東京ディズニー、3300億円「クルーズ船」就航へ。寄港地“有力候補”だけじゃない国内への影響

 クルーズ船と聞いてピンと来ない方も多いかもしれませんが、2020年3月のコロナの影響により運行が停止した世界中のクルーズ観光需要が完全に回復しており、今後さらに盛り上がることが期待されます。

 実際、世界のクルーズキャパシティ(ベッド数)は年々に増加しており、その数は2020年59万、2024年67.7万、そして2028年には74.5万までベッド数が増加することが見込まれています。

◆需要回復が期待されるクルーズ観光

 またクルーズ観光の特徴として、他の観光・旅行業よりも回復が早く、2023年のクルーズ旅客数は2019年の107%に達しています。

 ちなみに日本に限って言えば、訪日クルーズ旅客数のピークは2017年の252.9万人であり、2023年の利用客は35.6万人であったため、昨年時点ではピークに対して約14%程度しか回復しておらず、海外よりも回復が遅れているのが現状です。

 とはいえ、国土交通省の観光立国推進基本計画によれば、2025年の目標値を250万人としており、今年から来年にかけて大きな需要回復が見込めることが期待されています。こうした国内クルーズ事業の回復期に大きな追い風となることが期待されるのが、2028年に就航予定の「ディズニー・クルーズ」です。

◆2028年就航予定のディズニークルーズ

 2024年7月9日に東京ディズニーランドなどを運営する「オリエンタルランド(4661)」がクルーズ船事業に参入することを発表しました。

 そもそも日本のテーマパークのパイオニア的存在であるオリエンタルランドは、米ディズニーと提携する形で東京ディズニーリゾートを運営していますが、こうしたテーマパークやホテル事業に次ぐ第三の事業の柱として成長を目指すのが「ディズニー・クルーズ」なのです。

 今回の発表によれば投資額は約3300億円です。これは開園時のディズニーシーとほぼ同額であり、その本気度が投資金額にもハッキリと示されています。

◆価格は30万円!売上高約1000億円を見込む

 造船されるのは最新客船「ディズニー・ウィッシュ」(全長341.1メートル)の姉妹船にあたり、総トン数約14万トンの大型クルーズ船になる予定です。総客室数は約1250室、乗客約4000人、乗組員約1500人、合計約5500人を乗せて運ぶことが想定され、ドイツの老舗造船所マイヤー・ベルフトが建造を担当します。

 ちなみに現在、日本国内最大のクルーズ船は「飛鳥II」です。このクルーズ船は全長241メートル、総トン数50142トン、乗客定員は872名であり、いかに「ディズニー・クルーズ」が日本籍船で規格外の大きさなのか、数字からも実感するのではないでしょうか。

 オリエンタルランドによると、就航から数年後には年間乗客数約40万人規模で売上高約1000億円を見込んでおり、まずは首都圏の港からの2~4泊程度の短期旅行を予定し、想定価格は10万~30万円ほどを想定しています。その後は国内外を含めた航路を検討中とのことです。

◆ディズニー・クルーズの寄港場所はどこ?

 ディズニー・クルーズの就航が日本のクルーズ事業の発展を促すということは、同時にクルーズ船の寄港場所が活性化することになります。なかでも寄港先として有力なのが「東京国際クルーズターミナル」と「横浜港」です。

 例えば羽田空港や品川・東京駅、東京ディズニーリゾートの最寄駅である舞浜駅、そのどこからも車で30分圏内にあるアクセスの良さが「東京国際クルーズターミナル」の魅力です。

 また「横浜港」は外国クルーズ船が日本で最も寄港するなど、東京の外港として発展してきた港です。約4000人という乗客が頻繁に利用することを考えれば、寄港先の都市には、それを見込んだホテル観光業などが発展することが容易に想像されるため、誘致合戦も含めた今後の展開が気になるポイントです。

◆邦船大手もクルーズ事業に積極的

 近年、世界的な観光需要の回復が見込まれる中、邦船大手のクルーズ事業への投資は拡大しています。例えば日本郵船グループの郵船クルーズは、2025年夏にクルーズ船「飛鳥III」(5万2200総トン)の就航を予定しています。また商船三井グループの商船三井クルーズも、3万5000総トン級の新造クルーズ船2隻を2027年までに就航させる計画を進めています。さらに同社が新たに購入した「MITSUI OCEAN FUJI」(3万2477総トン)が2024年12月から運航を開始する予定です。

 ちなみに「飛鳥III」は日本初のLNG燃料クルーズ船であり、環境面からも今後のトレンドになることが予想されます。なぜならLNG燃料を使用することで、従来の重油焚きと比較して約30~40%もCO2削減が期待できるからです。

 LNG燃料とは、油田などから産出される気体の天然ガスを約−162度で冷却し、容積を600分の1にしたものを指します。2023年の世界LNG輸出国は1位米国(85.1MT)、2位オーストラリア(81.4MT)、3位カタール(79.5MT)、4位ロシア(32.0MT)と続いていきます。

 日本で供給されている大半のLNGは外国船で輸入されているため、円高だと安く仕入れることができる一方、円安になると仕入れ価格が高騰するリスクもあり、この場合クルーズ観光の価格にも反映されることが予想されます。

◆オリエンタルランドの株価

 ここまでディズニー・クルーズや邦船大手の動向について解説してきましたが、オリエンタルランド、日本郵船、商船三井の直近の時価総額や株価なども見ていきましょう。なお数字は執筆時点(2024/8/8)のものとさせていただきます。

【オリエンタルランド】

・時価総額 約7兆2992億円

・株価 4014円

・自己資本比率 70.067%

・PBR 6.88倍

・PER 54.5倍

・配当利回り 0.34%

 オリエンタルランドの自己資本比率は、70.067%と非常に高く、財務の安定性がうかがえます。自己資本比率が高い企業は、借入金に依存せずに運営していることを示し、長期的な成長や困難な経済状況でも持ちこたえる能力があると言えます。

 PBRが6.88倍と非常に高い(PBRの目安は1倍)です。これは市場がこの企業を高く評価しており、将来的な成長性に期待が込められていることを示します。ただし、PBRが高い場合、株価が過剰に評価されている可能性もありますので、四半期決算などの数字を把握しておくことが重要になるでしょう。

 PERが54.5倍と非常に高い値(PERの目安は15倍)を示しています。一般的にPERが高い企業は成長期待が高いとされますが、この値が高すぎる場合は市場が企業の利益成長を過度に期待している可能性があります。PERが高い企業は、利益が予想を下回ると株価が急落するリスクがあるため、高い期待に見合った事業成長率を続けていける企業であるのかが重要になるでしょう。

 配当利回りは0.34%と低いです。配当利回りが低いことは、企業が配当よりも内部留保や再投資に重点を置いていることを示しています。高成長企業に多い傾向ですが、配当を重視する投資家にとっては魅力に欠けるかもしれません。

◆日本郵船の株価

【日本郵船(9102)】

・時価総額 約2兆1118億円

・株価 4596円

・自己資本比率 62.292%

・PBR 0.78倍

・PER 5.3倍

・配当利回り 3.48%

 日本郵船の自己資本比率は62.292%と高く、財務の安定性が高い企業です。自己資本比率が高い企業は、負債に依存せずに事業を運営していることを示しており、経済の変動にも強い耐性を持つと言えます。

 PBRが0.78倍と低めです。これは市場が企業の純資産価値に対して割安と評価していることを示します。一般的に、PBRが1倍を下回る企業は市場に過小評価されている可能性があり、投資家にとって割安な投資機会となることがあります。

 PERが5.3倍と低めです。一般的に、PERが低い企業は利益に対して株価が割安であると評価されます。この企業は安定した収益を上げており、現在の株価が割安である可能性が高いです。とはいえ、今後の事業成長率があまり期待されてないという言い方もできるでしょう。

 配当利回りが3.48%と高めです。これは、投資家にとって魅力的な配当収益を提供していることを示します。高配当利回りは、安定したキャッシュフローを持つ企業に多く見られる一方、高い事業成長率がないため配当を重視することで投資家を呼びこもうとしているとも言えます。

◆商船三井の株価

【商船三井(9104)】

・時価総額 約1兆7004億円

・株価 4692円

・自己資本比率 57.125%

・PBR 0.66倍

・PER 5倍

・配当利回り5.96%

 商船三井の自己資本比率は57.125%とやや高めで、財務の安定性が比較的高い企業です。自己資本比率が50%以上であれば、健全な財務状況と考えられます。

 PBRが0.66倍と非常に低いです。これは市場が企業の純資産価値に対して大幅に割安と評価していることを示しており、投資家にとって割安な投資機会となることが多いです。PERが5倍と低めです。PERが低いことは、利益に対して株価が割安であると市場が評価していることを示します。

 配当利回りが5.96%と非常に高いです。これは、企業が投資家に対して魅力的な配当を提供していることを示しています。高配当利回りは、安定したキャッシュフローを持つ企業や利益を積極的に配当に回す企業に見られます。配当を重視する投資家にとっては非常に魅力的な銘柄のひとつといえるでしょう。

◆国内の観光業全体にもポジティブな影響

 オリエンタルランドのディズニー・クルーズ事業は、強力なブランドを持つ企業が参入することを意味します。これは従来の国内クルーズ事業にはなかった新たな魅力です。当然、他社もさらに独自性を打ち出し、自社ブランド力の強化を進める動きが活発化することが予想されます。

 また国内外の寄港地には新たなビジネスチャンスがやってくるので、多くの旅行関連のサービスが生まれていくはずです。

 なにより旅行者にとっては多様な旅行プランは歓迎され、インバウンドの集客にもつながることが期待されるため、ディズニー・クルーズが新たな風を吹き込み、国内の観光業全体に対してもポジティブな影響を与えることになるでしょう。

<TEXT/鈴木林太郎>

【鈴木林太郎】

金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist