お気に入りのレストランに行くとき、意外と迷うのが洋服選び。
もちろん自分が一番きれいに見えて、気分があがる服がいい。さらに欲をいえば自分の個性が透けて見えるような、とっておきの一着を身にまといたいもの。
そこで本連載では、都会のグルメシーンを彩るファッションを紹介する。
今回登場するのは大手金融機関に勤務する鈴木さん。彼女が選ぶ思い出のレストランと装いを見ていこう。
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写真/品田健人
東京都出身の鈴木さん、39歳。学習院大学を卒業後、金融機関の営業職に従事。本業のほかコールドプレスジュースブランドのディレクターを務める。
学生時代は女性アパレルブランドでアルバイトを経験し、社会人以降は洋服好きが高じて女性ファッション誌の読者モデルとして活躍。よく行くエリアは表参道、代々木上原。趣味は茶道。
付き合う前の誕生日ディナーデートで…
@『一平飯店』
彼女が選んだ思い出のレストランは、麻布十番の裏通りにひっそりと佇む中国料理『一平飯店』。
料理長の安達一平さんは、20年以上広東料理を作り続けるその道一筋の凄腕。本場香港で2年半の修行を積んだのち2022年に『一平飯店』オープンし、2年連続ミシュラン一ツ星を獲得するなど、その名声は瞬く間に広がった。
そんな同店と鈴木さんの出合いは今年3月。39歳の誕生日祝いで、デートで訪れたのがきっかけだった。
「当時好きだった人に連れていってもらった思い出のお店です。私の誕生日をお祝いしてくれることになり、お店の候補を3つくらい伝えた上でここ『一平飯店』の予約をとってくれました」
鈴木さんのオススメは、同店のおまかせコース(¥27,500)。「美味しいものをちょっとずつ、でもたくさんの種類を食べたい。そんな女子の夢が叶う場所です」と絶賛する。洗練された中華に舌鼓を打ちながら、彼と話した内容はというと――。
「同じ金融系に勤める方で、新しいプロジェクトや彼個人のビジネスの話をしましたね」
ちなみにその後、彼との関係は…?
「結局付き合いませんでした。いいなあと思っていたんですけど……片思いだったかな(笑)」
そんな彼女の甘酸っぱい思い出の地で“デート服”にフォーカス!
私の名店服①
黒ジャケット/「サンローラン」
誕生日デートの装いのテーマは「華やかで清楚。でもどこかに格好よさもプラス」。
シンプルなモノトーンながら女性らしさも醸す彼女のコーデ術は、すぐまねしたいものばかりだ。
「お洋服好きな女性は誰しもが憧れるのでは」と鈴木さんが太鼓判を押すのが「サンローラン」の黒ジャケット。彼女自身、大学生の時からいつか欲しいと思いを馳せていたとか。
「上質なジャケットを買うなら絶対『サンローラン』がいいなと思っていたんです。女性の曲線美をうまく演出してくれる名品で、昨年清水買いした一生もの。
シーズンごとに、全体のサイズ感や肩、襟のデザインが違うものなどが出るのでよくチェックしていましたが…。こちらはお店で見たときにすごくしっくりきたんです」
レストランに行くときや仕事の商談時など、オン・オフ問わず着用できる一着。「思い切って買って良かった!」と振り返る。
私の名店服②
ワンピース/「HERITANOVUM(ヘリテノーム)」
白のオーガンジー素材のワンピースはセレクトショップ『ガリャルダガランテ』で出合い、一目惚れで購入した。ブランドは「ヘリテノーム」のものだ。
「営業をしているからか、すっきりとして見える白いお洋服が大好きなんです」と語るが、それは仕事だけでなくレストランへ行くときも同様だ。
「食事をする際に視界に入るのは、基本上半身のみ。そのためトップスは明るくて華やかなものがマスト。白はレフ板効果で顔色が明るく見える効果もあるのでは!?」と分析する。
一方、ふわっとしたオーガージー素材の白いワンピースは甘い印象になりがち。前述した黒いジャケットで引き締めて“足し引きコーデ”を意識した。
お気に入りのポイントは、肌の透け感がある素材感。それでいて生地の切り替わりが上品でセクシーになりすぎないのは、大人の女性としては嬉しいところ。
さらに「食事で長時間座ってもしわにならないところもお気に入りです」と教えてくれた。
私の名店服③
トリニティ ピアス/「カルティエ」
「気になる彼とのデートだったので、ピアスは男性ウケのいい揺れるタイプをチョイスしました」と、耳元には「トリニティ ピアス」が光る。
こちらのタイプは惜しくも廃盤となっているが、メゾンを象徴するシリーズ「トリニティ」は不朽の名品として絶大なる人気を博する。
それは購入から10年が経っても高頻度で使用している彼女を見ても、言わずもがな。
ホワイト、イエロー、ピンクの3つのゴールドが絡み合い揺れるさまは美しく、顔周りを華やかに包み込んでくれる。
「ドレスダウンよりドレスアップ」
金融営業という職業柄か「ファッションはTPOをとても大事にしている」と鈴木さんは話す。
「お洋服選びは、自分のテンションが上がることが一番大事。ですが、空間とファッションのバランスはかなり気を付けています。
マナーも含めてそういった気遣いがちゃんとできる人は、周りにもいい印象を与えられると思うから。TPOを踏まえて見せたい自分を演出し、お洒落を楽しんでいます」
というのも最近「平服でお越しください」というオーダーに対し、どんな服装で訪問するのが正解なのか、友人と議論したばかりだという。
気になる彼女たちの結論はというと「ドレスダウンよりドレスアップ」。カジュアルすぎる服装で失敗をするくらいなら、気持ちアッパーに着こなしをするべきだということだ。
場の空気を捉えながら、自分なりの個性や美意識をいかに発揮できるか。そんな技術を磨くのもまた“名店服”を楽しむ醍醐味かもしれない。
◆
鈴木さんはお気に入りの装いで『一平飯店』でデートをしたことで、彼からも「可愛いね」の一言をゲットしたとか。
「女性らしいファッションを着用すると所作をも優雅にしてくれるので、ここぞというときには好きなお洋服を手にとります。
お気に入りのものに包まれていると、それだけで満足度が高く、さらに機嫌がよくなるので口角が上がりますね」と鈴木さん。
デート服に悩む女性読者の諸君、これこそモテのヒントであり、リアルな指南書だ。
私の思い出のレストラン
『一平飯店』@麻布十番
美味なる中華を求めて、都内だけでなく地方へも赴くという正真正銘“中華ツウ”な鈴木さん。
巡った中国料理店は優に100軒を超えるが、その中でも上位に君臨したのが『一平飯店』だった。
季節食材のおまかせコース(¥27,500)は訪れるたびに変化する料理が目玉だが、通年マストの同店一番のこだわりは「上湯(ショントン)スープ」だ。
鶏肉や金華ハムなどの贅沢な食材を使用し、沸騰をさせずに毎日6時間煮込むクリアなスープが、あらゆる料理の土台を作っている。
シグネチャー料理「スープ蒸し餃子」にもこの技が光る。さらにすっぽんや高麗人参など栄養たっぷりの15種ほどの乾物がスープと餃子それぞれに入るため、翌日は肌がぷるぷるに。
目の前に現れるのは、鹿のアキレス腱や魚の浮き袋など、あまり見たことがない珍しいものばかり!
「クラゲの冷菜」は千切りしたクラゲときゅうり、新生姜に加え、発酵レモンが夏らしく爽やかに彩る。
「仔豚の2種炭火焼き」はパリパリの皮がやみつきに。北京ダックのようなクリスピーな食感だ。
肉と皮の間には甘味噌と、エシャレットのタルタルが挟まりアクセントになる。そのまま手でパクっといただこう。
地鶏を一羽まるごと使用した「香鶏の丸揚げ」。ジューシーな骨付き肉の上は、パン粉とニンニク、ココナッツパウダーを揚げた食感のいいふりかけで華やかな印象だ。
安達シェフが最も重視するのは各皿の“温度と香り”。広東料理を中心とした15品前後が登場するおまかせコースは、最初から最後までメロディーを奏でるかのような構成が特徴だが、シェフの繊細な工夫が散りばめられている。
さらに月に数回は『夜香港(イエ・シャンガン)』と店名を変えて、大皿料理の店になる営業スタイル。よりディープな本場の料理を堪能したいときは、こちらもぜひチェックしたい。
麻布十番の地に溶け込むように存在する、上品で洗練された中国料理をいただける『一平飯店』。
デートで訪れればひとたび満足な夜が約束されるはずだ。
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