初に信号が切り替わった時点ですぐ横断歩道を渡れますが、男性は助けてくれる人が現れるまでその場から動けなかったわけです。そして、その事実に私も気づいていた。ウチのマンションから目と鼻の先ですし、2~3分あれば行ける距離です。

 けど、私は自分の洗濯物を干すのを優先し、その間は男性のことは気になりつつも作業を中断して現場に駆け付けるって選択は取らなかった。ほかの人も同じ状況なら私のように傍観したのかもしれませし、気にしすぎかもしれません。

 ただ、亡くなったじいちゃんに生前、『困っている人を助けられるような人間になりなさい』と口癖のように言われていたのを思い出しちゃって……」

◆取引先に向かう途中、白杖を持った女性に遭遇


 次こそはと思いつつもなかなか機会はなかったが、数か月前に取引先の会社に向かう途中、白杖を持った女性に遭遇。そこも音の鳴らない信号機だったので声をかけ、青信号になったタイミングで一緒に渡ったそうだ。

「正直、私はその信号を渡る必要はなかったですが、今度はちゃんと助けなきゃと思ったんです。すごく丁寧にお礼の言葉を言われたから恐縮しましたが、今度は自分が直接助けることができたからよかったです。まあ、取引先には時間ギリギリの到着になってしまい汗だくでしたけどね(笑)」

 困っている人を見かけても「きっと誰かが助けてくれるはず」と他力本願で考えてしまうことは少なくない。でも、そんな時こそ自分から積極的に声をかけ、行動を起こすべきなのかもしれない。

<TEXT/トシタカマサ>

―[世知辛い世の中]―

【トシタカマサ】

ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。