“秘書給与詐取疑惑”の広瀬めぐみ議員が辞職… 不祥事を起こした国会議員を「国民が辞めさせる制度」導入の是非は?

秘書給与を詐取した詐欺容疑で東京地検特捜部の捜索を受けた広瀬めぐみ参議院議員(岩手選挙区・自民党を離党)が15日午前、辞職した。広瀬氏の場合は家宅捜索が行われてから約半月での辞職だったが、議員のなかには、不祥事や疑惑があっても辞職しない人も多い。そのような国会議員を有権者が直接辞めさせることができるか。国会議員秘書と市議会議員の経歴をもつ、三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に解説してもらった。

国会議員を「辞めさせる」方法は?

まず、国会議員を辞めさせる方法はあるのか。現行の法制度上、議員の身分を失わせることができる制度は以下の2つである。

①議員の資格争訟裁判(憲法55条) ②議員に対する懲罰権(憲法58条2項)

これらはいずれも「議員」ではなく「議院」、つまり衆議院と参議院それぞれの権能として定められている。

まず、「①議員の資格争訟裁判」は、議員になる法的資格に問題があるケースに限られている。たとえば「実は日本国籍を有していなかった」や、「実は被選挙権が認められる年齢に達していなかった」などの、容易には想定し難いケースである。しかも、議席を失わせるには出席議員の3分の2以上の多数による議決が要求されている。

次に「②議員に対する懲罰権」は、その議員が「院内の秩序」を乱した場合に限られており、かつ「除名」は出席議員の3分の2以上の多数による議決が必要とされる。

三葛弁護士:「いずれも厳格な要件が定められています。

その最大の理由は、議院の多数派が少数派の議員を容易に追い落とすことができないようにするためです。

国会議員は多数派でも少数派でも、国民の直接選挙によって選ばれた『全国民の代表』であることに変わりはありません(憲法41条)。議院に多数の議席を有しているからといって、簡単に少数派の議員の身分を奪えるとなると、『全国民の代表』として職責を全うすることが不可能になります。

だからこそ、議院が議員を辞めさせることができるのは、法的な資格がない場合や、議院の秩序を乱した場合に限られています」

三葛弁護士は、記憶に新しいケースとして、2023年のガーシー(東谷義和)元参議院議員の例を挙げる。

三葛弁護士:「ガーシー氏は、選挙で当選したものの国会に一度も登院しませんでした。これに対し、参議院は議場での陳謝を求める処分をしました。それでもガーシー氏が登院しなかったため、最終的に除名処分を下しました。

国会議員に求められる仕事は、議場に出席して審議し議決することです。ガーシー氏はその仕事を一切しなかったので、懲罰の対象となるのは当然だったと考えられます」


広瀬めぐみ前議員の事務所があった参議院議員会館(soraneko/PIXTA)

国会議員に「リコール」の制度がない理由

同じ議員でも、地方議会の議員については有権者による解職投票(リコール)の制度がある。しかし、国会議員についてはリコールの制度は存在しない。なぜか。三葛弁護士は、その理由を3つ挙げる。

三葛弁護士:「第一に、有権者の人数が大きくなりすぎて不適切だということが挙げられます。

第二に、国会議員は選挙区からの選出議員であっても、あくまでも『全国民の代表』という位置づけなので(憲法41条)、その議員の選挙区だけで決めるのは不適切ではないかという問題があります。

第三に、党派性を帯びやすくなり、前述した多数派による少数派の追い落としのおそれがあります。

つまり、国政を左右する立場の人について、国会の多数派が国民の悪感情を煽って『辞めさせよう』とするなど、悪用される可能性が否定できません。

特に、本人が疑惑や不祥事を認めてない場合には、人民裁判のような形で辞めさせるべきではないという問題があります」

「公金の不正流用」等に限ってリコール制度を合憲とする見解もあるが…

この点について、憲法学者のなかには、上述した「少数派の追い落とし」の問題と関係ないケースに限り、リコールの制度を導入しても憲法に違反しないとする学説が見受けられる。たとえば、国会議員が使途を定めて給付された費用を私的流用した場合などである。

この見解によれば、今回の広瀬議員のようなケースについてリコール制度が認められる余地があるといえそうだが…。

三葛弁護士:「その見解の趣旨は理解できます。しかし、いったんそのようなリコール制度を認めてしまうと、多数派によってこじつけ的に悪用される危険性は否定できません。

結果として少数派の議員が追い落とされる危険を招いてしまわないか、疑問があります」

現状では、有権者が直接的に国会議員を辞めさせる法的手段はない。それは、多数派による反対派・少数派の抑圧を防ぐ要請があることを考慮すれば、やむを得ないことと考えざるを得ない。

議員・政党に自浄作用を促すには、我々有権者一人ひとりが、選挙を通じた民主的コントロールを実効的に及ぼす必要がある。つまり、候補者を吟味したうえで投票を行い、議員としての活動をチェックし、それを基に次の選挙で投票行動を決める。口にするのは簡単だが、実行することは難しい。

18世紀に「社会契約論」を著したフランスの啓蒙思想家ルソーは、代表民主制の問題点について、「有権者は議員を選挙する間だけは自由だが、議員が選ばれてしまうと奴隷となる」と喝破(かっぱ)した。この指摘は、政治不信が深刻化しているといわれるなか、今日を生きる私たちにとってもきわめて深刻かつ重要なものといえる。