ローファーはなぜ靴擦れするのか?“足が痛くならない方法”をプロが指南

こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

ローファーを履いて靴擦れをしたり、足が痛くなった経験のある方は多いと思います。名前の由来のとおり、「ローファー=怠け者=脱ぎ履きしやすいだけの靴」です。正直言って、そもそも長距離を歩くための靴ではないのでこれは仕方ありません。では、選び方にコツはあるのか? それは、まず第一に「履いた瞬間に痛くない」。そして、次に「底の返りがよい」ことが大事です。 

◆履いた瞬間に「痛い」はNG

シューフィッターの経験上、革はなじむ・伸びるとはいっても程度に問題があって、ローファーはしょせん「高級つっかけ」なので、足になじませて履くような靴ではありません。履いた瞬間に違和感のあるものを選んではいけません。何か当たる感触も甲やカカトだけでなく、サドルと呼ばれるストラップの付け根も要注意。手縫いでぐるぐる巻いている場合、ここにも当たったらアウト。

また、紐靴のように単純に「幅」「サイズ」という数字がほとんどあてにならないので、試着せずに買うのは論外だと思ってください。履いて、数歩歩いたファーストインパクトがすべてです。「ちょっとゆるくて、どっか当たるかも」は即NG。「ややタイトでカカトが脱げない」は合格です。

◆曲がりやすさが最重要、ド定番はやはり「BASS」

次に、「底の返り」ですが、マッケイ製法を選ぶのが正解です。靴の本体と底をぶち抜きで縫った靴のことですが、その分「底の返り(曲がり)」がよく、足の動きに食いついてきます。具体的には、アメリカのG・H・BASS。「ウィージャンズ」というモデルが世界的に有名です。


お値段も3万円台と、本格靴にしては良心的。ローファーの元祖と名高いメーカーの名モデルです。革底の裏に縫い目が見えますが、これが本体と直接縫われているので、靴の中をのぞくと中からも糸が見えます。

足の動きに本当によくついてくるので、短期間でどんどん履きやすくなるのが特徴です。筆者は15年ほど靴のリペアにも携わりましたが、BASSが変な壊れ方をしているのを見かけたことがありません。それほどに完成されたローファーだと言っていいでしょう。

本格靴にありがちな「グッドイヤーウェルテッド製法」に比べ、マッケイ製法はつくりがシンプルなので安く見られがちですが、そんなことはありません。むしろ足の細かい動きについてくるぶん、小股でピッチが速い日本人の歩き方には最適な製法だと断言します。かのマイケルジャクソンも「スリラー」のPVではマッケイ製法の靴を履いています。

また、糸が数か所切れたところで「ねじりながら縫っている」ので、底剥がれの心配はなく、本体そのものも革の袋状の「リアルモカシン」でできているので、履き心地はさながらソックスのようで、グッドイヤーにはできない製法なので、ローファーを選ぶならマッケイ製法がいいでしょう。

ただしBASSの場合はマッケイ製法とはいえ、体重の重い外国人を想定しているので、作りは全体的に硬めです。履きならすのに1か月程度は見ておく必要があります。

◆令和の進化系の逸品リーガル「61FL」

その点、筆者が今年ナンバーワンの出来だと思うのが国産メーカーの雄、リーガルの「61FL」です。設計は日本、生産はタイで、コストは抑えつつこのクオリティはヤバい。履き心地と雰囲気だけなら確実にBASSを超えています。これで2万6400円は破格でしょう。


見た目は完全にBASSのウィージャンズなのに、底を革からビブラムソールにすることで、返りがさらによくなっています。マッケイ製法ですが底を2重にすることで糸を完全に隠しています。至近距離から観察しても、2重底とわかりません。本当に底の返りがよく、木型の設計だけでなく、全体のつくりを見直すことで歩きやすさをアップさせています。

BASSと比較すると、足を入れて数歩歩くと、履き心地に雲泥の差があります。「革の靴下」とはこういうことだったのか、と。当たり前にゴム底なのでグリップがいい。クッションも革よりソフトで、ビブラムなのでタフ。なにより現代の日本人向けに甲が低く抑えられていて、紐靴を履いているかのような締まり感があります。アッパーの素材はBASSとおなじ「ガラスレザー」という光沢のある天然革ですが、裏の革を排除した構造で、蒸れることがまずありません。BASSを令和版にアップデートした、今年一の隠れた名作と断言します。

◆ビジネスにも使えるコスパ最強の上品ローファー鞆ゑの「TE00Y」

日本のメーカーからもうひとつ。鞆ゑ(ともえ)の「TE00Y」はカジュアル過ぎず、ビジネスシーンでもまったく違和感なく使えます。とにかく上品。

トウがわずかに長い「ほんのりロングノーズ」で、スラックスとの相性は完璧です。表面の牛革はステアと呼ばれる肉厚な大人の牛で、さらにマシーンで圧をかけることでシボを再現し、2万円台とはまったく思えない外観です。型押し革とも呼ばれますが、天然革なのに本当に手入れがしやすい。乱暴な表現ですが、気が向いた時にクリームを塗れば終了。人に踏まれた、トランクにひかれたとかで、かなり深い傷が入っても、クリームを塗りさえすればまったくわかりません。これが型押し革の醍醐味です。

ソールは一見革に見えますが、アスファルトでも滑りづらいゴム底に滑り止めを一体化させた凝りよう。靴の中もインソールの下に「内ふまず・外ふまず」を正確にサポートするパッドが入っており、見た目の華奢さと場逆の履き心地に、誰でも足元を二度見するでしょう。

◆1日中歩く方や、立ちっぱなしの人はローファー自体が選択ミス

本格革靴のローファーが欲しいからと言って、いきなり4万オーバーはかなりリスキーです。フランスの某名門メーカーは「修行」などといって超タイトなローファーを数か月かけて一生モノの足形に育てるといった話も有名ですが、けして初心者向きではありません。

1日中歩く方や、立ちっぱなしの仕事には、そもそもローファーを選んではいけません。甲の調節が効かないので、歩くとどこかに無理がくる。紐を結ぶのが面倒、でもたくさん歩く、という方はバックルで調節の利く「モンクストラップ」を選んでみてください。バックルの裏にゴムもついているので、靴ベラでズボっと履けて、長距離を歩くのも苦ではありません。ローファーはあくまでおしゃれ靴。買ったはいいけど、足が痛くなるので結局履かない、なんてことにならないように気をつけましょう。

【シューフィッターこまつ】

こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」