人間というのは身勝手なもので、頭では理解しているのに気持ち的に割り切れないということも少なくないようだ。今回は、「僕が恥をかかないよう、必死でサポートしてくれた彼女への疑念が消えずに困っています」と話す、出口博光さん(仮名・32歳)に話を聞いた。
◆恋愛へのトラウマ
同じ職場でモテモテだったH奈さん(26歳)に告白されたことがキッカケで、お付き合いをはじめることになった博光さんだが、実は未経験。昔もいまも、女性からは“イケメン”などとチヤホヤされてはいるが、学生時代のトラウマを引きずり続けていたのだ。
「高校時代に好きだった女の子と付き合って幻滅され、あることないこと噂を流されたことが原因で奥手になっていたのです。それからは、女性が怖くて付き合えずにいました。そんな僕の心を、自然なやさしさや振る舞いで解きほぐしてくれたのが、H奈さんです」
お付き合いにまで発展したこの恋を、大切にしたいと思っていた博光さん。職場恋愛は禁止という会社のルールがあるため、付き合っていることは2人だけの秘密だが、いずれは結婚したいとまで考えていた。
◆これ以上は待たせられないと決意
「そういった事情もあり、H奈が他の男性社員などに話しかけられたり、ちょっかいをかけられたりするたびにヤキモキするしかありません。結構なストレスでしたが、H奈は僕の気持ちを察して、男性社員とは距離をとりながら接してくれるようになりました」
そんなH奈のためにも“2人のはじめて”を乗り越えたいと考えた博光さんは、付き合ってから半年以上経ったある日、ラブホに誘うことを決意する。お互い実家暮らしだったこともあり、後回しにしてきたが、いよいよという雰囲気。これ以上は待たせられないと腹を括った。
「その日から、スマホでゴムの付け方やシチュエーションなどを検索。自分なりに学び、実践の日がやってきました。デートのあとにお泊りをしようということは事前に伝えてあり、人気のあるラブホを2人でネット検索。不安と同じぐらいワクワクしていました」
◆初めてのラブホに緊張
食事を終え、ラブホテルへ。雰囲気を壊さないよう順調に服を脱がせ、愛撫も頑張った。ところが、いざゴムを付ける段階になると、緊張して思うように装着できない。「また、高校生のときの彼女みたいに、幻滅させてしまうかもしれない」と、ピークに近づく焦り。
「そして高校時代の嫌な思い出が蘇ってきたとき、H奈がサッと僕の手からゴムを取り、それを自分の口に入れました。そして、やさしく口でゴムを装着してくれたのです。そのセクシーな姿にも大興奮。そのときは、初めてにもかかわらず、かなり燃え上がりました」
ただ、あとからネットで調べてみたところ、口でゴムを付けるのは余程のテクニックが必要だということが判明。「口でゴムを付けてくるなんて……相当な経験者? それとも、プロ?」と疑念が突如わきあがってしまう。
◆口で“シテ”くれた彼女への疑念
「彼女への疑念は膨らむばかりで、男性社員と上手に距離をとってくれている姿さえも、『なんだか慣れているな』とか『やっぱり、そういう店で働いている? 働いていた? プロフェッショナルなの?』とか、無意識に最低なことばかり考えてしまうんです」
そして行為のたびにモヤモヤは続き、結婚を考えていた気持ちも嘘のように薄れてしまったという。ラブホテルでの嫌な思い出として刻まれてしまった “2人のはじめて”を、いつかはいい思い出に変えたいと話す博光さん。
「でも、どうしても気持ちが整理できずに困り果てています。僕が恥ずかしい思いをしないようフォローしてくれただけなのに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。頭では理解しているのに気持ちがついていかないのです」
自責の念に苛まれ続ける博光さんは、「はじめてのラブホでトラウマ級の嫌な思い出ができてしまい、悲しいです」と苦しい心のうちを話してくれた。本人に直接聞くわけにもいかず、ラブラブの楽しい時間を過ごせるはずのラブホも、人によっては苦い思い出の場所として刻まれていることもあるかもしれない。
<TEXT/山内良子>
―[ラブホの珍エピソード]―
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意